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 矢を前足で弾いて向かってくる魔獣に先に対峙したのは熊だった。熊はその太い前足で魔獣の体を横から掴んで動きを止める。追撃するように私の両手を広げたくらいじゃ足りない程大きな鳥(私は鷹さんと呼んでいる)が風の魔法で魔獣の尾に向けて攻撃をしかけた。

 棘を鷹さんに切り落とされた魔獣の長い尾が熊さんを攻撃するような動きを見せれば、鷹さんと一緒に飛んでいた雀さんが防御壁を貼って熊さんの身を守る。私もすかさず弓を構えて矢を射る。

 まずは邪魔な目を一つ潰す事に成功して、痛みで大暴れする魔獣から一斉に獣たちが手を引いた。


『ここまでは作戦通りだね』


 私の護衛役をしてくれている鹿がそう言った。片目を潰すだけで死角が増えるだけじゃなく距離感もつかみにくくなる。大暴れしている魔獣は熊さんたちに目もくれず一直線にこっちに向かってきた。

 これも想定内だ。



 がくりと魔獣の足元が崩れていく。ウサギさんに掘ってもらった大きな落とし穴だ。その底にはカエルたちに協力してもらって作り出された沼と、大きな毒蛇さんがその泥沼の中で待ち構えている。

 足を思いっきり毒蛇さんに噛まれたようで魔獣が悲鳴のような叫び声を上げた。あの毒蛇さんの毒はかなり強力らしいから相当魔獣にも効くはずだ。毒が回れば体も不自由になって簡単に倒せる。


 ―――――とは問屋が卸さないらしい。ものすごい力で跳躍してきた魔獣は先ほどよりもものすごい早さで一目散にこっちに向かってくる。私が射った矢が体に刺さるのもお構いなしで突っ込んできて流石に喉が引きつった。

 魔獣の後ろで熊さんたちが追ってくるのが見えるが早さが違いすぎる。鷹さんが風の魔法で攻撃しようが雀さんが目の前に防御壁を貼ろうがお構いなしで突っ込んでくる。


『やはり人間を狙ってくるか!』


 あっという間に距離を詰めてきた魔獣に今度は鹿さんが対峙した。がつんとその大きな角で魔獣の頭を押さえつける。あの魔獣は相当力が強いはずなのに一歩も引けを取らない鹿さんの魔力が動いた。


『IcIclE ArrOw』


 鹿さんの氷魔法が発動した。鹿さんの周囲にたくさんの氷の矢が現れたと思えばどんどんとその魔獣の硬い毛皮に突き刺さっていく。その隙に移動を終えた私はまた弓を構えた。


『―――――IcIclE、』


 矢の形状をした鋭い氷が手元に現れてそれを思いっきり弦と一緒に引っ張る。


『ArrOw!』


 放った氷の矢はその大きさを増し魔獣の体を貫いた。よし、通った!

 2回しか打てない"IcIclE spEAr"では手数がすくな過ぎるからと練習した"IcIclE ArrOw"は今のところ8発程度打てる事が分かっている。今の私の魔力残数なら恐らく後6発が確実に打てるだろう。


 もう一発打とうとまた弓を構えた私の左の額に強い衝撃が走って体が後ろにのけぞった。

 あいつ、後ろ足で石を私に命中させやがった……っ!!どろりと血が出て左目を覆っていく。だ、大丈夫。右目は無事だ。


『IcIclE ArrOw!』


 こんにゃろ、と言う気持ちを込めてもう一発矢を放つ。漸く追いついた熊さんも加勢して魔獣の体はあっという間にボロボロになっていった。



 どしん、と地響きのような音がして魔獣が地面に倒れこむ。暫くの静寂が森を包み込み、わっと森が湧いた。

 今回の作戦に協力してくれたウサギさんやカエルさん、毒蛇さんもやってきてわいわい騒ぎ始めるが魔獣はぴくりとも動かない。漸く詰めていた息を吐きだして左目を強引に腕でふき取った。


 狼たちの弔い合戦は、成功だった。


 熊さんの方に近付いて、間近でじっくりと魔獣を眺める。


『……よく、やったなあ』

『みんなのおかげだよ。本当にありが、』



 魔獣の目が開いた。青い瞳と私の目が合って。


 私の胸を鋭い尾が突き刺した。






『―――――――は、―――――なのかっ?!』

『うるっせェ!今、―――――る!!』

『―――――――!しっかり、しっかりして―――――っ!』


 皆の声が聞こえる。いつの間にか地面に倒れこんだようで視界には木々の隙間から見える空が見える。けど随分かすんでしまっているようでそのものの形状をきちんととらえることも出来ない。

 耳も遠くなったみたいにほとんど聞き取れなくて、周りの獣たちが騒いでいる事だけはどうにか認識出来た。

 熱かった体は熱を失ったみたいにどんどん寒くなっていって唇が震える。そうだ、魔獣に胸を刺されて。

 刺されたなんて言葉じゃ表せない程多分、ぽっかり空いてしまっている私の胸からはどんどん血が流れて行っているんだろう。目も開けていられなくなってきて、騒がしかった音もどんどん遠くなっていく。


 狼たちの顔を思い出して涙があふれた。


 あいつらが残してくれた命、こんなところで使い果たして本当に良いのか。良いわけがない。あいつらはこんな終わり方絶対望まない。

 渾身の力を振り絞って手を動かせば、こつりと指先にあたる何かがあった。震える手でそれを掴もうにも細かい動きはもうほとんどできなくてつかめない。


 誰かがそれを掴んで私の目の前にもってきてくれた。綺麗に輝く青い光……、魔石だと認識するのに時間はあまり必要なかったと思う。ゆっくり口を開けばそれを持っている誰かが少し動揺したように震えた。

 

 ずっと疑問に思っていた。魔石とは何かと。

 私の予想が正しいのなら、きっとこれは。


 飲み込んだ大きな石の感覚と共に、ゆっくり私の意識は暗転していった。









 森の中で10歳くらいの子供を見つけた。その子は金色の美しい髪と澄んだ菖蒲色の瞳をしていて綺麗なドレスを身に着けていた。明らかに普通じゃないその状態に目が合った状態のまま数秒見つめ合い。


「きゃああああっ?!!?化け物?!?!」

『誰が化け物だ失礼な!!!』


 確かに頭にケモミミ生えてるけど!!!化け物呼ばわりされるいわれはない!!!




ようやくプロローグが終了しました。ライオン少女に成るまでの道のりが長かった……。

早くマヤのお相手を出したいところです。


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