桃太郎@最終戦
「アンタが最後か」
鬼が島の最奥、宝物庫のような蔵の前で、鬼と対峙した桃太郎が言う。
「お前がここまで来てしまったということは、恐らくそういうことだな」
悲しそうに、辛そうに、鬼は答えた。
ここまで桃太郎が倒してきた鬼達、彼らの体躯もかなりのものであったが、さらに大きい。
首を振りながら、涙すらこぼして、鬼は続けた。
「どうして、なぜ、こんなことをする? 我々がいったい何をしたというんだ? お前は、なんのためにこんなことをした? こんなことをしてなんになるというんだ?」
「理由? それをアンタが聞くか……? これまで散々村に乱暴しに来ておいて!」
激昂する桃太郎と頬を濡らす鬼。
両者の状態は対極的に見えて、その実同一の感情に起因していた。
すなわち、相手への憎しみ。
桃太郎は育ててくれた村をこれまで荒らしていた鬼への憎しみ。
そして、鬼は仲間達を殺されたことへの憎しみだ。
涙を止め、鬼は言った。
「我々、鬼族は元来男しか埋まれない。故に、他種族から拐ってきた女に子を生ませるのだ。最近では人以外の種族などめっきり減ってしまったがな」
「は、だからって行いが正当化されるわけはないことはわかるだろう?
どんな理屈で固めたって、人と敵対する行為であることに変わりはない。気づいているだろう? 拐いに行った村々で向けられる憎悪に」
「だが、種の存続には必要な行いなのだ! それを止め得る力を持たないのなら、我らの行いに異を唱えることなど出来はしまい!」
「だから、私が来たのだ! アンタ達を終わらせて、連れ去られた女達を取り戻すために!」
叫ぶのと同時、桃太郎は走り出していた。
一気に距離を詰める。
抜刀。
水平に薙ごうとした刀、それが鬼の金棒によって防がれる。
鍔迫り合いはしない。
力では勝てないと、わかっているから。
一歩。後方へ跳躍し、再び攻撃へ転じる。
桃太郎の突きが、鬼の右目を貫かんと迫る。
それを首を振って避けると、鬼はすくい上げるように金棒を振るう。
弾かれ、桃太郎は宙を舞う。
鬼は、フルスイングでそれを叩き落とした。
「かはっ」
地面に弾み、息が漏れる。
身体が嫌な音を立てた。
何処かの骨が折れたか、ヒビが入っているだろう。
構わない。
この鬼で最後。
自分の全てでもってこの鬼を倒せば、後はどうなってもいい。
立ち上がる。
数度、打ち合う。
何度斬りかかろうと、防がれる。
だが、
「負けるわけには、いかないのだ……!」
刀を強く握りなおす。
「それは、こちらも同じことだ!」
鬼も叫び、右手で強く握った金棒を、構えなおした。
桃太郎が刀で、地面を払う。
砂埃が、大きく舞った。
目潰し。
首を切らんと、横薙ぎに刀を振るう。
肉に刺さる感触。振り抜いた刀は、しかし途中で折れていた。
目測を誤った。
首とは違う位置。少しずれたところに、傷があった。
骨を断てなかったのか。骨に断たれたのか。
しかしまだ刃は残っている。
半分ほどに短くなったそれを、鬼の腹へ突き立てる。
あとは横に払うのみ。
しかし鬼も許してはくれない。動かなくなった右手ではなく、左手で桃太郎を引き剥がし、投げる。
地面を転がり、再び立ち上がる。
ハチマキが落ちた。
それを手に取り、鬼の首へ巻きつけんと跳躍する。
が、振われた金棒が、それを妨げた。
体を強く打たれ、しかし桃太郎はあきらめない。
地面に着くや否や、再跳躍。
そして、鬼の喉笛にかみついた。
「ぐぁぁ!」
鬼が苦鳴をあげる。
同時に、死に物狂いで引きはがしにかかった。
しかし桃太郎は離れない。
強くかみしめ、ついには嚙み千切った。
「ふう、これでようやく終いですね」
倒れ伏した鬼を背に、桃太郎が呟く。
鬼の守っていた倉の扉を、開く。
そして、血に濡れた笑顔で、小鬼を守るようにしている女たちに向けて言った。
「さあ、帰りましょう?」
本当は小鬼たちを守る女たちが桃太郎を攻撃しようとするシーンも書こうかと思ったのですが、さすがに桃太郎を悪者にしすぎる感じがしたのでやめました。
要望があれば書きます。
無くても気分次第で書きます。
更新一覧で同じようなタイトルを見かけたら開いてやってくださいませ……。