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⑥エグゼクティブ・サマリー

「どうだ!なんの小細工か知らんが、俺のあずかり知らぬところで勝手に出来た伏線なんか、潰してやったわ!ざまあ」

俺は心の中で快哉を叫んでいた。

それは、教室での白石と仙倉とのなにげない会話の中にあった。

仙倉がトランスジェンダーであることを暗示する伏線。

俺が知らないうちに工程に追加されていたものであった。

最初は、知らぬ間に自分で追加したのではないかとも思っていたが、やはりどう考えても違う。

誰かが意図的に追加したものか?

何のため?

プロジェクトの妨害工作?

いや単なるいたずらかもしれない。

しかし、こういう雑音は早めに消しておかなければならない。

雑草は小さなうちに抜いておかないと後々面倒だ。

そう考えた俺は、思い切った手に出た。

ロンギヌスの槍を使った。

この段階では、本来使う予定のなかった伝家の宝刀を抜くことにした。


それが、「主人公と2人きりのお風呂タイム」だ。


美少女集団戦闘系プロジェクトで、毎週やっている大浴場でのイチャコラ交流ではない。

1対1のガチ入浴である。

身体の洗いっこもありである。

そもそも、負け確定ヒロイン相手に使っていいものではない。

しかし、俺の負けず嫌い精神が働いてしまった。

結果、仙倉のトランスジェンダー疑惑は、それにより一気に霧消した。

さよう

もし、あの女神様のバックに謎の委員会なるものがあれば、今頃、彼女は呼び出しを受けて大目玉を食らっているかもしれないな。

今日の進捗報告会では、そのあたりの話が出るかもしれない。

まあ、いまさら遅い。

この件について何か言われたら、とぼけてしまうしか他ない。

よし、心の準備は万全だ。

あ、その前に今日実施したタスクを振り返っておかないと。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あー、今日は本当に疲れたよ」


学校から帰った私は、ベッドの上に倒れこむ。

そして今日あったことを思い出していた。


今日は、全校生徒を前にした生徒会役員立候補者の演説会。


演説を前に突如、行方不明になった西園寺玲子。


手分けして玲子の行方を捜す生徒会メンバー。


そしてまさに演説開始予定時間の直前に足を引きづった西園寺が白石の肩を借りて登壇する。


演説中、時折、倒れそうになる西園寺を支え、はげます白石。


演説は感動のうちに無事終わり、即日開票の結果、圧倒的多数で西園寺玲子は生徒会長に当選する。


西園寺と白石の心の距離がぐっと縮まった日であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お久しぶりです女神様」

「お久しぶり、白石さん」


??


女神の背後で、男性の声がする。

「本日は、どなたかご同席でしょうか?よろしければ、ご挨拶を」

「ちょっと、待ってて」

俺の言葉に女神は、マイクの近くを離れる。


・・あの、ご挨拶したいと言っておりますが・・・

・・ああ、挨拶?後でいいよ、いつも通り進めて・・・


こそこそ話のつもりが丸聞こえである。

そしてこのぞんざいな口調から、多分、相当偉い人だ。


「聞えました?」と女神。

「はい、では後ほど」

俺は普段通りに進める。

「今回の報告期間は、6日分といつもより長いために、全体概況のほうも少し長めにお時間を頂きます。よろしいでしょうか?」

そして、俺は、普段とは違って、あえて抑揚をつけずに、少しゆっくり目に内容の説明を始める。資料に書いてあることをいちいち全部読む。

実は、これ、俺がPMO修行時代に身につけた奥義である。

自分の音声の中のアルファ波を増大させることで、会議に出ている年配のエグゼクティブを深い眠りにつけることができる。

いわゆる定例会やら、ステアリングコミッティと呼ばれる儀式で必要とされる術式である。

ただし、今日のような飛び入り視察で、かつ、せっかちでいらちのおっさんには、逆効果である場合もある。

いずれにしても、今日の俺は、仙倉の伏線潰しの話に触れられたくないので、だらだらと全体概況を引き延ばして、あのおっさんがそれで寝てくれてもよし、反対に、もういいから俺に話をさせろと割り込んできて関係ない話をして時間をつぶしてくれてもいいのである。


そしてこのおっさんは、やはり後者であった。

俺の眠くなるつまらない報告に5分と耐えられなかったらしい。

「おい、これあとどれくらいかかる?俺、次あるけど・・」女神に対してスピードアップを要求する。

俺は、説明をとめる。

「あの、説明途中ですが、お忙しいようですので、どうしましょうか」俺は女神に助け船を出す。

「あ、ありがとうございます。」女神は嬉しそうだ。

すると突然、画面にでかい鼻が映し出される。

おっさん、カメラに近づきすぎだ。

「〇×▽だ、いつもご苦労。」

だみ声で、声も割れてて、なんて名乗っているかわからない。よくある話だ。

おっさん、マイクに近づきすぎだ。

時々、新卒で「すいません、失礼ですがお名前を」と聞く馬鹿がいたりするが、次からは出禁になるから気を付けような。

つーか、その会社のエグゼクティブの顔くらい事前にコーポレイトサイトで調べて覚えておけよ。

しかし残念ながら、この神様たちの世界には、コーポレイトサイトがないため、そのおっさんが誰だかわからない。

そういう時は、「いつも大変、お世話になっております。女神様には本当によくしてもらっています」とだけ言っとけ。

おっさんは、喋りだした。

「いつもご苦労様。どうだいプロジェクトは?俺、システムの事よくわかんないけどさあ。」

やった!、一番、楽なパターンである。

ビジネスに興味はあるが、システムに興味ない人。

「はい、おかげ様で順調に推移しております。ですが若干不安もございます。これは私の不勉強が原因でありますが、私の担当しているプロジェクトが、御社、いや神様の世界全体から見て、どのような位置づけにあるのか?神様の世界におけるもっとも重要な経営課題の解決にどれほど貢献できるのか。そのあたりを確認いたしたく、これとない機会ですので、神様のほうでお考えのビッグイシューですとか、このプロジェクトへの期待ですとか、そういった事を教えて頂ければと思います。」

「経営課題、経営課題ね。まあ一番大きいのは、世界の数だな」おっさんは喋りだした。

「世界の数ですか?」

「そう、我々が統括している世界は、一般的に三千世界って言われているけど、実際には、その半分くらいしかない。」

「先月末で1459世界です」女神は補足する

「おい、それ減ってない?その数字、経企?営業本部?」

「経営企画です」

「経企?あ、俺、そっちの数字みてないから。ああごめん。世界の数ね。まあ、やみくもに数増やせばいいという訳ではもちろんないけど、やはり3千世界は、早く達成したい。5年以内にはね。でもさ、うちのシステムの奴にそれいうと、あーだこーだと出来ない言い訳ばかり言う」

「そうなのですか」

「俺さあ、システムの事、よくわからないけど、なんか基本的なもの作っておいて、それコピーしたら、世界がパパパーンってできたりしないもんかね?。なんだっけ、クラウド?そんなやつ使えばできるとか言ってたな。やはり、なんでもスピードだよ。時間競争力を徹底的に上げないといけない。」

「そういう意味では、セカイフォースを導入されておりますよね」俺は少し口をはさむ。

「ああ、セカイフォース?あれ、だめ。だって高っけぇーもん。なんかいいって言われていれたけど、ああいうのうちに合わない。」

「あの、この世界に適用できるかわからないですが、ある情報産業系企業では、ビジネスを構成するシステムと機能を整理して、全社で共通化する部分と各ビジネス、事業毎の個別最適化部分に分けてシステム統合を実施しました。各事業責任者は当初は、全社共通化なんてできるはずがないと言っていましたが、最終的に事業毎に構築した部分は全体の2割以下だったんです。その結果、その企業は、ITコストの40%、管理部門コストの50%を削減することができました。しかしコスト削減という守りの部分でなく、むしろ攻めの領域におけるそのプロジェクトの成果が重要です。なんとその企業の場合、新しくサービスを立ち上げるまでの期間は、1/3になったのです。ITによって時間競争力を獲得できた事例になります。」

「すごいね、そんなに?」

「はい、この改革前は、事業なり、サービスなりを立ち上げる際に、全社で使えばいいものをまた一から検討したので、そうなっていたんだと思います。で、この企業は競争優位のための強固なビジネス基盤を得るに至ったわけですが、なんと」

「何?」お、このおっさん乗ってきたな

「そのビジネス基盤の外販を始めたんです。もちろん、その外販先には、コンペチタもありました。」

「へぇ、面白い。あ、もうこんな時間か。今度、詳しく聞かせてよ。」

「了解いたしました。」

「お、今日は、一斉定時退社日じゃないか。残業禁止。仕事しちゃだめ。女神ちゃんも軽くいく?」

おい、あんた、次あったんじゃないの?

「はい、喜んで」

「あの女神様、今日の報告は?」俺は一応確認する。

「大丈夫、資料、あとで送っておいて、じゃあ」俺の質問にまともに答える気もない女神。


まあ、こんな感じで、俺は懸念していた報告会を大成功のうちに乗り切ったのであった。

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