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狼たちのおかげでなんとか森で生き続けて早………もう日付の感覚が分からないが体が大きくなってきたので結構経っていると思われる。
魔獣との戦い方や魔草の見分け方や対処方などもこなしていけるようになってきた。
恐る恐る進んでいた森の中もまだまだ狼たちには及ばないがすらすらと歩けるようになって、狼たちからの手から離れて生活する時間も増えてきた。本当狼たちには感謝しかない。
既に起こし終えた火の近くに枝に刺した肉を近付けて火あぶりにすれば肉の焼ける匂いが鼻をかすめていく。今日の戦果はでっかいカエルだ。私はウシガエルと呼んでいる。超大きいので。
ウシガエルは水の魔法を使うのでかなり苦戦する魔獣だが、肉が非常にあっさりしてて美味なので率先して倒したい。
そうこうしていると匂いを嗅ぎつけた狼が2匹やってきた。いつもの腹ペコな奴らなのを確認してから焼いた肉をそちらに投げつける。
『今日もごくろーさん。そっちはどうだった?』
『おお!ありがてぇ!肉!』
『焼き肉!』
『いや返事しろよ。……まあ肉食べてからでいいけどさ』
美味そうにがつがつと肉を食べている姿を見ていたら思わず苦笑いがもれた。さて、私も食べようかと狼にあげた先ほどの肉よりも随分小ぶりな肉にかぶりつく。うん、ちゃんと火が通ってる。きちんと食用として加工されているものじゃないからどうしても生臭は否めないが、一角ウサギの肉よりは断然美味しい。
『こっちは特に異常はなかったぜ』
先に食べ終わった1匹がそう言いながらぺろりと口の周りに舌を回した。焼いた肉を上げているおかげか口の周りが血まみれにならずに済んでいるので、見ているこちら側としてはとても有難い光景だ。
食事中のこいつらの光景はさすがにエグくてちょっと泣きそうになったからね。
『んあー、そういや変なの見かけた』
『変なの?』
漸くもう1匹の方が食べ終わったのかその図体に見合わない可愛らしい犬の座り方でそう私に告げてきた。
『なんか、外来種同士で食い合ってた』
『………マジ?』
『マジ』
外来種というのは、人間の言葉で言う”魔獣”の事だ。理性もなくただ目の前にいる生き物に攻撃をしてくる野蛮な奴らで、そいつらはただの獣たちとは違って”魔石”というものを内側に宿している。
獣たちにとっても人間にとっても魔獣(外来種)は敵であり、排除すべき存在であるのだが人間は獣も魔獣も無差別に襲ってくる為、普通は獣たちも人間には警戒を示す。だから狼たち以外の獣と仲良くなるためにかなり苦労しました。
しかし今では熊や鳥、鹿やウサギなどとも仲良くなることが出来た。人間より獣の方が優しい。
『あー、俺も前見た事ある。あいつら同じ種の筈なのに敵味方関係なく食いにかかってくるよな』
『ほら石あるじゃん。あいつらの体の中にあるやつ』
『うん。ニンゲンが生活を豊かにするのに使ってるアレだろ?なんて言ったっけ……、こせき?』
『魔石だよ。んで?その魔石がどうしたの?』
『あ、そうそう。マセキをさ食ったんだよそいつ。そしたら食べた奴の体が急にでっかくなってさ。流石にびびって逃げてきた。ちょーこえぇ』
『げ。食い合って強くなったって事?んなのありかよ』
………なんだか前世で聞いたことあるような状態だ。確か呪いの一種で蟲毒……とか言ったっけ。まあそれは置いておいて。つまり何?魔獣って魔石食って進化してるの?
肉を平らげて串にしていた枝をぽいと捨てて大分弱くなってきていた火に砂をかけた。見る見るうちに火は鎮火して、煙だけが空へと昇っていく。森の中で火事になったら獣たちの住処がなくなって私への信用が一気になくなるだろうからね。火の取り扱いには非常に注意しなくてはならない。
使わなければいいのでは、と言われても勿論そういうわけにもいかないので。
『魔じゅ……いや、外来種はそうやって進化してんのか。知らなかった』
魔獣の生態は謎である。
それが人間の常識で、その為に魔獣を研究する為だけの施設や職業があるとは聞いている。魔獣が進化するというのはこの世界の知識に疎い自分でも知っている事だったがまさか共食いで進化するとは………、なんともまあおっかない世の中である。
『まああいつらどこでも沸いてくるからな。共食いしても数が減らねぇっておっかねぇー』
『ちなみにそれどこだった?』
『あー………あっち』
狼が鼻を突き付けたのは南西の方角だ。なるほど、一応注意しておこう。
体が大きくなったという事は進化してしまったという事だろうから用心するに越したことはない。この辺は比較的安全な地域で魔獣が少なく獣が多い。南西、つまり森の深部になればなるほど獣の強さも魔獣の強さも段違いになるだろう。
しかし、魔石を食って魔獣は進化してるのか……。そんな事本には書いてなかったけど常識なのだろうか。
私は座っていた体を起こして残りの肉を狼の方に投げ入れた。
『情報ありがと。今日はもう少し獲物狩ってから巣に戻るよ』
『おう。気ぃつけろよ』
『油断はダメだぜ』
『分かってるよ』
本当優しい狼たちである。