1話 拾い物には福がある?
「マヤ。こちらは終わりましたわ」
「うん。おつー」
「………ちゃんとお話ししてくださいな」
「頑張る、多分」
仕方ないだろう。だって10年人間の言葉をしゃべらなかったんだから、という言い訳は飲み込んでそう返事を返せば、金色の髪がふわりとゆれて彼女はため息を吐いた。
そう10年。10年である。彼女から年号を聞いてあの日から10年も経っている事に気が付いたときは流石に驚きすぎて目を回しそうになった。道理で体が大きくなったわけだ。14歳だもん。
今、私の拠点である洞窟には今拾った子がいる。数週間前私を化け物呼ばわりして叫び散らしたあの子だ。気持ちは分からなくもないが叫ぶのはやめてほしかった。その所為で魔獣に見つかってこの子を担いで逃げ出す羽目になったんだから。
ユフィから出来上がったポーションを受け取り太陽光にかざすときらきらと輝いて見える。ユフィが持っていた瓶は3つしかないから丁寧に扱わないといけない。
薬草単体だと巻き付けて一日は放置しなくちゃいけないがポーションだと軽い怪我なら一瞬で完治するからね。すごい技術だ。是非やり方を教えてもらいたいところだが、その前に瓶の代わりになりそうな何かを探さなくちゃな………。ココナッツ的な硬い実とかあるといいのに。
ユフィ……、ユフィ―リアを拾ってから私の生活は一変した。
まず私に名前が与えられた。一応もともと親から付けられた名前を持ってはいたのだがあいつらからもらった名前なんて愛着なんてなかったし、名前なんて必要のない場所で生活していたからすっかり自分の名前を忘れてしまっていた。
そんな私にユフィは”マヤ”という名前を与え、私のもとで生活をしている。
どうやら貴族同士のいざこざに巻き込まれたらしく、森から出ようにも出方がわからないと泣くので手元に置いておくことに。その間彼女には得意だというポーション作成をして貰ったり人間社会の事を教えてもらったりしている。
聞き取りはまあまあ出来るんだけど話すとなるととても大変で今のところ単語などでコミュニケーションをとっている。
んで私は彼女の身の安全の確保と森から出る為の手伝いをしているわけなのだが………、今まで出ようとした事がなかったので出口がどっちか分からない。
いやわかるにはわかる。鷹さんや雀さんに聞いた話で大体の方角は分かっているのだが問題はどっちが彼女の住む街なのか、という事だ。どういうことかと言えば別に難しい事じゃない。単純に街が二つあるのだ。
北の方にある街と南西の方にある街。現在地を考えると北の街が近い。南西の方は深部を突っ切らなくちゃいけないからかなりきついし、私の足で歩いて10日くらいかかりそうなほど距離があると鷹さんが言っていた。ユフィの足だったらどんだけかかるんだろう。恐ろしい距離だ。
なら北の街で決定かなと思ったのだが、ユフィが言う事には”転移”という魔法で森の中に入ってしまった為一概にそうとも言えないのだという。
下手したらどちらも彼女の住む街じゃないかもしれないと。おやおやなんてこった。
「それで、鷹さんたちは帰ってきましたの?」
「いんや。まだかかる」
「そうですか………」
落ち込んだように肩を落とすユフィは私の隣にすとんと腰を落とすとまた大きなため息を吐いた。ため息を吐くと幸せが逃げるよ?いや、ため息は実は良い事らしいとは聞いたことあるけど。
「まあでも運が良い方ですわね。こうして保護してもらっているんですもの」
「この森物騒。かなり運良いよ」
「でも心配ですわ。私の護衛達どうしているかしら………」
流石貴族。護衛がいるらしい。しかしそのあとに続く”お父様が処分していなければいいけど”の言葉にちょっと戦慄した。貴族怖い。何?君のお父さんは親馬鹿なの?
ポーションを岩を抉り出して作った棚に並べて、冷凍室から出しておいた肉に触れた。うん。これなら刃もちゃんと入るだろう。そろそろ日が落ちてきて来る頃だから火を起こして夜の準備をしなくてはならない。
ユフィも手慣れたもので薪置き場から手ごろな薪を持ってきてすっかり炭になってしまっている燃えカスの上に載せていく。その間に肉を切って準備していれば彼女が薪に向かって手をかざした。
「flAmE」
バッと薪のある場所に火か付き、燃えやすいものから火が伸びていく。ユフィは火の魔法も水の魔法も使えるのでとても助かります。いやあ、火起こしって結構大変なんだよね。片手で簡単に付く前世のアレが恋しい。ユフィ、火魔法も是非教えてほしい。
串に肉を刺して差し込み用に開けた穴に串を落とせば後はたまにくるくるするだけで簡単にお肉が焼ける。その間にとってきた森の恵みの果物をユフィに渡して火の傍に座った。