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 鹿にお礼を言って別れてまた狩りに出かけることにした。最初に持ってきていたナイフは随分と刃こぼれしてしまっているので最近は剥ぎ取りの時しか使っていない。では何で魔獣とやりあっているのかと言うと、まあ簡単に言えば弓だ。

 いささか……なんて言葉じゃ表せないくらい不格好な弓だが最近では命中率も上がってきて今の私の大切な相棒である。けどそろそろ次世代の相棒を作る頃合いかもしれない。もっと大きくしても今の私なら扱えるだろう。

 

 背中には草で作った細長い籠を背負い、そこに石を削って作った矢を入れている。弓を持ったまま慣れた足で森の中を駆けまわれば小さな鳥から『あっちで外来種を見た』と教えてもらう。どれくらいの大きさか聞けばどうやら小ぶりのものだったようで、もう少し大きい魔獣を探しているのだと伝えればそっと飛びだっていってしまった。


 小ぶりのをたくさん倒してつなげてもいいけど、すごく大変だからできれば大きいのを仕留めて服を作りたい。

 別に体の大きさが必ずしも強さに直結しているわけでもないので。勿論体が大きいやつの方が強い事の方が多いけど。


 自分で探すしかないな、と肩をすくめてまた走り出す。ここにきてもうどれくらい経ったのかわからないけれど、自分の体の成長具合を見る限り数年……もしかしたら経っているかもしれない。分からないけど。

 まあそれだけいればこの森にどんな獣や魔獣がいて、どんな草や果物があるのかも理解しているし森の探索もこうやって駆け回れるほどにまで成長した。


 その間勿論命の危険はたくさんあったし、死にそうな怪我も何度も負ってきたけど獣たちとコンタクトをしっかりとっておいたのが吉だったようでその度に彼らが助けてくれた。本当感謝してもしきれない。ありがたや。

 狼たちは勿論、鹿や大きな鳥、熊がよく助けてくれる。熊さんと最初に会ったときは怖くて漏らしかけたのは苦い思い出だ。すごく優しい親父さんだけど。はちみつ分けてくれる超良い獣さんです。



 たたた、と駆けまわっているとふと嫌な予感に足を止めた。ざざ、と止めた足から音がしてばくばくと早い鼓動の音が聞こえてくる。



 ――――――こういう時は、おっかないのがいる。



 自分の経験上、それは間違いないことだった。

 私の中にある生存本能というか、野生の勘と呼べばいいのか。そういうものが危険信号を発してくる時がたまにあって、そういう場合は大体とても強い魔獣がいることが多い。


 けど、今回は様子が変だった。


 ……まず、獣たちの気配が全然ない。妙に静かすぎる。自分の心臓が聞こえる程、静か。

 どんよりとした空気が周囲を満たしていて、吐き気がしそう。 


 まずい。こちらの音を聞かれたかもしれない。慌てて姿勢を低くして物音をたてぬよう移動する。下手したらもうこちらの存在に気が付いているかもしれないが、この威圧感の正体が1匹とは限らない。出来るだけ静かに行動しなければ痛い目を見るのはもう経験済みだ。

 静かに、静かに。そうっと茂みの方に体を寄せれば何かがついさっきまで私がいたところに振ってきた。



 ――――――――狼だった。



 

 恐らく翡翠の色をしているだろうその瞳は固く閉ざされている。

 ちょっと待って、うそでしょ?





 あまりの光景に固まっていると、奴はやってきた。


 私のほうに目を向けて。そしてそいつはにやっと笑った。

 ライオンのような体を持ったそいつは狼たちよりも何倍も大きい。ライオンと違うのはその耳の大きさと尻尾に生えている鋭い棘。そんなことをぼんやり観察しながら私はまた狼の方に視線を向けた。


 焼肉が好きで、私をずっとずっと、助けてくれた狼は身動き一つとらない。ぼろぼろに引き裂かれた体は真っ赤に染まっていて本来の白い毛色は殆ど埋もれてしまっている。



『逃げろ!!!馬鹿!!』



 恐怖で足がすくんでいた私を現実に戻したのはそんな声だった。大きな大きなライオンみたいな魔獣の足に見た事のある狼がかみついている。そいつは今そこに倒れている狼の相棒で。


『え、援護を、』

『無理だ!ぜってぇかなわねぇ!』


 ぎゃん、と悲鳴を上げた。軽く振られたように見えたのにその足で狼の体が木にたたきつけられたのだ。

 ………今の私に勝てるはずがない事が、分かってしまった。


『に、げろって言ってんだろ!あとで焼肉貰いにいくからな!!』


 こんな時にまで、焼肉かよ。

 そんな皮肉は言えなくて涙をこらえて駆けだした。……あんな傷だらけであんなのに挑んで帰ってくる筈なんてない。私を逃がす為に狼がそう言うなら私はその思いにこたえなくちゃいけない。

 涙がボロボロと溢れてくる。背後でものすごい音が聞こえてくるけどあいつはこっちを追ってはこなかった。



 その日、狼が好きだった魔獣の肉を焼いたけど、匂いにつられてやってはこなかった。


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