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ユフィを無事護衛にお渡しして早数週間。
拠点にしている洞窟の前に何故か銀髪の男………、ええと、名前長くて忘れたがジークさんがいた。
警戒するように熊さんやら鹿さんやら雀さんやらがわらわら彼の周囲を囲んでいるがどこ吹く風の顔でニコニコとそこに立っている。すごい肝っ玉だ。
そう、こいつが私がつい現実逃避してしまった原因である。いや本当なんでいんの????
『だいぶ前からここで動かないんだよ。なんだいアイツ』
『襲ってくる様子もないし、あの人間の知り合いならこっちから襲うわけにもいかないだろうから囲んでたんだけど』
熊さんと毒蛇さんがそう私に話しかけてきた。この2匹に見られていてニコニコしたまま動かないのはヤバい。片方は日本の熊なんてなんぼのもんじゃい、な大きい熊さんだし、毒蛇さんに至っては映画で見た事あるなくらいのサイズ感がある。名前の通り強力な毒も持っているおっかない力を持った蛇だ。
その内面は勝気なおばちゃんだけど。
「……ええと。何用?」
「まずはお礼を。無事ユフィ―リア様を送り届けることが出来ましたのは、マヤ様のご尽力あっての事です。本当にありがとうございます」
「い、いえ。別に」
おおう、できればもっとゆっくり喋ってくれたまえ。ユフィと練習したとはいえ人間の言葉のヒヤリングもまだまだなんだ。
でもそうか。ちゃんとユフィは家に帰ることが出来たんだな。少しほっとした。ちゃんと帰れたかどうか、やっぱり少し心配だったけど杞憂だったらしい。
でもなんでこの人ここにいるんだろうか。あんなことがあった後なのだからユフィの傍にいるべきなのでは?護衛なら猶更。あんまり強そうには見えないけど。
鎧は着てるけどひょろっとしてるように見えるし、身長は高いけど大きな魔獣のような威圧感みたいなものはない。帯剣してるけどその剣はあまり大きくもないようだし……、うん、やっぱり正直あまり強そうに見えない。
けど少なくともこの森の中、一人でここまでたどり着くだけの力はあるのだろう。油断は禁物だ。
「それで、用件は」
「はい。マヤ様をお迎えに上がるようにと命じられましたので」
は???
『は?????』
思わず口に出した私は悪くないと思う。
「む、迎え?誰?」
「ユフィ―リア様から、マヤ様をお迎えに上がるよう申しつけられましたので」
ユフィはどうやら私を連れていく事を諦めていなかったらしい。わざわざジークさんを迎えによこすなんて。というかそもそもユフィも何故私が断ったのか分かっている筈なのにどうしてそんなことをする?
この耳じゃ異端すぎて万が一他の人間に見つかったら間違いなくアウトだ、化け物だの悪魔だの言われてお陀仏行きだろ絶対間違いなく。
「無理。この耳じゃ」
そう答えることをジークさんは分かっていたように笑うと、すっと手元から金属製の輪っかを取り出した。それにはいくつか魔石が埋め込まれているがかなりシンプルなデザインをしている。サイズ的に……腕輪、だろうか。
「えっと……?」
「これは幻影魔法が施された魔道具です。これなら頭の耳を隠す事が出来ます」
ユフィ―リア様の手作りですよ、と続けてそう言われて思わず『あの子は何してんの?!』とつい叫んでしまった。
魔道具の作成ってかなり大変だって言う話だけど?!本当あの子なにしてんのかなっ?!




