2話 森とさよならする日
日の出とともに目を覚まし、森を駆け抜けて湧き水を確保する。木で出来た大きな桶にたっぷりの水を注ぎ洞窟に戻ると夜の狩りから戻ってきた犬の群れが『おはよう』と挨拶をしてきた。
私も『おはよう』と返しながら桶を地面に置いてわちゃわちゃと彼らの毛並みを撫でまくる。
私が夜きちんと寝れているのは夜この辺を巡回して狩りをしている犬たちによる手柄が大きい。思う存分撫で繰り回すと彼らは気持ちが良かったと言いながら自分たちの巣に帰っていく。
それを見送ってからまた桶を持ち直し、洞窟の壁に作った棚に置いてから今日の朝ごはんの準備だ。
自分で取った野菜や鹿や鳥に貰った薬草を食べやすいサイズにちぎって小さなお鍋に放り込み、そこにお水を足していく。つけっぱなしだった焚火にまた薪をくべ、その上に鍋をつるした。この鍋は先日ジークがくれたものなのだがかなり使い心地が良い。焼くだけじゃなく煮るも出来るようになって料理のレパートリーは一気に広がった。
野菜を煮ている間に冷凍しておいた肉を取り出して風の魔法ですっぱりと切り刻む。それをぼとぼとと鍋に突っ込み次は調味料の準備だ。
塩分がたくさん含まれている潮口葉を一つ入れて蓋をして、暫くすると漂ってくる良い香りについ頬が緩む。
「おはよう、マヤ。今日も早いね」
そうしていると匂いにつられたのかジークが起きだして、寝ぐせを付けた銀髪を手で整えながら奥の部屋……部屋?からやってくる。ジーク用に慌てて掘った部屋だが存外気に入っているらしい。なんというか本当豪胆な人だ。見た目によらず。
「おは。ジークが遅い」
「普通はこんな時間に起きたりしないよ……、陽が昇り始めたばかりじゃないか」
「森じゃ普通」
森には人工的な明かりなんてものはないし、勿論時計なんてものも存在しない。
だから獣達は日が沈んだら夜、陽が昇ったら朝と認識しているし、獣同士で待ち合わせなどをする際も朝、夜の二つしか使わないのだから必然的に皆その時間だけは把握するようになる。
「まあ流石に10日以上この生活してると慣れてくるけどね」
「さっさとかえれ」
「君を連れて帰るまで帰らないと言っただろう?」
そう言ってにっこり笑みを浮かべたジークは昨日着た服を洗ってくる、と空の桶をもって外に出ていった。
ジークと一緒に住み始めて13日目。ジークも私も慣れてきてお互いの名を呼び捨てで呼ぶようになり、生活リズムも段々と合うようになってきた。私は毎日毎日欠かさず「帰れ」を連呼しているのだけどどこ吹く風、まるで効果のない言葉に感情が段々こもらなくなってきた。
最初の頃は獣たちがさっさと追い返してくれるだろうなんて思っていたのに、何故か彼らはジークに協力的だった。
話を聞いてみるとどうやらジークのこの行動は獣たちにとっては『求愛』に見えるそうで、邪魔をするべきじゃないという結論に至っているらしい。
いや全然違うんですけど!?という私の言葉なんて照れ隠しくらいにしかとらえられなかった、悲しい。




