So long! さようなら! 55
55.
私は孝則さんの再びの浮気に呆れはしたものの怒りは
なかった。だけど歩を傷つけたことを知った今、憎しみが
湧いた。好き勝手して歩が小学生の頃、会いたいと言っても
今の妻の機嫌が悪くなるからと、息子と会おうとしなかっ
た男。
そんな調子の良い父親でも、父さんと呼んで受け入れた息子
を又傷付けたのだ。
許せない、と思った。
歩が見た父親と若い女との痴話喧嘩の様子は衝撃的だった。
まだ高校生になったばかりの少年が受け止めるには、余りに
刺激的過ぎた。
相手を宥める為だったか何だか判らないがあのような恥かし気
もなく相手を腕に抱き、泣き喚く女を宥めながら
ねっとりと口を塞ぐように深い口付けを延々と続けていた父
いや、ひとりの雄の行動に思わず歩は勃起したのだ。
それほど濃厚な口付けは刺激的で、歩は大きなshockを
受けた。歩はその行為を語るすべを知らなかった。
挿入せずとも、そのふたりの光景は性交そのものだった。
母を愛してる、やり直したい、これからはずっと大切にする
そう言って復縁を懇願していた人間のすることなのか。歩は父親
と女の残像を頭の中から消すべく、今まで以上にサッカーに
打ち込んだ。