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⑦2人の秘密

それは昨日の立候補者演説の直前のことだった。


「えっ?西園寺先輩が行方不明ですか?もうすぐ演説じゃないですか?冷泉先輩。」

「だからよ。白石さん。」何故か冷泉先輩は落ち着いている。

「どうして西園寺先輩は?」

「実は、玲子はああ見えてステージとか檀上が苦手なのよ。話すことが苦手とか、そういう事じゃないんだけど。」

「私、探してきます!」

「ええ、白石さん、お願い。私は万一のためのこれに目を通しておくわ。」

「原稿ですか?西園寺先輩の?」

「そう、万一の為にって、玲子から渡されていたわ。」

「わかりました。じゃあ、行ってきます。」

私は生徒会室を飛び出した。

臨時で選挙の手伝いにきていた女生徒たちも捜索に手伝ってくれる。

私は彼女たちに校舎の中を探してくれるようにお願いした。



「・・白石さん、貴方には玲子は見つけられない・・」

生徒会室から飛び出し駆けていく白石留美の背中をみて冷泉夏海は独り言ちる。


・・いや、仮に見つけたとしても、あの子を救うことなんてできない・・


・・誰もあの子を救えない・・


・・だから、私が玲子を守ってあげるんだ・・ずっと・・


冷泉夏海は、西園寺玲子の残していった原稿を開いた。






・・・まだ30分以上あるか・・・

生徒会室から飛び出した私は立ち止る。


・・・そんなに急がなくていいか・・・


・・・でも、わかりやすい人だ・・・


私は昨日の玲子先輩との会話を思い出していた。



「西園寺先輩、私たち生徒会選挙終わったら、何からやるんですか?」

「白石さん、まずは、体育祭の準備よ。忙しくなるわよ」

「忙しくですか・・」

「ええ、それと体育祭につかうものは全部生徒会が保管している。第2体育準備室でね。今度一緒に行こう・・・」



私は小さな小屋の前についた。


・・・第2体育準備室・・ここか・・・


・・・玲子先輩・・・私に見つけてほしいっていうことでいいんだよね・・


・・・もしかして、これ、どんでもない自惚れかな・・・


・・・見つけたとして、問題はその後だ・・・


・・・人見知りな私では、ちょっと無理だな・・・


・・・少しキャラぶれするけど仕方ないか、これも代償だ・・・


私はそう思い、自分の頭の中の30%程度を白石留美からコンサル森田に切り替える。

小賢しくて、人を馬鹿にしたような嫌な奴。

絶対に付き合いたくないタイプ。

そして記憶の中から以前見た西園寺玲子の経歴書の内容を引き出す。

趣味・特技は、アーチェリー、チェス、ピアノ、バイオリン、フェンシング・・・


「よしっ」



コンコン

私は、その小屋の入り口を軽く叩いた。

「宅急便です」


ガサガサッ

中で人の動く気配がした。


「失礼します。」静かに扉を開いた。


小屋の奥で少女が震えていた。


膝を抱えた体育座りで下を俯いて。


「西園寺先輩みつけた!」私は、わざと声を明るくする。

「留美・・・」玲子先輩は顔を上げる。

「先輩、見つけるの、私でよかったですか?」

「うん、待ってた。」

「先輩、どうしますか?」

「私、登壇するのがこわい、あの時のことを思い出してしまうから。」

「あの時?で先輩、演説はどうしますか?」

「夏海がなんとかしてくれるよ。」

「冷泉先輩じゃなくて、西園寺先輩がどうするかを聞きたいのです。」

「私、一人じゃ無理だよ・」

「先輩、一人じゃなければ、いいのですか?」

「もしかして留美が一緒にいてくれるなら大丈夫かもしれない。」

「いいですよ。それしか方法がないのでしたら」


時間は、まだ十分ある。


私は、玲子先輩の前で、足を揃えて正座をする。


「では、先輩、その前にお願いがあります。」

「留美、何、改まって?」

「こう見えて、私は礼儀正しいのです。」

「お願いって?」

「『あの時の話』というものを、私に教えて頂けませんか?」

「き、聞いてくれるの!留美!」

「はい、聴きますけど、そのためには先輩も正座してください。」

「なんで?」

「人に大切な話をする時は、いや聞くときも、我が白石家では正座と決まっているからです。」

「そっか、わかった。従うわ」

そういって玲子は正座をして話し出した。


・・・よし条件はクリアした・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

玲子先輩は語りだした。

「私、小さい頃の夢はアイドルになることだったのよ

小さい頃って、幼稚舎の頃。

大きな通りに面した商業施設の入り口近くにあったステージで、いつもアイドルごっこをして遊んでいたわ。

歌ったり、踊ったり、なっちゃんとグループ組んだりしているうちに、ファンも増えて、いつしか10名近くの子供たちが私のステージを見に来てくれるようになっていた。

そんなある日、その子に出会ったのよ。

毎日、私がアイドルごっこをしていると、必ず見にきてくれて、いつも私が来るのを待っていてくれて。

そして、私たちの拙い歌や踊りを、いつも本当に嬉しそうに見つめていたわ。

うん、ただ見つめているだけだった。

そんな熱烈なファンだったから、ある日、その子に声をかけてみた。

でも彼女は何も答えなかった。られなかった。

そして知ったの。

彼女は、先天的聴覚障害で発話障害だったのよ。

でも彼女は、読唇術ができたので、それからは、彼女はメモを使って会話するようになったわ・

私も簡単な手話なんかを覚えた・・・」


玲子先輩は、その少女との思い出を楽しそうに話す。


「でも、ある日、それは起きてしまった・・・

私はいつも通り、ステージの上で歌い、踊っていたわ。

その日は、なぜか彼女はステージの前にいなかった。

すると、道路の向こう側から彼女が歩いているのが見えたので、彼女に向かって手を振った。


彼女も私に気づき・・・


嬉しそうな顔で・・・


私のほうに走ってきた・・・


そして道路の真ん中で・・・」


玲子先輩は言葉に詰まった。


「その子は事故に遭われたんですね」


「うん、すぐに救急車が来て運ばれたけど・・・

ダメだった・・・

私が殺したんだ・・・

あの子を・・・

私があんな遊びをしていなければ・・・」


玲子先輩は涙をこぼす。


「それ以来だよ・・


演壇とか、ステージとか、そういう場所にたって・・


私をみつめる人たちの姿を見ると・・・


思い出してしまう・・・


あの子の顔を・・・


嬉しそうなあの顔を・・・


思い出して・・・


・・・逃げだしてしまう・・」


玲子先輩は、私に寄りかかり涙を流す。


私は、やさしく彼女の髪を撫でてあげる。


「ありがとう、留美、聞いてくれて」

「少し落ち着きましたか、先輩」

「うん、ありがとう、留美」

「では、先輩。お時間なので行きましょうか。」

私はすっと立ち上がる。

それにつられて玲子先輩も腰を浮かせる。

「あっ、痛!」

とたん、正座による足の痺れからバランスを崩し倒れこむ玲子先輩。

やはり玲子先輩は正座になれていない。

足首も軽く捻っているようだ。

「痛い!、た、立てないよ。足がつって、い、痛い・・・」

「では、肩を貸しますので」

そういって、私は、先輩の前でしゃがみ、肩を差し出す。

私の肩を借りて、立ち上がる先輩。

「ごめん、留美。迷惑かけて」

私にもたれかかり、足をひきづる先輩。

「ほんとですよ、先輩。で、このまま、檀上までご案内してもよろしいですか」

「うん、いいよ。」


そして演説会場である講堂へ。


ギー


講堂の重いドアを肩で押し開けて中に入っていく。

通路の真ん中を通って演壇に向かう。

女生徒たちの視線を一身にうける2人。


「・・・うそ、西園寺様、一体何が?・・・」


「・・・西園寺様、苦しそう、顔色も悪い、ご病気?・・・」


「・・・脚を引き摺ってらっしゃる、何か大けがでも・・・」


「・・・あんなになっても演説にこられるなんて・・・」


「・・・あの1年生、身体小さいのに西園寺様のことを・・・」


「・・・応援演説書いた子?編入生?健気だなあ・・・」


女生徒たちのひそひそ声が聞こえる。


・・・健気か、それは、ちょっと違うけどさすがに、身長差10cmは辛いなあ・・・


脚を引き摺り、苦痛に満ちた表情の西園寺玲子。

それを必死で支える小柄な1年生の女の子。


「先輩、もう少しですよ。頑張ってください。」

「あ、ありがとう。白石さん」


演壇に登る階段。


・・よし、ここでもう一押し・・・


わたしは、玲子先輩の耳元に口を近づけて、そっと囁く。


「先輩の好きな人ってわたしですよね。」


えっ!!


突然の言葉に意表を突かれた玲子先輩は、狼狽してその場で崩れそうになる。

それを必死で支える私。


キャアアアアアア!


女生徒たちの悲鳴が上がる。


ようやく演壇にたどりついた私たち。


「西園寺先輩はこのような状況ですので、何かのために横でサポートして構いませんか?」私は、司会役に許可を請う。

「ええ、是非ともお願いします。」

そして玲子先輩の隣に戻る。

「先輩、ここにいますよ。頑張ってください。」

「ありがとう、留美」


そして西園寺玲子は、立派に演説を終える。

場内は皆、割れるばかりの拍手と歓声。

そして私たちは、講堂から退出する。


そんな中で、ただ一人、驚愕と怒りを混ぜた表情の冷泉夏海。

夏海は自問する。


・・・なんで?・・・


・・・あの子が玲子をここに連れてきたというの?・・


・・・あの子が玲子を救ったの?・・・


・・・私が間違っていたというの?・・・


・・・守るだけではダメだったということなの?・・・



私たちを追って講堂から出てくる冷泉先輩。

「玲子!一体に何をしていたのよ!」

やっぱり怒ってる。

「夏海。別にいいじゃない。無事演説も終わったんだし」

「よくないわ!あなたどこに行っていたのよ!」

「どこでもでもいいでしょ」

どうやら玲子先輩は、私と2人だけの秘密をつくりたいようだ。

「いいでしょって。白石さん、玲子をどこで?」

そういって私のほうを睨んでくる。

さてなんと答えるか?

「あ!、わたし、もう限界です!冷泉先輩代わってください。」

私はふらつきながら涙目で訴える。

演技ではなくて、実際、かなり腰にも肩にもきていた。

「し、白石さん、わかったわ。お疲れ様。」

私に変わって、夏海先輩が、玲子先輩を支える。

「ありがとうございます。冷泉先輩。西園寺先輩を保健室へお願いします」

そういってしゃがみこむ私。

保健室に向かう2人の背中の見送る。


・・・冷泉先輩は、私が玲子先輩を救ったと思っているのかな・・・


・・・私は、救ってなんかいないのに・・・・


・・・こんなのたんなるペテンだ・・


・・・そして、こんなことするのは、私じゃない・・・


・・・しばらくは、コンサル森田は封印だ・・・


・・・こんなことしていたら、私は私じゃなくなってしまう・・・

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