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⑤選挙工作

「えっ、私が書くのですか?」

「そう、貴方が書くのよ。白石さん」

「無理ですよ。そんな、いきなり。だって私、西園寺先輩のこと何もしらないですし。」

新学期に入って早々のイベント。

そう生徒会選挙である。

その候補者応援文を私に書けというのである。

で、いまさらの補足なのだけれど、言わずもがなではあるけれど、その生徒会長に立候補するのが西園寺玲子先輩。

「じゃあ、もっと私の事を知ってよ。白石さん。」

そう言って渡された玲子先輩の略歴書に目を通す。


西園寺玲子。

由緒ある旧華族西園寺家の令嬢。

勉強もスポーツも万能。

成績は、初等部から今まで常に学年主席。

中等部の時は、生徒会長を務める。

性格は明るく、きさくでユーモア精神もあり誰からも好かれる人気もの。

全く非の打ち所がない経歴だ。


・・・これだけ見るとまいんとキャラかぶっているけど・・・


・・・まいんと同じように私を振り回す人なのだけど・・・


・・・私の中では、不思議と二人のイメージが重なる部分はないなあ・・・


・・・まあ、私、まだ西園寺先輩のこと、何にも知らないわけだし・・・


「白石さん、あなたが応援文を書く意味わかりますよね。」と冷泉夏海先輩。

「はい、なんとなくは・・

外部編入組である私たちの生徒会と選挙に対しての関心を高めることと、

外部編入組も学園の運営に参画しているというイメージを持ってもらうためですよね。」

「正解。あなたの応援文に今後の学園の平和がかかっているわ」と玲子先輩


はあ・・・

私はため息をつく。

「それは、責任・・・重大・・ですね」

「重大よ。だから白石さん、あなたは、大きな責任感をもって、私のこと、好きにならないといけないわ。」

「はあ、先輩の『好き』という言葉の解釈が分かっていないのですが、少なくとも先輩の尊敬できる部分を早く見つけられるように頑張ります」

「頑張って、留美ちゃん」

・・あれ、名前呼び?この距離の詰め方は、似てるね、まいんに・・・

・・ああでもよくあるパターンか・・さて・・どうしよう・・・

「じゃあ、教えてください。先輩って好きな人いますか?いやその男女関係なく好きなタイプって」

「えっ、好きな人!!!」

えっ?

玲子先輩の声のトーンが急に上がったのに、むしろこっちがびっくりする。

心なしか、頬もピンクになっているような・・・

「先輩、今、チーク塗りましたか?」

「塗ってないよ、留美のばかあああ」

・・もう呼び捨てか・・

・・ああ、この人・・・・

・・結構、乙女だ・・・

・・そりゃ、そうだね。ずっと乙女の花園に居たのだもの・・・

・・違うわ、全然違う、まいんとは・・・

・・雑な扱いとかしちゃダメな方だ・・・・

「申し訳ありません、西園寺先輩。なんか私、聞いちゃいけないことを。で、先輩」

「もう、何よ」

「いま、好きな人いますか?」

・・しまった!

・・つい、まいんとのやりとりのくせで天丼やってしまった・・・

「る、留美は、結構、いじわるだよ」

顔を赤らめる玲子

・・あ、この人、結構、可愛い・・・

・・ちょっと楽しくなってしまったわたし・・

「あの変な意味でなくて、その先輩の人となりを知りたいというか・・」

「やっぱり優しい人かな。なんでも受け止めてくれる人。あと私は不安な時に、一緒にいて安心できる人」


・・ちょっとだけ・・・

・・なんとなくこの人の性格が垣間見えた気がした・・・


「ありがとうございます。家に帰って少し考えてみますね。では失礼します。」

しかしすぐに生徒会を出た私の後を夏海先輩が追いかけてきた。

「ちょっと、白石さん。これはまだ噂なんだけど」

「はい?なんでしょうか」

「実はね、仙倉麻衣さんが、生徒会長に立候補するという話があるの」

「そう・・・なんですか。わかりました。」

私は、その話に驚きながらも、まいんならあり得る話だと思った。

で、それを今、私にするって、要は・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

校門を出てスマホの電源を入れて、lineのメッセージを確認をする。

そして、今日のこれからの予定であったお華のお稽古が、お休みになっていたことを知る。

・・・最近、こういうの多いな・・・

そして、もう一つ。

まいんが、これから会えないかと言ってきていた。

私は了解し、待ち合わせ場所の喫茶店に向かう。


カラーン

「るみるみ、遅いよおお」

扉を押して店に入るや否や、まいんは立ち上がって私に向かって手をふる。

まいんの向かいの席に座ると、ウェイトレスが注文を取りに来る。

そして私の前に置かれていたコーヒーカップを片付ける。


「まいん、朋美と一緒だったの?」

「うん、用事あるので先に帰ったよ」


・・いや、私が来るまでの時間潰しにつきあわされたんだろう・・・

・・朋美も人がいいしな・・・後で連絡しよう・・・


「いままで生徒会だった?」

わかりきったことを聞くまいん。

「そうだよ。うーん、大変なんだよ。」と私

「えっ、どうしたの?」

「西園寺先輩に立候補の応援文頼まれてさ」

「ふーん、でも、いいじゃん。るみるみは、もともと趣味で小説書くくらいだから、そんなのお手の物でしょ」


・・え?・・・


・・小説?私にそんなの趣味あったっけ?


・・これも、私が関与しないところで決まる設定なのかな・・・


私は、自分がどんな小説を書いているのかが気になった。

それに私の書いた小説をまいんが読んでいるのかも気になる。

ちょっと自分の頭を「コンサル森田」にモード切り替えてみる。

そして疑う。

もしかして、これはミステリーショッパーというか、覆面調査のようなものか?

計画として提出したことを、実際に実施しているかの実地検査みたいなものか?

あるいは、予定にないイベントを起こして、私の素質なリ能力を見極めようというのか?


・・試されている可能性がある・・・


そう思った私は、自分が小説を書いていることを知らないことを悟られないように言葉を選ぶ。

そして、まいんから目を逸らして、わざと独り言のように呟く。

「私の書いたものなんて、面白いと思う人がいるかなあ・・・」

「面白いじゃん!この間のやつなんか、私の知らない世界のこととか書いてて、るみるみは才能あるよ。」

「そ、そうかなあ。」

・・なんだろう、異世界物か?・・・

私は、照れ笑いをして、あ、そうそう。白石モードに戻らないと・・・


「で、まいん。なんかあった?」

「わたしがね、生徒会選挙に出るっていう噂が流れている」

単刀直入だな。

「聞いているよ」

「誰から?」まいんは特に驚いた表情ではない。

「冷泉先輩から。あくまでも噂ということで。」


・・・でも、「これは、噂なんだけど」って言い方・・・

・・・最初に情報をリークする人も、最初に流言飛語を流す人も使う言葉だよね・・・


「るみるみは、どう思う?」

「それって、まいんに期待する人が多いってことじゃないのかな」

その言葉に、まいんは黙り込む。


沈黙の時間が流れる・・・


そして・・・


「るみるみ、決めた。わたし」

うわ、相変わらず決断早いな、この子。


「決めたって何を?」

「今日は、るみるみの家に泊まる」


・・そっちかあ・・・

・・でも、何かの行動を起こすことを決めたことは確実であって・・

・・場所を変えて、その事を私に宣言するとか・・

・・もしくは、それによって、まいん自身を鼓舞したいのか・・・


「ちょっと待って、家に電話してくる」

そういって私は、スマホを持ち、いったん店の外に出る。

都合よく、今晩は、進捗報告会議はない。

母親はもちろん快諾だ。。

大財閥のご令嬢とは言え、小さい頃からの幼馴染で、よく泊まりにきていたから全く抵抗感はない。


「うん、いいよ。お母さんも喜んでいた。」店の中に戻った私はまいんに快諾の意思を伝える。

「よかった。」

「まいん、家に連絡は?」

「ごめん、もうしてる」


・・やはり私の意思確認はなしですか・・・


多分、今頃は、彼女の家の執事が着替えだのなんだのもって我が家を訪問している頃だろう。


「そうだ、ここの手作りパウンドケーキ買って帰る。母の好物なんだ」

「るみるみ、それもごめん。もう買って届けてある。」

「早いね。まいん。それと考えること同じだね」

「うん、同じだね」


手をつなぎ、坂を下るまいんと私。


家に帰り居間に入ると、母がケーキを切り分け、紅茶を淹れてくれた。

そのまま、居間で学校の課題をやり、母と3人で夕食。

今日は、父も姉も帰りが遅いのだ。

夕食後、私の部屋に行き、課題の続きをしていると母が入浴の準備ができたと伝えてきた。


「いっそ、2人でお風呂でも入ったら」母が冗談を言う。

「はい、そうさせて頂きます」とまいん。

「ちょっと、まいん、うちのお風呂の小さいこと知っているでしょ」

「うん、そこがいいんじゃない。ダメ?」

まいんは一人っ子だ。

殆ど家にいない父親。

母親は彼女が小さい頃に離婚。

広い屋敷で執事や女中とともに暮らしている。

私には姉もいて、一緒にお風呂にも入っていた。

それが当たり前だった。

そんな庶民の当たり前が、まいんにとっての憧れであり、特別な時間であったことは察しが付く。

「いいよ。じゃあ行こうか」

私たちは浴室に向かう。


脱衣場でツインテールを解くまいん。

髪を下し、途端、長い髪の美少女の現れる。

私は、後ろに回って彼女の長い髪を丁寧に洗ってあげる。

透けるような白い肌に長い手足。

きれいなうなじのライン。

まるで妖精のような神秘的な美しさだ。

今度は、まいんが私の後ろに回って、髪と背中を洗ってくれる。

そして、後ろから私の胸に手を伸ばしてくる。

「仙倉さん、この手、なんでしょうか?」

「確認です。白石さん。また胸が大きくなっておりますね。」

「なっていないと思います。気のせいです。」

「私の確認もお願いします。」

「はいはい、特に異常なし」

私は、まいんの胸の膨らみを軽く撫でてあげる。

「しかし、今日の仙倉さんは、やけに攻めますねえ」


2人で浴槽につかる。


・・・まだ、2人でも行けるか・・・


・・・思ったほど狭くないな・・・


「ねぇ、まいん。何か言いたいことある?違う?」


・・・何かあれば、このタイミングだと思った・・・


・・・・・・・・・・


・・・黙ったままだ・・・・


・・・違ったか・・・


「・・ち・・違わない・・よ・・」


んっ????


その嗚咽するような震えた声に驚く。


・・泣いているの?・・・


彼女の身体の震えが水面を通じて伝わってくる。

その感情は、まるでさざ波となって・・・


「わかった、もう上がろうか」

そういって、私は視線を外し、先に上がった。


お風呂から上がって自室に戻ると、私のベッドの横に布団が敷かれていた。

・・・これ要らないよね、普通に考えると・・・


「じゃあ、明日、早いからね。電気消してもいい?」

小さくうなずくまいん。


そして案の定、私のベッドに潜り込んでくる。

「いらっしゃいませ」

「ねぇ、るみるみ。もし私が、生徒会選挙に出るとしたらどうする?」

ようやくだ。

「困る」

私は素直に言う。

この素直さだけが私の取柄だ。

「そう困るよね。でも、もし、るみるみが生徒会やめてくれたら、私は選挙に出ないかもしれない」

「出ないとは、はっきり言わないんだね。」

こんな回りくどいまいんは初めてだ。何故だろう、そう思いつつも私は続ける。

「だけど、それもそれで困るかな。今の私の立場、私だけのものじゃないし、他の外部編入生たちも、色々と困る人が沢山出てくるんじゃないかな。

それに、今回のこと、きっかけ作ったのまいんだよね。こういうの私はもう慣れっこだけど、他の人から見ると随分と勝手で、子供っぽい振る舞いに見えるんじゃないのかな。」

まいんは何も答えない。

「我儘で、自分勝手で、子供っぽくて、ほんとしょうがない。


でも・・・


いいよ・・・


わたし生徒会辞めるよ。もともと入りたいと思って入ったわけじゃないし」


「きらい!るみるみのそういうとこ、大きらい!!」

ついに、感情を爆発させたまいん。


「そういうところ大嫌い!!


私のせいなのに、なんでも我儘聞いてくれるとこ大嫌い!!


るみるみに何もできない私なのに、優しくしてくれるとこ大嫌い!!


何でも許してくれるとこ大嫌い!!」


「あは、今日は、ずいぶん、嫌われましたね・・」


「黙って!」


えっ


そういうと、まいんはいきなり私の唇に自分の唇を押し当ててきた。

・・・もう、それイケメンがするやつでしょ。我儘お嬢様がやることなのかなあ・・・

「るみるみのそういうの嫌いだから。だから、私も選挙なんかに出てやらない!

るみるみも生徒会やめること許さない!」

「わかったよ、まいん、じゃあ」

そういって、今度は私からまいんの唇に自分の唇を当てる。

驚くまいん。


・・どうだ!・・・


・・ざまあみろ、この我儘娘・・・


・・お返しだ・・・


・・私だって、反撃できるんだぞ、思い知ったか・・・

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