So long! さようなら! 12
12.
修造の意識が戻った時、里子の第一声は修造を気遣う言葉では
なかった。
「あなた、大変な事になっちゃった。
あなた後遺症が残って働けなくなるかもしれないって、どーしよう
困った事になったわ。
収入も無くなってその上治療費まで!ねぇ、自動車保険のほうにも
連絡してみたけれと゛、何だか雀の涙ほどしか出ないって言われてるのよ。
高い保険料払ってきてこれじゃ詐欺だわ」
里子はこの調子で自分の先行きの心配と金の話ばかりを
ギャンギャン、まだ傷の癒えない夫の前で喚きたてるばかりだった。
実は里子と結婚後ほどなくして、この里子の内面を知るに
つけ元妻、遥がどれほどできた妻であったのか自分には
過ぎたる妻であったのかを修造はつきつけられていた。
だが元の妻子の元へ戻るには自分は余りに非道な事を
しており、それは叶わぬ事だった。
しかしそれにしても見て見ぬ振りをして過ごして来たこの6年間は
今回の事故で更に追い討ちを掛けるように修造にとって
無為なものとして認めざるを得ないものとなった。
この調子ではそう遠くない日にそのうち自分は捨てられるだ
ろうなと判ってはいたが、里子からのとってつけたような
三行半は早かった。
姉にその説明を自分は里子に言われた通り、淡々と話した。
姉が里子の説明を額面通り受け取ったとは思えないが、自分は
なさけなさ過ぎて何も感じてない風を装うしか出来なかった。
里子に自動車保険のほうから思う程の給付金は出ないと聞いた時
修造は里子に交渉は多く支払ってもらう為にどうしたら良いか
いろいろ策を立てるから自分に任せてほしい、ひとりで勝手に
交渉せぬようにと釘を刺しておいた。