So long! さようなら! 28
28.
『人様のことをそんな風に決め付けるもんじゃない。
しかし、もしそうなら、彼女のような人を捨て置いて他の女に
走るなんて、馬鹿な奴だ』
「お前、惚れそうなの?
イヤ、もう惚れてるのか! 」
『あぁ』
「えっ!
本当に惚れてるのか、女に心動かされないお前が!
この地球に氷河期が来るじゃないか、やめろよ」
ふたりのくだらん会話で終わったがその後、彼女のことを少し
調査し、元夫の有責で離婚していたことを知るにつけ、何ていう
女性なんだと更に俺は彼女に惹かれていったのだった。
彼女のように情に熱くて良心のある人間なんてなかなかいやしない。
持てる者が持たない者に金銭を譲るのとは違うのだ。
ふたりの子供を抱え、元夫からの養育費も受け取らずに
必死で生きている人なのだ。
それでも更に貧困で困るであろう義姉の為に潔く自ら受け取れる権利を
譲ったのだ。
こんな素敵な女性に惚れ直さないわけがない。
俺は気長に待つのを止め、そしてまどろっこしい交際ではなく
プロポーズをした。
伊川さんの心配事がひとつずつクリアされ、俺達はもうすぐ
夫婦になる。
入籍をするにあたり、当初の約束通り遥と子供達の為にそれぞれの口座に
入金手続きをすることにした。
その時、彼女から一部を間宮順子という人物の名義で作った口座に
3000万円を自分の分から直接入金してほしいとお願いされた。