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この世界は所謂”ファンタジー”な世界、つまり剣と魔法の世界である。
すべての人間には”スキル”や”身体能力”といったステータスが存在し、そのステータスによって職業を決め大人になって社会に貢献していく。まるでRPGのようではないか!と思うが、まあまさしくそんな感じである。
残念ながら特殊なスキルや魔道具(魔法で作られた道具)を使用しないとステータスの詳細は分からない為、大きな街に住んでいる人間は7歳の頃にステータスを特殊な施設で見てもらうことになっている。
お気付きだろうか。7歳。7歳である。
つまり私はステータスを見てもらっていないので自分がどんなステータスを持っていてどんなスキルを使えるのかが!まるで!………分からないのである。酷い話だ。泣きたい。
勿論ステータスは色々な事に挑戦したり努力したりすれば変動はするらしいが、生まれ持った才能が分からないというのはこの世界の人間において致命的な知識の欠落であることは間違いない。だがそれでもこうして生き続けていれるのだから私頑張ってる偉い、と励ましておく。
あの日狼たちに聞いた進化した魔獣とは今のところ遭遇してはいない。いつも通り獣たちから情報を仕入れて、分析や解析をしたり日々の糧を入手したりとどうにか生き続けている。獣たちも協力してくれるし。
そうそう。ついに念願かなって魔法が使えるようになった。ずっと修行していたのだけど全然できなくて諦めかけていたのだけど、私が使いたい属性の魔法を使える獣と交流出来たことによって一気に出来るようになった。
私がどうしても使いたかった魔法……それは氷魔法である。
水や火なども使えたらとても便利であり、特に水なんかは飲み水に困らなくなるのでサバイバルするうえではとても重要な魔法だとは思うが、私は一番に氷を取得したかった。
なぜなら、肉などの食糧がその日調達で暮らしていたから。
そこまで言えばわかるとは思うが、その日暮らしというものはとても余裕がなく不安な状態だ。明日獲物がとれなかったらどうしよう、とか心配して眠れなくなる事だってよくあるし、勿論獲物がとれずに空腹のまま一日を過ごしたことだって何度もある。
そんな状態で暮らしていれば心にも体にも悪影響だと判断した私は肉を保存するために氷魔法を取得するべきだと思い至った。勿論才能がなければ取得なんてできない可能性もあったし、そもそも自分に属性魔法を使えるだけの魔力があるのかどうかすら怪しいところだったが、どうやらちゃんと私にはそれくらいの魔力はあったらしい。
けど残念ながら魔力量は多くはないようで、一回使っただけで心臓が痛くてたまらなくなった。
よくラノベで”魔力を限界まで使うと気絶”とか”命の危険がある”とかそういった設定があったと思うが、この世界でもそういった設定……と言っていいのかわからないが、まあそういうものがあったらしい。
しかしだ。”魔力を使いすぎると心臓が痛くなって呼吸困難になる”なんてものは前世では見たことがなかったような気がする。本当死にそうになる。痛くて痛くて苦しくて。
けどそれも長くは続かない。恐らく続いていても1,2分程度……だとは思う。いや、下手したらもっと短いかもしれない。
だけど使わないと日々の生活に不安があるのだから使うしかないわけで。
その度に私は心臓の痛みと闘う羽目になった。しんどい。
何度も何度も、何日もかけてできあがった洞窟の奥にある”冷凍室”。ここに血抜きまでした獲物を放り込んでため息を吐いた。ここら辺は比較的穏やかな気候に恵まれているし、程よく暖かい。しかしそれは冷凍室にとっては致命的なもので放っておけばどんどんと溶けて行ってしまう。だから一日一回は必ず氷魔法を冷凍室にぶち込んでいくのだが……。
『……あー、やりたくないな』
思わず独り言がこぼれた。だって痛いし苦しいし、こんな事続けていたら死んでしまうんじゃないかと思う程辛い。
けど、しなかったらしなかったで今度は心がしんどくなる。食べれないというのはとんでもなく精神力を削る不安要素であり、それは排除すべきならないものであるのだから私には選択肢は存在しないのだけども。
たまに狼たちも獲物を持ってきてくれるけど、それに甘えてばかりじゃダメだからね。
『――――IcIclE spEAr』
別にラノベによくある長ったらしい詠唱も、魔法陣も必要ない。ただ既定の流れにそって魔力を動かして魔法名を唱えるだけ。心の中で呟くだけでもいいみたいだけど、喋った方が安定するらしい。これだけで魔法が簡単に使えるなんて。初めてそれを知った時はとてもびっくりした。
こんなんでよくこの世界は争いまみれにならずに済んでるよなあ、なんて感想を抱いたりもしたがまあ争う先にまごうことなき悪の魔獣がいるからこそだろうなと結論付けている。本当、妙なバランスで保っている世界だ。
魔法を行使すれば目の前に大きな槍の形をした氷が現れて冷凍室に突き刺さる。そしてすぐに起こる心臓の痛みに顔をしかめてその場でうずくまった。
――――――痛い。痛い痛い、苦しい、つらい。
あまりの痛みと苦しみに咳き込む。大丈夫。もう何度もおんなじことをやってきて死ななかったのだから。だから大丈夫。
どうにか自分を勇気づけようとそんな風に言い聞かせながら耐えていればふっと急に体が楽になる。まるで止まっていた血が急に流れるみたいな変な感覚とともに朦朧としていた視界も意識もどんどんクリアになっていく。
そうすると、ふと背中を何かがさすっているような動きがあって詰めていた息を吐きだした。
『………ごめん、いたの?』
『うん。大丈夫かい?』
後ろを振り向けばやはり想像していた通りの獣がそこにいて思わず笑みを浮かべた。草と同じ色をした体毛に長い四本の足。立派な茶色の角。この子は私に氷魔法を教えてくれた鹿の獣だった。
『大丈夫。なんか慣れてきたみたい』
『本当は慣れちゃダメなんだけどね。体にかなり負荷がかかってるはずだから』
『うーん、確かにそうだと思うけどね。背に腹は代えられないっていうか、生きる為に必死なんだ』
ところで、どうしたの?と聞けば鹿は背中に乗っていた草のついた枝を地面に転がした。よく見ればそれは毒消しの効果がある草で、高いところに生えているから手が届かないと先日嘆いていたやつだった。
『え、これどうしたの?』
『鳥と協力して落としてきたんだ。ほしいって前言ってたろう?』
『うん……、え、いいの?』
『この間ワシの子供を助けてくれたお礼。是非受け取って』
『うわあ、ありがとう!助かる!』
す、と背後から冷気が漂ってきて思わずくしゃみをこぼした。ぶるりと体が震えて思わず自分の体を見る。
初めてこの森に来た時とは比べ物にならないくらい体が発達してしまって、当初着ていた服はもう着ることが出来なくなっていた。他の子を見ることが出来なかったからわからないけど、屋敷にいた時は十分な食事はとれていなかったので栄養失調だった体はかなり小さかったのではないか、と思う。
森にきて生活してるほうが成長するだなんてなんか変な気分だと思いながら体をさすった。今は魔獣たちからはぎ取った毛皮をそれっぽくして着ている。さすがに下着なんでものは作れなかったからワンピースみたいにしているのだけど……、大分小さくなっている。というか私がまた成長したらしい。