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ねこはどこだ?  作者: nasuda
2/12

一 猫の手も借りたい

刑事で上司で恋人の楡松明希警部が猫になってしまった、突然の事に嘆き悲しむ関根環巡査部長。果たして明希は人に戻れるのか?

「関根君、ちょっといいかね?」

 お昼休みが開けた頃の事だ。

 誰もいない明希のデスクを見ながらため息をついていると、課長から呼び出された。  あたしは、明希のデスクに置いていたリュックを手に取ると、課長が手招きする会議室に向かった。

 ざわざわ。

 どう言う訳か、今日は署内のどこに行ってもざわざわされる。

 やはり、行く先々で猫の寿命が二十年と泣いていたのが原因だろうか?

 あたしは関根環。刑事課所属の巡査部長だ。

 上司で恋人の楡松明希警部とは、席を並べて働いているが、その彼女は今や猫だ。

 猫になってまったのだ。

 仕事上の都合で同居している事にしているが、実際は恋人同士の同棲生活だ。

 仕事のリズムがほぼ同じなので、生活のリズムがすれ違わないので最高なのだが、いくら世間が進んでいても、同性カップルは敬遠されがちだし、第一付き合ってるのがバレたら異動させられかねない。

 異性のカップルでも職場を離す仕事なので、あたし達の事は絶対に秘密だ。

「失礼します」

 会議室に入ると、課長は困惑しきった顔で待っていた。

「まあ、座りたまえ」

「はい、失礼します」

 なるべく殊勝に見える顔をしながら、あたしはリュックを抱いて座った。

「楡松警部の事だが、残念と言うか何というか……気を落とさないで欲しい」

「はい、え、いや猫の寿命は二十年ぐらいだそうですし。最近は、三十年ぐらい生きられるかもしれないと言われてますし」

 あたしは、しどろもどろで答える。

「そ、それに単に同居している上司ですよ、こうアレです、あの人ほら性格が悪いから、ね、猫になった方が、つ、付き合うの楽ですよ」

 自分で言いながら、泣きそうになる。人の方が良いに決まってるじゃん。

 課長は無言でハンカチを取り出すと、あたしに渡した。

 心なしか、リュックも慰めるようにモゾモゾ動いた。

「あ、ありがとうございます。ど、同居人でも猫になるとショックですね」

 あたしは、いつの間にか流れた涙を手渡されたハンカチで拭う。

「……その、なんだ……」

「はい」

 課長は何とも言えない、複雑な表情で言った。

「私は、部下のプライベートには関わらない。基本的に犯罪に関わらない、反社とかとの交友関係が無ければ自由だと思う」

「はい?」

「しかし、君のその泣き腫らした目を見るに耐えがいものがある」

「はあ?」

 課長はしばらく瞠目すると、深呼吸してから言った。

「君たちは恋人同士なんだね?」

 バレた!

 気をつけていたはずなのに、なんで、何でバレた。

「あわわ、いやいやいや、ち、ち、ちがいますう」

 バレたバレた、ここは誤魔化さないと。まずい、まずい。

「そんな事ないですよ、あたしと明希、楡松警部がそんな関係な訳ないじゃないですか!」

 あたしは、思わず立ち上がる。

「だ、だいたいその、あんな性格破綻者ですよ、わああわ、あたしならゴメンです」

 抱えているリュックが、抗議するように揺れる。

「もう少し優しい人がタイプですよ、いやそのもう少しと言うか……」

 あたしの言い訳を聞きながら、課長は難しい顔をした。

「もしかして、君はバレてないと思っているのかね?」

「へ?」

 ふーっと課長はため息をつくと、左右に首を振った。

「隠しているつもりなら、署内で帰りに手を繋いで帰るとか、署内で楡松警部の世話を焼いたり、管轄区域でデートするのはよした方がいい」

「あ、あ」

 全部思い当たる節がある。

「ナンというか、君ら署内でも有名なカップルだよ」

「え、え」

 オロオロするしかないあたしを見ながら、課長は困った子供を見るようにあたしに言った。

「別に、今後慎むようにと言う気はないが、あまり職場にプライベートの揉め事を持ち込まないように」

「あ、はい」

 バレるどころの話ではなかった。

「それで、楡松警部はどうしてる」

「明希ならここに」

 あたしは、そう良いながらリュックを開けた。

 のっそりとリュックから、黒猫が顔を覗かせた。

「おはようございます」

 明希の口から、憮然とした声で場違いな挨拶が出た。

「お、おはよう」

 流石の課長も動揺したのか、若干引き気味に挨拶を返す。

「職場で名前を呼ばない」

 それから、亜希は振り返ってあたしに言った。

「バレていたようだね」

「うん」

 亜希は、うーんと伸びをした。優雅に体を伸ばすその姿は、猫そのものだった。

「で、どうします? どちらかを異動させますか?」

 明希は、課長に向き直った。

「さっきも言った通りだ、ウチの署には二人とも必要だし。そもそも、君を受け入れてくれる部署はここしか無いぞ?」

「それはまた、ありがたいことで」

 亜希は気のない返事をした。

「とりあえず、バレていようがいまいが、我々の事は他言無用で」

「私にも、それくらいの常識はある」

「それなら、結構」

 亜希は、満足そうに前脚の毛繕を始めた。

 あたしも、課長の答えを聞いてほっとした。

 いいふらす人とは思ってないが、だからと言って他言しないとも限らない。

「ところで、楡松警部」

 課長は、何か思いついたように、ニヤリと笑った。

「それくらい元気なら、職場に復帰してくれないかね?」

「猫ですよ」

 亜希が間髪入れずに反論した。

「警察犬がいるんだ、猫が捜査会議にいて悪いかね」

「……猫で良ければ」

「決まりだな、何せ猫の手も借りたいんだ」

 課長は軽く頷くと、あたしに向かって言った。

「関根巡査部長、楡松警部の……何というか、手助けをしたまえ」

「了解しました!」

 そう答えると、あたしは明希を抱き上げた。

「そういう意味じゃないと思うぞ」

 ボソリ、と明希があたしの胸の中で呟いた。

次回は12月4日の月曜、8時更新予定です

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