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タマゴあたまの短編集

恋愛相談アカウント「やよい」

※たいあっぷにも掲載しています。現在イラストレーターさん募集中です!

https://tieupnovels.com/creator/user/Tamago_atama

「ねえ、このアカウント知ってる?」


 幼馴染の山本(やまもと)美津樹(みつき)は僕のほうへスマホの画面を向ける。画面には「恋愛相談アカウント「『やよい』」の文字とハートマークのアイコンが表示されている。どうやらメッセージアプリのアカウントのようだ。


「なにこれ? 恋愛相談?」

「そう。風都(ふうと)も好きな人の一人や二人いるでしょ?」

「二人いちゃ駄目な気がするけど」

「まあ細かいことは気にしない! とにかく追加してみて!」


 僕は美津樹に言われるままに謎のアカウントを自分のメッセージアプリに追加する。


「ん?」


 ふと、違和感を抱く。


「美津樹、スマホ変えた?」

「お。気づいたね。そう! 機種変したのです! なんと最新機種ー!」


 美津樹が嬉しそうに自慢する。子供のような無邪気な笑顔が可愛らしい。


「よかったね。前から新しいスマホ欲しがってたもんね」

「うん! だって、ずっと前からやりたかったことが出来るんだもん」


 最新機種だから新しい機能とかもあるんだろうな。


 ――――――――――――


『風都! 助けて! 課題の範囲教えて! プリントなくしちゃって』


 美津樹からメッセージが届く。おっちょこちょいだなあ。


『四十五ページから四十九ページまでだよ』

『ありがとー!』


 こんな何でもない会話も美津樹となら楽しい。

 アプリを閉じようとしたとき、視界の端に「恋愛相談アカウント「『やよい』」の文字が映り込む。

 そういえば美津樹から教えてもらったっけ。試しにやってみよう。


『こんにちは』

『こんにちは、風都! 私はやよいだよ。風都は男? 女?』


 そっか。アカウント名だけじゃ性別はわからないか。


『男だよ』

『そうなんだ。じゃあ、風都くんだね! 相談内容は何かな?』

『クラスに好きな女の子がいるんだけど、告白して振られたら今の関係が崩れちゃいそうで』


 美津樹のことを思い浮かべながらメッセージを送る。僕は美津樹が好きだ。


『うんうん。わかるよ。その気持ち。告白って勇気がいるもんねー』

『それならいっそのこと告白しないほうがいいのかな?』

『えー? 告白したほうが良いんじゃない? 当たって砕けろって言うし。そもそも告白が成功する場合だってあるでしょ』


 自動返信のアカウントかと思ったけど、意外に受け答えがしっかりしてる。人が返信してるのかな。


『それと「女の子」じゃわかりにくいからイニシャル教えてよ。あ。姓・名でお願いね』


 見ず知らずの人に好きな人を教えるのは少し抵抗があったけど、イニシャルなら大丈夫かな。


『Y・Mだよ』

『じゃあ、Mちゃんだね。それで、風都くんはその女の子のどんなところが好きなの?』

『僕って引っ込み思案でなかなか友達ができなくて。そんな時に声をかけてくれたのが、Mだったんだ。Mは誰にでも優しく接するから、僕のことなんて何とも思ってないだろうけど。でも僕はそれに助けられたんだ。それに、笑顔がとても可愛いし』

『それをそのままMちゃんに言えばいいんだよー! 「結婚してください!」を添えて』


「結婚は言いすぎだよ。ふふ」


 思わず声に出してしまった。でも、いつか美津樹に好きって伝えられたらいいな。


『結婚は言いすぎだけど、それくらい信頼し合える関係になれたらいいな』

『風都ならなれるよ! 頑張って!』


 ――――――――――――


「やっほー。風都。昨日教えたアカウントどうだったー?」

「うん。心のモヤモヤが晴れた気がするよ」

「それは良かった。で、どうするの? その女の子と()()するの?」


 美津樹がにやにやと笑う。


「なんで美津樹がそれ知ってるの!?」

「なんでも何も、あのアカウント作ったの私だもん。一応ヒントも混ぜてたんだけどね」


 あっけらかんと美津樹が言う。そして美津樹は紙を取り出して何かを書き始めた。その紙にはこう書かれていた。


『美津樹』→『みつき』→『三月』→『やよい』


 そういうことか!


「でも複数のアカウントって作れないんじゃないの?」

「うん。()()のスマホならね。機種変したって言ったじゃん」


 そっか! 古いのと新しいので二台あるんだ!


「で、でも僕の好きな人が美津樹とは限らないじゃないか。イニシャルしか教えてないし」


 必死に反論する。告白するにはまだ心の準備ができていないからだ。


「それが限っちゃうんだよね。Y・Mってイニシャル、()()()()()には私しかいないもん」


 しまった。「クラスの女の子」って言っちゃってた。


「ちなみに私は風都のことが大好きです」

「え? 今……」

「さて。私は風都の愛の言葉を受け取っていて、しかも両想いであることが判明したわけだけど。まだ愛の()()はされてないんだよね」


 美津樹の顔がぐっと近づく。美津樹には敵わないな。


「僕は山本美津樹のことが大好きです! 僕と付き合ってください!」

「はい。よくできました。結婚する?」

「結婚はまだしないよ」

「あ! 今、『まだ』って言った!」

「いや、今のは言葉の綾で……」


 その時、僕の額に柔らかいものが触れる。


「じゃあ、今はこれくらいにしといてあげる」


 美津樹は無邪気に笑う。

 本当に美津樹には敵わない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初からなんとなく読者に勘づかせおきながら、主人公の鈍感ぶりをしっかり書いていて共感できます~! [一言] 私はアカウントも持ってないし、タマゴあたまさんのを見たのも初めてなんですけど、と…
[良い点] 老害は辺境をさまよっていまして、久しぶりの気がします。 甘いですね。私は、甘いものが大好きです。
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