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戦国SNS時代

作者: 穂村一彦

0:(第1幕)

0:     

信長:秀吉よ。昨日の戦での働き。誠にみごとであった!

秀吉:はは!

信長:褒美にこれをやろう。

信長:由緒正しき茶器、松島の茶ツボじゃ。

秀吉:ありがたき幸せ! ……信長さま!

信長:なんじゃ。

秀吉:ずうずうしく申し訳ありませんが、もう一つ願いごとが!

信長:もうしてみよ。

秀吉:茶器をいただいたこと、身に余る光栄。さっそくこのことを……。

秀吉:ツイッターにあげとうございます。画像付きで。

秀吉:どうか拙者と一緒に写真を撮ってくださいませ。

信長:うむ、よいだろう。

秀吉:ありがたき幸せ! では、光秀どの、撮影お願い致します。

明智:う、うむ。では……はい、チーズ。

信長:いえーいっ。

秀吉:かたじけない。ではさっそくツイートいたします。

信長:うむ。わしもリツイートしておこう。

信長:蘭丸! わしのスマホをもて!

蘭丸:はい!

信長:うむ……む? ああ! 充電が残り2パーセントになっておる!

信長:蘭丸! また勝手にアプリゲームをやりおったな!

蘭丸:申し訳ありません! モンストで新しいイベントが始まったので、つい!

信長:ゲームは一日一時間と言ったであろうが! まったく……!

秀吉:信長さま! よろしければこちらをどうぞ!

信長:おお、携帯充電器か!

秀吉:こんなこともあろうかと、ふところで温めておきました。

信長:はっはっは! 気の利くやつじゃ! 褒めてつかわす。

秀吉:ははー!

信長:それに引き替え……光秀! なんじゃ、貴様の昨日の失態は!

明智:も、申し訳ありません!

明智:予想以上の敵が待ち伏せしており、思いのほか苦戦をしいられ……。

信長:馬鹿者! なぜ待ち伏せされていたか分かっておらぬのか!

明智:と、申されますと?

信長:見よ! 貴様の昨日のツイートじゃ! 

信長:『やっと山頂に到着。疲れたー。鎧カブトつけて山のぼるのほんと大変』

信長:これでは裏山から奇襲をしかけるのが敵にバレバレであろうが!

明智:ああ! 申し訳ありません!

信長:いくさの前はツイートを控えるか鍵アカにする! 武士の常識であろうが! 

信長:それに引き替え、秀吉を見よ! 

信長:奇襲を仕掛ける5分前に猫画像をアップして敵を油断させる策士ぶりよ。

秀吉:このようなこともあろうかと思い、近所の猫を撮影しておきましたゆえ。

信長:ん? おお、秀吉! 先ほどのツイート。

信長:さっそく1000いいね付けられておるぞ。

秀吉:信長さまのリツイートあってこそでございます。

信長:いやいや、お前はフォロワーが多いからのう。

信長:フォロワーが多いということは人脈、人望、そして情報力に優れているという証じゃ。

信長:次の戦も期待しているぞ。

秀吉:はは!

秀吉:     

0:     

明智:天下を取るために重要なもの!

信長:兵の数!

秀吉:兵糧ひょうろうの数!

蘭丸:火縄銃の数!

明智:いや、それ以上に重要なもの!

信長:いいねの数!

秀吉:リツイートの数! 

蘭丸:フォロワーの数!

明智:世はまさに!

明智:戦国! SNS時代!

明智:      

0:(第2幕)

0:     

信長:うーむ……。

秀吉:信長さま! 何を見ておられるのですか?

信長:おお、千利休が新作のお茶の画像を載せているのじゃ。

秀吉:拝見します。はぁー、さすが利休どの。これは……インスタ映えしますなぁ。

秀吉:このお茶に入っている黒いツブツブは何でしょうな?

信長:なんでも、『たぴおか』というらしい。

秀吉:ほほー、どんな味がするのでしょうな?

信長:うむ、一度味わってみないとのう。よし、さっそく飲みにいくぞ。馬をもて!

秀吉:信長さま! こんなこともあろうかと。馬なら既にあちらに用意しております。

信長:おおー! 気の利くやつじゃ!

秀吉:そして、こちら、手綱たづなです。ふところで温めておきました。

信長:……うむ、そこまでされると気持ち悪い。

信長:では、さっそく行くぞ。(退場)

秀吉:はっ、おともいたします!

秀吉:それでは、光秀殿。拙者たちは、ちょっとタピってきますので。

明智:あ、私も……!

秀吉:あー、申し訳ない。拙者が用意した馬は2人用なのでござる。

明智:そんな……。

秀吉:まぁまぁ。光秀どのはあいた時間でSNSの勉強でもしたら、いかがかな?

秀吉:とりあえず、猫画像でも用意しておくとか。

信長:おーい、秀吉! まだか!

秀吉:はは! 今行きます!(退場)

明智:くそっ、秀吉め……! うまいこと信長さまに取り入りおって……!

明智:剣術、学問、政治、家柄。全て私が上なのに!

明智:ちょっとフォロワーとイイネが多いだけで……!

明智:猫か……ヘイ、シリ。このへんで猫がいっぱいいるところは?

シリ:安土山。北に3キロです。

明智:安土山か……ちょっと行ってみるか……。

明智:      

0:(第3幕。山の中)

0:     

明智:くそっ……道に迷ってしまったか……

明智:へい、シリ。ここ、どこ? ……ん? ヘイシリ。シリ! 

明智:あっ。電波がないだと? まいったな……せっかく来たのに猫も見つからないし。

明智:猫ー! どこであるか、猫ー! にゃー! にゃー、にゃー?

律:…………ええー?

明智:ん?

律:ひぃっ!

明智:あー、待て待て! 怪しい者ではない!

律:喋った……!

明智:喋るわ! 私はただ道に迷ってしまっただけだ。

明智:お前はこのあたりに住んでおるのか?

律:は、はい。

明智:それはちょうどよかった。お前の家に、ワイファイはあるか?

律:わ、わいふぁ……? すみません。そういうのはうちの畑ではとれません。

明智:むぅ……まぁいい。家まで案内してくれるか? 礼はする。

律:はい、じゃあ、こちらです。

律:    

0:(場所移動。律の家)

律:さ、どうぞ。いま飲み物をお持ちしますね。

明智:うむ、かたじけない。はぁ……とんだ災難だ。

明智:せめてこの家で何か撮れればいいのだが……何もないな……。

律:お待たせしました。

明智:おお、かたじけない。

律:どうぞ。今朝くんできたばかりの水です。

明智:……インスタ映えしない……!

律:どうなさいました?

明智:いや、なんでもない。……お、ここならぎりぎり電波が入るな。

律:はい?

明智:へい、シリ。安土城はどこだ?

律:はい?

シリ:安土城は東へ2キロです。

律:うわあっ! よっ、妖怪!?

明智:落ち着け! おまえまさか、スマホを知らぬのか?

律:すま、ほ?

明智:これだ。

律:この板は……? うわあ! 絵が動いた!

明智:お前、マジか……! ううむ……同じ時代の人間とは思えん。

律:私もお侍さんが同じ時代の人間とは思えません……!

猫:にゃー。

明智:ん? 猫か。

律:はい。うちの飼い猫です。

明智:あ、そうだった! そういえば、私はそもそも猫を探しにきたんだった!

律:そうだったんですか。そういえば、最初に会った時にゃーにゃー鳴いてましたね。

明智:それはもう忘れろ……よしよし、これでインスタ映えする写真が……

猫:にゃああっ!

明智:あっ、ちょっと待て!

猫:ふぎゃあぁーっ!

明智:うわあ!

律:すみません、うちの子、知らない人になつかなくて。

明智:お前にはなついてるのか。

律:それはもちろん。

明智:よし、ではお前が代わりに撮ってくれ。

律:とる?

明智:これを猫に向けて、このボタンを押せばいいだけだ。

律:え……? えーっと……?

シリ:全データを削除しました。

明智:うおおお!? 何やってんだ、おまえ!

律:す、すみません、私にはさっぱりわからなくて。

明智:さっぱりわからないくせに、最短距離で最悪の処理をしたな!?

律:あの……でしたら、お侍さんが明日また来たらどうですか?

律:2回目ならこの子も少しはなついてくれるかも。

明智:いや、それは……。

律:ね、私もちょうど話し相手が欲しかったですし。

明智:……そうだな。ま、暇だったら考えよう。今日はもう帰る。

律:はい、またいつでも来てくださいね!

律:     

0:(第4幕。お城)

0:     

秀吉:ハローユーチューブ! ユーチューバーの秀吉です! 

秀吉:はい、いつものコーナー『鳴かないほととぎすを鳴かせてみた』

秀吉:今日はホトトギスが鳴きたくなるように、

秀吉:イケボボイスで盛り上げてみようと思いまーす!

秀吉:んんっ(咳払い)

秀吉:『……小鳥ちゃん。きみのかわいい声が聞きたいんだ。今夜は俺だけのために、鳴いてくれないかい? ホトトギス、きみの唇に、ホット・キス』(何かかっこいいセリフ。改変可)

ホトトギス:……ホケキョッ。

秀吉:やったー、成功です! 次回も頑張りますので、チャンネル登録お願いしまーす。

信長:おー、あっぱれあっぱれ。

秀吉:あ、信長様!

信長:秀吉のユーチューバー動画はいつも面白いのう。

秀吉:ありがとうございます。信長さまは最近更新していないようですが。

信長:あーわしはなお前のマネをして、

信長:『鳴かないホトトギスを殺してみた』という動画を上げたら、運営に怒られてアカウントを凍結されてしまったのじゃ。

秀吉:あー、最近の運営は暴力表現に厳しいですからなあ。

信長:おっかしいよな? いま戦国時代なのにな?

明智:あ、信長様。

信長:おお、光秀。おぬしはユーチューバーはやっておらぬのか?

明智:ははっ、私は学問には少々自信がありますゆえ、前回は仏教の歴史について語る動画を。

信長:……お前なあ……そういうところだぞ。

明智:えっ?

信長:そんなつまらぬ動画をあげてどうする? 情けない……それでも武士か。

明智:申し訳ありません……。

信長:お前のくそまじめさにも困ったものよ。

秀吉:信長様。拙者、部屋で動画の続きをとりますが、よろしければぜひご一緒に!

信長:おお、では見させてもらおうか。次はどうやって鳴かせる?

秀吉:はは! 次は子犬系男子でいってみようかと。(子犬系男子改変可)

信長:おー。

秀吉:『ねえねえっ! ふさぎこんでどうしたのっ? いつもみたいにお姉さんの元気な声、聞かせてほしいなっ』(何かかわいいセリフ。改変可)

ホトトギス:(クオリティによって鳴くか鳴かないか選ぶ)

ホトトギス:【成功】「……ホケキョッ。」

ホトトギス:【失敗】「…………」(無言のまま)

秀吉:【成功】「おおっ、鳴きましたぞ!」

秀吉:【失敗】「くっ、失敗です! てごわいですな!」

信長:【成功】「結構ちょろいな、こいつ!」

信長:【失敗】「今のはお前が悪い。」

信長:     

明智:くそ、あのサルめ! 何が『鳴かせてみた』だ!

明智:たいしてイケボでもなかったくせに!

明智:…………ヘイ、シリ。このへんでホトトギスがいっぱいいるところは?

シリ:安土山。北に3キロです。

明智:また!? おまえ、適当言ってないか?

シリ:言ってません。

明智:ちっ……まぁいい。行ってみるか。

明智:     

0:(第5幕。律の家)

0:     

律:あ、お侍さん! 来てくれたんですね!

明智:ま、まぁ、たまたま時間ができたからな……

明智:なあ。このへんにホトトギスはいないか?

律:猫の次はホトトギスですか? いませんけど……なぜ、ホトトギスを?

明智:サルに勝つにはネコかホトトギスが必要なのだ!

律:お侍さんって動物の見世物小屋でもやってるんですか?

明智:そうではない。私の仕事は……ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。

明智:聞いて驚くなよ。私は明智光秀だ。

律:私は律と申します。よろしくお願いします。光秀さま。

明智:……え、それだけ?

律:はい?

明智:聞いて驚けよ!

律:え?

明智:明智光秀だぞ? あの信長様の一の家臣の!

律:すみません、まったく知らなくて……。

明智:ああ、もう! ぐぐれ!

律:ぐぐ……?

明智:ちょっと待ってろ。ヘイ、シリ! 明智光秀 ウィキペディアで検索!

シリ:明智光秀。検索結果 ゼロ件です。

明智:うそぉ!? くそ、だれか書いとけよ……!

律:どうしたのですか?

明智:本当ならこれで私の情報がわかるはずなのだ!

律:えっ、そんなことができるんですか?! 

律:じゃあ私の親のことわかりますか? 名前は磯六といいます!

明智:待て待て。誰のことでもわかるわけではない。ただの一般人の情報など……。

シリ:磯六。検索結果 1件です。

明智:うそぉ!? うわ本当にウィキに載ってる……第76回焼き芋大食い大会優勝者。

律:あ、それですそれです!

明智:なんで私がなくて磯六はあるんだ! 

明智:おのれ、ウィキペディアめ。もうコーヒー一杯の金額なんて寄付しないからな!

律:それで、お父さんは今どこにいますか?!

明智:いま? 今は……だめだ、そこまで載ってないな。

律:そうですか…………。

明智:…………はぐれてしまったのか?

律:はい、こないだのいくさで……。

明智:…………よし、待ってろ!

明智:『人を探しています。名前は磯六。娘の律が、安土山で待っています。拡散希望!』

律:カクサンキボウ……?

明智:自分がどうしても皆に知ってもらいたいことにはこの言葉をつけるのだ。

明智:そうするとどんどん、どんどん伝わっていくのだ。人から人に。

律:……お父さんにも、届くでしょうか?

明智:ああ……きっと届く。大丈夫だ。

律:……ありがとうございます……その板……すま、ほ? すごい道具なんですね。

明智:まあな。知りたいことは何でもわかるのだ。

明智:今日はたまたま私のことはわからなかったが……。

猫:にゃー。

明智:あ、猫! よし、今日こそ写真を……あっ、こら、動くな!

猫:ふぎゃあああっ!

明智:うおお!? 

明智:おい、なつくどころか、こないだより凶暴になってないか、こいつ!

律:……ふふっ、あはは!

律:大丈夫です。光秀様のことはもうわかりました。

明智:え?

律:光秀様は、ドジで、猫になつかれなくて、

律:一生懸命なんだけど、なんか空回りしてて。

明智:き、貴様……!

律:だけど……とても優しい人です。

明智:……まったく! もうよい!

律:あ、もうお帰りですか?

明智:うむ。……ウィキには無かったが、きっとネットのどこかに私のことが書かれてるはずだ。

明智:探しておく。それで……次来た時に、見せてやるからな。

律:……はい、楽しみにしております。

律:    

0:(第6幕)

0:     

明智:検索。明智光秀 評判。

シリ:もしかして、明智小五郎ですか?

明智:光秀だって言ってるだろ! 見つからないなぁ……

明智:本当は私はすごい人間なんだと、律に見せてやりたいのに。

明智:じゃあ……検索。織田信長 評判。

シリ:検索結果1200件です。

明智:おー、さすが信長様!

明智:ふむふむ……織田信長について語るスレ、か。

明智:ちょっと覗いてみるかな。

信者1:信長ってやばいよねー。

信者2:すげー、うつけ者らしいよ。

信者3:怒りっぽいしわがままだし。

信者1:絶対結婚したくないタイプ。

信者2:わかるー。

信者3:あはははは。

明智:おのれ……! ええい、もう我慢できん! きみたち!

信者1:あ、新規さんだ。

信者2:こんにちはー、ラインやってる?

信者3:どこ住みー?

明智:え、あー、岐阜の……じゃなくて!

明智:きみたち! あんまり信長さまの悪口を言うんじゃない!

信者1:えー、でもあの人まじやばくない?

明智:そんなことはない! あの人こそ、この国の長にふさわしい……。

信者2:えー、絶対もっといい人いるでしょ。

信者3:信長の部下にだってもっとましな人いるよね?

信者1:誰だっけ、えーと、あ、思い出した! 明智光秀!

明智:えっ!?

信者2:あー、あのひといいよねー。頭いいし、勉強できるし!

信者3:真面目で人望もあついしねー。

信者1:あと顔がイケメン!

明智:い……いやぁ、そんなたいしたものじゃないよ?

信者2:はあ? 光秀さんディスってるんじゃねーよ!

信者3:お前に光秀さんの何が分かるんだよ!

明智:す……すみません…………あ、あの、わたし、急用ができたので、落ちます。

信者1:はーい、おつー。

信者2:おつー。

明智:ふぅ、びっくりした……こんなところで自分の名前が出るとは……

明智:そっか……見る人はちゃんと見てくれてるんだな。

明智:よし、自信出てきた!

明智:     

0:(第7幕。お城)

0:     

秀吉:信長さま。伊能忠敬どののブログをご覧になりましたか?

信長:見ておらん。どうかしたのか?

秀吉:日本中を歩き回り、ついに日本地図を完成させたらしいですぞ。

信長:ほー、それはすごいのう。

秀吉:あとポケモンGOのポケモン、全部集めたらしいですぞ。

信長:それはすごいのう!! ポケモンGOか……。

秀吉:信長様もやっているのですか?

信長:うむ。しかしミュウツーがほしくてウロウロしてたら、

信長:いつの間にか武田信玄の領地でな。あやうく殺されかけたわ。

秀吉:危ないところでしたな。

信長:信玄め。わしがミュウツー手に入らなかったと知って、

信長:わざわざツイッターのアイコンをミュウツーにしてわしを煽ってくるのじゃ!

信長:見てろよ……いつか奴の目の前でゲームデータ全部削除してくれるわ。

秀吉:お待ちくだされ。たしか関ケ原付近でミュウツーの目撃情報があったような……。

信長:まことか!

秀吉:お調べいたします……の、信長さま!

信長:ミュウツーか?!

秀吉:それどころではありませぬ! こちらをご覧ください!

秀吉:こないだ信長さまがタピオカを飲みに行ったときの写真がツイッターに無断でアップされております!

信長:なに? 誰の仕業だ!

秀吉:わかりません。匿名アカウントからの投稿です。

信長:ううむ……まぁよい。有名税というやつだ。

秀吉:この写真は……ああ。信長さまがタピオカの最後の一粒をなかなか吸えなくて、おもいっきりストローで吸いこんだらスポンと勢いよく喉に直撃して、信長さまが苦しんでるときの写真ですな。

信長:なにい!? よりによってそんな写真を! おのれ……

信長:おのれ、武田信玄……!

秀吉:武田信玄のしわざですか!?

信長:こういう陰湿なことをやるのはあいつに決まっておる!

信長:くっ……必ずや近いうちに滅ぼしてくれる。

信長:秀吉! 戦の準備を怠るなよ! 光秀にもそう伝えておけ!

秀吉:はは!

信長:不愉快だ! 今日はもう寝る!

秀吉:ははっ、布団はあちらに。

秀吉:こんなこともあろうかと、拙者が先に入ってあたためておきました。

信長:お前、それ普通に無礼だからな?

信長:    

0:(第8幕。律の家)

0:     

明智:律ー!

律:光秀様! どうしたのですか、上機嫌ですね?

明智:ふっふっふ、ついに見つけたぞ! 私のことを語ってる掲示板を見つけたのだ!

律:けいじばん……?

明智:いま読んでやろう。(律にスマホを手渡して横から読む)

明智:明智光秀! あー、あの人いいよねー。頭いいし、勉強できるし!

明智:真面目で人望もあついしねー。あと顔がイケメン!

律:…………。

明智:…………やめだ! なんかすごく恥ずかしくなってきた……。

律:光秀様が立派な人だということは、私はもう知ってますよ。

明智:……ああ、もう! 顔を洗ってくる! 水を借りるぞ。(退場)

律:はい、どうぞ。

シリ:とぅるるるる(電話着信音)

律:ひえっ!? なっ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……!

秀吉:もしもしー。光秀どのー?

律:ひいっ!? み、光秀さまー! 妖怪! 妖怪が!

明智:どうした!? うおお!? ちょっ、何をやっている! もしもし!?

秀吉:おお、光秀どの。騒がしいですが、かけなおしたほうが?

明智:いや、問題ない! して、用件は?

秀吉:信長様からの伝言ですぞ。

秀吉:近いうちに武田信玄に戦をしかける、準備をおこたるな、と。

明智:信玄と戦を……! 承知した。私は兵を5千人、火縄銃を200丁用意できる。

秀吉:おお、それは頼もしい。では、よろしく頼みますぞ。

明智:ええ、それではまた。(電話切る)

明智:ふぅ……律! 勝手に人の電話に出るものでは……!

律:…………。

明智:どうした? 震えているのか? ……あ。あー待て待て。安心しろ。

明智:今のは電話と言ってな。遠くの人と話せるというスマホの機能の一つで……。

律:戦を……するのですか?

明智:え……。

律:また、戦が……始まるのですか?

明智:…………天下泰平てんかたいへいのためだ。

明智:この乱世を終わらせるためには、どうしても必要なことなのだ。

律:戦を終わらせるために、戦が必要なのですか?

明智:それが、この世のことわりというものだ…………また来る。(退場)

律:……天下泰平の世。いつか本当に来るのでしょうか。そんな時代が……。

律:     

0:(第9幕。お城)

0:     

信長:秀吉。こないだの動画見たぞ。ずいぶん人気のようだな。

秀吉:はは! ありがたき幸せ。

信長:これは今週のランキング1位とれたのではないか?

秀吉:残念ながら2位でございます。1位はまた水戸黄門どのにとられました。

信長:あー、いつものあれか。

信長:『身分を隠して悪代官に話しかけてみた』のドッキリ企画か。

秀吉:まぁ確かにあれは面白いですからな。

信長:毎週同じ展開なのについ見ちゃうんだよな。

信長:そうか、もう今週分あがってたか……ああ!

秀吉:どうなさいました?

信長:また、わしの隠し撮り写真がアップされておるのじゃ!

秀吉:なんと!

信長:しかも、これはわしが千利休から借りた茶碗をうっかり割ってしまって、慌てて米粒でくっつけているところではないか!

信長:おのれ、信玄……!

秀吉:信長さま……これ、本当に武田信玄のしわざでしょうか?

信長:どういうことじゃ?

秀吉:信玄、または信玄の使いがこんなに信長さまの近くに忍び込めるのか……。

信長:しかし……信玄のしわざでないとすると……。

秀吉:考えたくはありませんが、もっと身近な人間の犯行かも。

信長:身近な人間……。

明智:信長さま!

信長:……なんじゃ。

明智:武田信玄との戦が近いと聞きました。わたしは兵、火縄銃ともに準備完了です。

信長:……うむ。

明智:……信長さま。今回の戦ですが……本当に必要なのでしょうか?

信長:なに?

明智:その……たとえば、同盟をくむなど、いくさ以外の道もあるのではと……。

信長:馬鹿者! あの信玄といまさら和平が組めると思っているのか!

明智:も、申し訳ありません!

信長:もうよい、さがれ!

明智:はっ!

秀吉:……信長さま……。

信長:いや……あいつは真面目だけがとりえのような男……そんなはずは……。

信長:誰じゃ!?(撮影音の幻聴を聞く)

秀吉:信長様?

信長:……いや、何でもない。気のせいじゃ……。(退場)

信長:     

0:(第10幕)

0:     

明智:くそ、失言であった……なぜ私はあんなことを言ってしまったのか……。

明智:(ネットを開く)

信者1:あ、こないだの人だ。おっつー。

明智:お、おっつー。

信者2:ねえねえ、聞いた? なんか近いうちに戦が始まるらしいよ。

信者3:光秀さまが走り回って兵とか火縄銃とか集めてたって。

信者1:かっこいー! きっと大活躍して大出世するんだろうなー。

明智:いや……それはどうかな……。

信者1:ちょっとーそんな弱気でどうすんのー。

信者2:そうだよ。うちらファンが信じてあげないと。

明智:ほ、本当に、明智光秀を信じているのか?

信者3:もちろん!

明智:実は……実はな……私が! その、明智光秀、本人なのだ!

信者1:……は?

信者1・2・3:あはははは!

信者1:うけるー!

信者2:そんなの信じるほど、うちら情弱じゃないってー。

信者3:光秀様本人に見つかったら怒られるよー?

明智:……ほら。アイディー付きの写真。 

信者1・2・3:ええええええ!!?

信者1:うわ、マジで!?

信者2:やばいやばい!

信者3:本人降臨! 本人降臨!

明智:ああ、待ってくれ! 私がここに来たことは皆には秘密にしてくれ!

信者1:なんで?

明智:いや、武将が自分の評判が気になって掲示板に来るって、あまりかっこいいものじゃないし……。

信者2:そっか、わかった。

信者3:でも、だったらなんで本人って名乗ったの?

明智:それは…………本当のことを伝えたくて。

信者1:本当のこと?

明智:君たちがほめてくれて嬉しかったけど、本当はそんなに評価されてないんだ。

明智:信長様の力になりたいと頑張っているんだけど、どうも空回りで……

明智:今日も信長様に怒られてしまったし……。

信者1:何それ、そんなの信長が悪いんじゃん。

明智:え、いや、信長様は悪くは……。

信者1:ダメだって! 自分を責めちゃダメ!

信者2:こっちが信長のこと心配したって信長は光秀さまのこと心配してくれないよ?

信者3:雇い主なんてあてにならないんだから、自分の身は自分で守らないと!

明智:し、しかし、私に至らぬ点があるのも確かだし……。

信者1:そんなことない! 確かに私たちはネット情報でしか知らないけど、光秀様が頑張ってることはよく知ってるよ?

信者2:うん、良い噂しか聞かないもん。きっと評価してないのは信長だけだよ。

信者3:私たちは光秀様を信じてるから、光秀様も自分を信じてよ。

明智:……自分を、信じる……。

信者1:あ! みんな、見て! ヤフーニュースに信長載ってる!

信者2:ほんとだ! 明日にでも信玄の領地に進軍開始、だって!

明智:明日……!

信者1:頑張ってね!

信者2:人手が足りなくなったら呼んで! 駆けつけるから!

信者3:武器は自撮り棒しか持ってないけど!

明智:……ああ、ありがとう!

明智:     

0:(第11幕。月夜の山)

0:     

律:光秀さま。

明智:律。こんな山奥で何をしている?

律:月を、見ておりました……。

明智:月か……美しいな。そういえば、夜空を見上げるなんて久しぶりだ。

明智:いつもスマホばかり見ていたからな……。

律:スマホは月よりも美しいのですか?

明智:どうかな……むしろ美しくないもののほうが多いか……。

律:ではなぜ……。

明智:それでもそこで生きていかなければならないのだ。

明智:スマホの中で……人の中で。

律:…………。

明智:しばらくここに来れなくなると思う。

律:……戦にいくのですか。

明智:ああ……。

律:…………。

明智:……なあ、信じてくれ。もうすぐ乱世は終わる。信長さまが天下を取る。

明智:そうなったら私は信長さまの右腕として、世界を平和にしてみせる。

明智:お前が平和な世の中で幸せに暮らせるようにする。必ず……。

律:光秀さま……。

猫:にゃー。

明智:おお!?

律:あー、よかったですね! ついになつかれたのですよ。

明智:う、うむ! えっと写真……

明智:……いや……よい。もうよい。

明智:それより……しばらく、このままでいよう……。

律:……はい。

律:     

0:(第12幕。お城)

0:

信長:ううむ……     

蘭丸:信長様? 落ち着かないご様子ですが、どうかされましたか?

信長:……何でもない。

秀吉:信長様。武田信玄のツイートを見ましたか?

信長:何かあったのか?

秀吉:これです。特別企画 リツイートするだけで抽選100人に1万両!

信長:信玄め。上級国民をきどりおって……!

秀吉:あ……光秀どのがリツイートしております。

信長:なにい!? あの野郎……!

秀吉:光秀殿……最近どうも様子がおかしいですな。

秀吉:よくコソコソとどこかへ行ってるようで。

信長:うむ……。

明智:すみません、遅くなりました!

信長:……光秀。どこへ行っておった?

明智:え、いやあ、大した場所では。その、ちょっと山へ気分転換へ。

信長:…………で、あるか。

明智:信長様?

信長:……聞け! 我らは明日、武田信玄の領地へ討って出る!

明智:おお、ついに!

信長:本陣は秀吉が指示せよ! 三万の兵を与える!

秀吉:はは、ありがたき幸せ!

明智:信長様! 私は!

信長:……おぬしは城に残れ。

明智:え?

信長:今回の戦はワシと秀吉でいく。以上じゃ。

明智:し、しかし……。

信長:なんじゃ! ワシの決定に不服と申すか!

明智:い、いえ、申し訳ありません……。

信長:では、ワシも準備するとしよう。(退場)

明智:…………。

秀吉:いやー、三万の兵かー。これは大変でござるなー。

秀吉:三万人、アドレス帳に入るかな?

明智:ひ、秀吉どの……おぬしからも信長様へ言って下さらぬか……!

秀吉:はい? 何を?

明智:こっ、こういっては何だが、私はおぬしに何一つ劣らぬ!

明智:力も! 頭脳も! 兵の練度も! そんな私が居残りなどおかしいではないか!

秀吉:しかし、光秀どのは、SNSの使い方が下手でござろう?

明智:そ、それは……!

秀吉:ま、情弱は情弱らしくおとなしく引きこもってろってことでござろうな、ハハハ。

明智:ひ、秀吉ー!(刀をぬく)

蘭丸:光秀様! いけません! 殿中でんちゅうでござる! 殿中でござる!(明智を止める)

秀吉:ははは、そんな煽り耐性ゼロの人間を戦には連れていけぬでござる。はい論破。はははは。(退場)

明智:おのれ、サルめが! 調子にのりおって! 私だって……私だって……!

蘭丸:落ち着いて下さい、光秀様!

蘭丸:大丈夫です。地道に頑張ってれば、信長様だってわかってくださる。

明智:ちがう! 信長様はわかってくれぬ! いや、信長様だけがわかっていないのだ!

明智:やはりみんなの言うとおりだった!

蘭丸:みんな?

明智:私は……私は出世するのだ……この乱世を終わらせなければならないのだ。

明智:こんなところで立ち止まっている暇はないのだ!

明智:……そうだ! くっくっくっ、サルめ……目に物を見せてくれる……!

蘭丸:光秀様……?

明智:どけ!

蘭丸:あ、お待ちください!

蘭丸:      

0:(第13幕。武田信玄の城)

0:     

信長:いけ! 進め! あのにっくき盗撮犯 武田信玄を血祭りにあげよ!

秀吉:信長様ー! やりましたぞ! ついに信玄の首を討ちとりました!

信長:おおっ、でかしたぞ、秀吉!

秀吉:やつの首とスマホを持ってきました! どちらからご覧になりますか?

信長:もちろんスマホじゃ! 見せてみろ!

秀吉:はは、こちらです。

信長:くっくっく、どれ、ワシの隠し撮り写真は…………ん? ない……ないな……。

秀吉:ありませぬか?

信長:ない……メールにもラインにも、隠し撮りを指示した様子もない……。

秀吉:……ああ! 信長様! つい先ほど新しい隠し撮り写真があがっています!

信長:なにい!?

秀吉:これは……もう信玄が死んだあとの投稿です!

信長:どういうことだ……犯人は武田信玄ではなかった……?

信長:(カシャッと隠し撮りの幻聴を聞く)

信長:誰だ!?

秀吉:信長様?

信長:いまシャッター音がしたであろうが! 誰だ! どこから撮った!

秀吉:信長様、落ち着いてくだされ! ここには我らしかおりませぬ!

信長:じゃあ、秀吉! 貴様ではないのか!?

秀吉:拙者をお疑いですか!?

信長:だっ、だって、おぬしはいつもスマホを持ち歩いておるし……!

秀吉:いつでも信長様の連絡を受け取れるようにです!

秀吉:拙者の忠誠心を信じられませぬか!?

信長:しかし、しかし……!

蘭丸:大変です!

秀吉:蘭丸! どうした!?

蘭丸:光秀様が血相を変えて飛び出していって!

蘭丸:こちらに来ておりませんか!?

秀吉:なに!? やはり犯人は光秀どのです! それしか考えられませぬぞ!

信長:うっ、うううっ……!

蘭丸:信長様!? 具合が悪いのですか!?

秀吉:信長様! ただちにお触れを出しましょう! 信長様!

信長:黙れッ!! ……うるさい……どいつもこいつもうるさい……!

信長:ワシはしばらく一人になる……

信長:いいか、誰もついてくるでないぞ……! いいな!(退場)

蘭丸:……大丈夫。信長様には私がついていきます!

秀吉:しかし、だれもついてくるなと……。

蘭丸:今の信長様を一人にはしておけません!

秀吉:わかった。任せたぞ。拙者は、光秀どのを探そう!

秀吉:      

0:(第14幕。律の家)

0:     

明智:律!!

律:光秀さま!? しばらくこれないはずでは……。

明智:予定が変わった。それより、お前に贈り物だ。受け取れ。スマホだ。

律:え、え……?

明智:これを使って私の仕事を手伝ってほしい。

明智:いいか、できるかぎり多くアカウントを作れ。

明智:半分を使って私のよい噂をながせ。そしてもう半分で秀吉の悪い噂を流すのだ。

律:私には、無理です……。

明智:大丈夫、できる! やりかたさえ覚えれば誰でもできる!

律:光秀さま……。

明智:もう少しで信長さまは天下をとる。その時の一番の家臣は私でなくてはならない!

明智:私にはその資格がある! みんなそう言っているのだ!

明智:頼む、協力してくれ! もちろん礼はする!

律:私は何もいりません……。

明智:うまくいったら持ちきれないほどの御馳走を用意しよう!

律:私は握り飯だけで充分です……。

明智:いずれ全日本が我らに注目することになるのだ!

律:私は……光秀さまと二人だけで充分楽しいです……。

明智:……っ! 私は! こんなところで終わる人間ではないのだ!

明智:待ってろ、いま掲示板を見せてやる! そうすればお前もきっと分かってくれるはずだ!

律:光秀さま、聞いてください!

明智:くそ、接続が遅い……!

律:光秀さま、私はあなたと話をしてるのです!

明智:だから、私の話だろうが!

律:…………。

明智:……わかってくれ。もう少しで天下人てんかびとになれるのだ……。

律:天下人とは……?

明智:この国で最も強く、最も大きく、何者にも縛られない、最も自由な人間だ……。

律:そうですか……まるで……今の光秀さまと正反対ですね。

明智:…………もういい! 貴様には頼まん!

律:…………。(退場)

律:      

0:(第15幕)

0:     

明智:なぜだ……なぜ誰も私の価値をわかってくれぬのだ……!

明智:彼らだ……彼らだけが私の価値を正しく理解してくれる……!

信者1:光秀様!?

信者3:え、なんで? いま戦の最中じゃないの?

明智:つれていって……もらえなかった……。

信者3:なんで!?

明智:わからぬ……! 私には、もう……何もわからぬ……!

信者1:……ねえ、もう信長についていくの辞めようよ。

明智:え……。

信者1:こんなに冷遇されて、おとなしく従う必要なんて無いって!

信者3:……だね。大丈夫。光秀様を評価してくれる人間なんていくらでもいるよ!

明智:……無理だ。もはや、信長様に敵対できる勢力など残っていない……。

信者1:……だったら、光秀様がその敵対勢力になればいいんだよ。

明智:え?

信者3:光秀様が信長を討って、この国の長になるんだよ。

明智:私が……?

信者1:光秀様だったらなれるよ。日本一強い、天下人に。

明智:私が、天下人に……!

信者2:みんな、大変だよ! 信長いま一人だって!

明智:ええ!?

信者2:マジでマジで! 家来一人もつれずに本能寺っていうとこにいるって!

信者1:本能寺!? こっからすぐ近くじゃん!

信者3:完全に波が来てる! 歴史が! 神が! 光秀様に天下を取れって言ってるんだよ!

明智:わ、わたしは……!

信者1:え、うそでしょ……もしかして、ここでびびる?

信者2:てめえ! 光秀様馬鹿にするなよ! 光秀様がびびるはずないだろ!

信者3:そうだよ! 光秀様は最高の知恵と勇気の持ち主なんだから! ですよね!

明智:あ、ああ……。

信者3:ほらな!

信者2:さぁ、光秀様! 力強く宣言を!

信者1:みんなー! 光秀様から重大発表があるってよー!

信者2:みっつひで! みっつひで! みっつひで!

明智:…………敵は! 本能寺にあり!

信者1:敵は本能寺にあり……

信者2:敵は本能寺にあり……!

信者3:敵は本能寺にあり!!

明智:信長をうてー!

信者1・2・3:おおおおっ!

信者1・2・3:     

0:(第16幕。本能寺)

0:     

信長:静かな夜だ……思えば夜空を見上げたのは何年振りか……

信長:最近はずっとスマホばかり見ていたからな……。

蘭丸:信長様!

信長:蘭丸! なぜここに!

蘭丸:大変です! 敵の軍勢が攻めてきました!

信長:なんだと!? ばかな……わしにもう敵なんて……!

蘭丸:敵は……明智光秀さまです!

信長:光秀……! そうか……やはり、あいつが……!

蘭丸:信長様! いったいどうすれば……!

信長:…………蘭丸よ。準備をせよ。

蘭丸:準備とは……戦の準備ですか、それとも逃亡の準備ですか?

信長:……動画配信の準備じゃ!

蘭丸:え……?

信長:いくぞ! 織田信長、人生最後の、踊ってみた動画じゃ!

0:     

信長:(何か歌っても良い)

信長:(リズミカルに)

信長:ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー!

信長:くるっと回って、ジャンプして、決めっ!

蘭丸:信長様……! 素晴らしいダンスでございます……!

信長:……どうじゃ……評判は……。

蘭丸:はい……再生数めまぐるしく増え続け……評価も……。

蘭丸:いいねが1万……いえ、10万……いえ、100万を越えました!

信長:そうか…………そうか…………!

信長:     

0:(第17幕)

0:     

明智:本能寺が燃えている……やった……ついに、私はやったのだな……!

明智:私が……私こそが! 天下人だ!

明智:さて……さっそくネットで評判になっているかな?

明智:……なに!? なんだこれは……燃えている……

明智:本能寺以上に! 私のアカウントが燃えている!

アンチ1:主君を裏切るとか……。

アンチ2:さすがにひくわ。

アンチ1:最低すぎるだろ。

アンチ2:男として、いや人間としてどうなの?

明智:ち、違う、だって、信長様、いや、信長は、私を評価してくれなくて……

明智:ま、待ってくれ! ちがうんだ! 私は悪くないんだ!

秀吉:皆さん!

明智:秀吉……?

秀吉:信長さまが死にました……裏切者 明智光秀を私は絶対に許せません。

秀吉:必ずかたきはとってみせます! 皆さん! 応援してくれる人はリツイートを!

アンチ1・2:おおおおお!

明智:ま、待ってくれ……おかしいだろ……なぜそうなる……。

秀吉:明智光秀を滅ぼせー!(退場)

アンチ1・2:おおおおお!(退場)

明智:嘘だ……! こんなことになるはずない!

明智:だってみんな私を評価してくれてるはずなんだ!

明智:みんな私をほめてくれていたんだ!

明智:みんな! 今追われてるんだ! お願いだ、だれかかくまってくれ!

信者1:いやー、わたし実家暮らしで、親が厳しんですよねー。

信者2:言ってなかったけど、自分海外住みなんですよ。いまオランダ。

信者3:わたしはくのいち女学園の女子寮なんで。男子禁制なんですよねー。

明智:待ってくれよ! 誰か助けてくれよ!

明智:お前ら私のフォロワーだろ!? フォローしてくれよ!

信者1・2・3:ふっ、ふふふっ……。

信者1:こいつバカだな。

信者2:まだ気づいてないのか。

信者3:どんだけ鈍いんだよ。

信者1:こんなことだから。

信者2:簡単に。

信者3:騙される。

明智:……え?

秀吉:全部、拙者の裏アカだよ。

明智:秀吉……?

秀吉:隠し撮りで信長を疑心暗鬼にして一人にさせる。

秀吉:掲示板で光秀をおだてて、一人になった信長を討たせる。

秀吉:いやー、お二人とも面白いように拙者の手のひらで踊ってくれましたな。

明智:全部、お前が……?

秀吉:ここでおぬしを討てば拙者は名実ともに天下人!

秀吉:なにせ拙者は、裏切者を倒して主君のかたきをとった正義のヒーロー!

秀吉:で、ござるからなぁ。

明智:きさま……きさまあー!

明智:みんな聞いてくれ! 黒幕は秀吉だ! 私は被害者だ!

明智:信じてくれ! 拡散希望! 拡散希望! 拡散希望!

秀吉:もうおぬしを信じる者など誰もおらぬよ……ハアッ!(斬る)

明智:うぐっ……!(斬られて倒れる)

秀吉:ふふふっ……はははははは!(退場)

秀吉:     

0:(第18幕)

0:     

明智:ヘイ、シリ……。

シリ:はい、何をお望みですか?

明智:……。

シリ:何をお望みですか?

明智:……わからぬ……私は、いったい何が欲しかった……?

明智:何を望んでいた? いったい、何になりたかった……? もう何もわからぬ……。

シリ:……かしこまりました。電話をかけます。

明智:え……?

律:……もしもし? 誰か、聞いていますか?

明智:律……。

律:光秀さま。

明智:……すまぬ。全てお前の言う通りだった。私が間違っていた。

明智:もう取り返しがつかぬ……すまん……すまん……!

律:光秀様、いまどこにいるのですか?

明智:遠い場所だ。せめて最後にお前に会いたかった……。

律:……光秀様、空は見えますか?

明智:え……? ああ、見える。今宵は月がきれいだ……。

律:そうですね。私も同じ月を見ています。

明智:……。

律:この空はつながっています。私たちは同じ空の下にいます。

律:どんなに遠く離れていても、私はあなたの隣にいます……

明智:……ああ……そうだ……な……。(息を引き取る)

明智:     

信者1:明智光秀が討たれたらしいね。

信者2:残念ながら当然の結果だよ。

信者3:主君を裏切るとかありえないよな。

律:違います!

律:あの人は……とてもやさしい人でした。

律:光秀さま。私は語り継いでいきます。

律:あなたの人生を。

律:あなたの真実を。

律:みなさん、聞いてください。

律:これが明智光秀の物語……!

律:……拡散希望!

律:     

0:(閉幕)

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