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生きる為だけに生活していた私に一つ目標が出来た。
きっとこんな事したってあいつらは喜ばないだろうけど、このままだと獣たちがどんどんやられていってしまうから逃げ出すわけにもいかないし。それにとてもむかついたから。
あの後、こっそりもう一度あの場所に行ってみればそこには二体の狼の遺体があった。特に片方の損傷が酷くて見るも無残で。あの元気な姿の原型なんてほとんどなかった。
『……いたぶるだけいたぶって、殺したみたいだね』
護衛にと一緒についてきてくれた熊さんがそう言った。私の読みと同じ意見で一つ頷いた後、そっとその遺体を持ち上げて顔を寄せた。すっかり冷たくなって、硬くなっている。
二匹の狼とはきっともう何年もの付き合いになっていただけに私の心を抉ってくるこの状況が酷く許せなかった。
――――――そして何より、弱い自分にひどく腹がたった。
狼たちを埋葬した墓の前で、強く握っていた手を開いた。爪が刺さって血がでてしまっているけどそんな事どうだっていいくらい気持ちが高ぶっていた。
『………絶対、殺してやる』
その日から私は魔法の訓練も戦闘の訓練もかなり増やすようになった。幸いあいつはまた森の奥に戻ったようでこの辺でそいつの被害にあった話は聞かないけど、今もまた虎視眈々とこっちを狙っているだろう。
魔獣は一度逃がした獲物に酷く執着する癖があるから、きっと私をまた狙ってくる。絶対に。
その時の為に獣たちに頼んで戦闘指導をしてもらった。
鳥からは目を、鹿からは足を、熊からは腕を。
ラノベの知識を信じて心臓が痛くなろうが魔法も行使するようになった。要は”魔力使いきれば容量が増える説”だ。痛みと闘っていても『きっと狼たちはもっと痛かった』と思えば頑張れた。
戦闘指導をしてもらっているとふと急に自分の体が強くなったように感じる事があったのでこの訓練は間違いではないではないと思う。もっと頑張ろう。
鳥から目、つまり見る事について教えてもらってからは遠くのほうまで良く目を凝らしてみるようになった。何度も繰り返してたら意識しなくても遠くまでくっきり見えるようになった。
鹿から足、逃げる為の足の動きや走り方を教えてもらってその通りに修行したら、前よりもぐんと早く走れるようになった。
熊から腕、素手で魔獣と闘う術を教えてもらって修行したら、弓でちくちく闘っていた魔獣に素手で立ち向かえるようになった。
魔法を行使し続けていたら、魔力が増えたらしくて氷魔法が一度に二回打てるようになった。
その日は割とすぐにやってきた。
久しぶりに対峙したそいつは前よりも体が大きくなっているように見えて足が竦む。こんなに遠くに離れているのにあいつは私の方を見てニヤッとあの時のように笑みを浮かべた。
震える手足をグッとこらえて弓を手に持った。ゆっくり構えて照準を合わせる。
『大丈夫。一人じゃない』
近くにいた鹿がそう言った。そうだ。これは私一人の戦いじゃない。
ぐぐと弓を引き、手を離した。
『弔い合戦だ此畜生!!!』
私の家族に手を出した罪、きっちり償ってもらう!!