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死にたがり
男は目の前の少年の腰にあった脇差しに手を伸ばし、隙を突いて鞘から抜いた。
「ッ、おい、何すんだ……!」
「斬ってください」
柄を返し、少年に抜き身を差し出す。
それまで終始感情をあらわにしていた少年は絶句して、体を硬くした。二人の立つ屋敷の濡れ縁の脇、中庭の木に止まってやかましく鳴く蝉の声や、むせるような夏の暑さなど忘れたとばかりに、顔から血の気が引き、寒々しい色に染まる。猫のような丸い目が大きく見開かれ、幼さの残る花びらのような唇が、小さくわななく。
けれど男は、そんな少年の手に柄を握らせ、刃を男自身の首元に沿わせてもう一度、はっきり告げた。
「斬ってください。あなたなら構わない」
それは身分だとか、腕っ節だとか、諸々のことを含めて言ったに過ぎなかったのだが。
少年はそんな男の――斎藤一の言葉に、まるで自分のほうが刺されたみたいに悲痛に顔を歪ませた。