恋愛相談アカウント「やよい」
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「ねえ、このアカウント知ってる?」
幼馴染の山本美津樹は僕のほうへスマホの画面を向ける。画面には「恋愛相談アカウント「『やよい』」の文字とハートマークのアイコンが表示されている。どうやらメッセージアプリのアカウントのようだ。
「なにこれ? 恋愛相談?」
「そう。風都も好きな人の一人や二人いるでしょ?」
「二人いちゃ駄目な気がするけど」
「まあ細かいことは気にしない! とにかく追加してみて!」
僕は美津樹に言われるままに謎のアカウントを自分のメッセージアプリに追加する。
「ん?」
ふと、違和感を抱く。
「美津樹、スマホ変えた?」
「お。気づいたね。そう! 機種変したのです! なんと最新機種ー!」
美津樹が嬉しそうに自慢する。子供のような無邪気な笑顔が可愛らしい。
「よかったね。前から新しいスマホ欲しがってたもんね」
「うん! だって、ずっと前からやりたかったことが出来るんだもん」
最新機種だから新しい機能とかもあるんだろうな。
――――――――――――
『風都! 助けて! 課題の範囲教えて! プリントなくしちゃって』
美津樹からメッセージが届く。おっちょこちょいだなあ。
『四十五ページから四十九ページまでだよ』
『ありがとー!』
こんな何でもない会話も美津樹となら楽しい。
アプリを閉じようとしたとき、視界の端に「恋愛相談アカウント「『やよい』」の文字が映り込む。
そういえば美津樹から教えてもらったっけ。試しにやってみよう。
『こんにちは』
『こんにちは、風都! 私はやよいだよ。風都は男? 女?』
そっか。アカウント名だけじゃ性別はわからないか。
『男だよ』
『そうなんだ。じゃあ、風都くんだね! 相談内容は何かな?』
『クラスに好きな女の子がいるんだけど、告白して振られたら今の関係が崩れちゃいそうで』
美津樹のことを思い浮かべながらメッセージを送る。僕は美津樹が好きだ。
『うんうん。わかるよ。その気持ち。告白って勇気がいるもんねー』
『それならいっそのこと告白しないほうがいいのかな?』
『えー? 告白したほうが良いんじゃない? 当たって砕けろって言うし。そもそも告白が成功する場合だってあるでしょ』
自動返信のアカウントかと思ったけど、意外に受け答えがしっかりしてる。人が返信してるのかな。
『それと「女の子」じゃわかりにくいからイニシャル教えてよ。あ。姓・名でお願いね』
見ず知らずの人に好きな人を教えるのは少し抵抗があったけど、イニシャルなら大丈夫かな。
『Y・Mだよ』
『じゃあ、Mちゃんだね。それで、風都くんはその女の子のどんなところが好きなの?』
『僕って引っ込み思案でなかなか友達ができなくて。そんな時に声をかけてくれたのが、Mだったんだ。Mは誰にでも優しく接するから、僕のことなんて何とも思ってないだろうけど。でも僕はそれに助けられたんだ。それに、笑顔がとても可愛いし』
『それをそのままMちゃんに言えばいいんだよー! 「結婚してください!」を添えて』
「結婚は言いすぎだよ。ふふ」
思わず声に出してしまった。でも、いつか美津樹に好きって伝えられたらいいな。
『結婚は言いすぎだけど、それくらい信頼し合える関係になれたらいいな』
『風都ならなれるよ! 頑張って!』
――――――――――――
「やっほー。風都。昨日教えたアカウントどうだったー?」
「うん。心のモヤモヤが晴れた気がするよ」
「それは良かった。で、どうするの? その女の子と結婚するの?」
美津樹がにやにやと笑う。
「なんで美津樹がそれ知ってるの!?」
「なんでも何も、あのアカウント作ったの私だもん。一応ヒントも混ぜてたんだけどね」
あっけらかんと美津樹が言う。そして美津樹は紙を取り出して何かを書き始めた。その紙にはこう書かれていた。
『美津樹』→『みつき』→『三月』→『やよい』
そういうことか!
「でも複数のアカウントって作れないんじゃないの?」
「うん。一台のスマホならね。機種変したって言ったじゃん」
そっか! 古いのと新しいので二台あるんだ!
「で、でも僕の好きな人が美津樹とは限らないじゃないか。イニシャルしか教えてないし」
必死に反論する。告白するにはまだ心の準備ができていないからだ。
「それが限っちゃうんだよね。Y・Mってイニシャル、このクラスには私しかいないもん」
しまった。「クラスの女の子」って言っちゃってた。
「ちなみに私は風都のことが大好きです」
「え? 今……」
「さて。私は風都の愛の言葉を受け取っていて、しかも両想いであることが判明したわけだけど。まだ愛の告白はされてないんだよね」
美津樹の顔がぐっと近づく。美津樹には敵わないな。
「僕は山本美津樹のことが大好きです! 僕と付き合ってください!」
「はい。よくできました。結婚する?」
「結婚はまだしないよ」
「あ! 今、『まだ』って言った!」
「いや、今のは言葉の綾で……」
その時、僕の額に柔らかいものが触れる。
「じゃあ、今はこれくらいにしといてあげる」
美津樹は無邪気に笑う。
本当に美津樹には敵わない。
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