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⑩勝負

西園寺先輩はキスがしたいらしい。


直截的にそれを表現してくることもあるし、

表情や仕草でそれを間接的に伝えようとしてくる事もある。


西園寺先輩は『私と』キスがしたいらしい。


『私に』でなくて『私と』・・


でも、私はしたくない。

まだしたくない。

今はまだしたくない。


私は、『それ』を・・・

西園寺先輩とのキスを・・・

私たちの特別な関係の始まりの象徴にしたいのかな?


特別の関係・・・?

そうか・・・

実は私もなりたかったのか・・・

西園寺先輩との特別な関係に・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ちょっと!白石さん。聞いてますの?」

「すいません、冷泉先輩。ぼっとしていまして」


明日の体育祭を控えて私と冷泉先輩は、2人3脚の練習に最後の追い込みをかけている。

いや、最後の足掻きと言ったほうが正しいか。

でも、西園寺先輩とまいんのペアには及ばないものの、私たちの息も以前よりあってきている。


・・・それは冷泉先輩との間にも秘密を作ったからかな?

・・・いやそれは、秘密というより約束か。


「白石さん、例の計画については、玲子にばれないようにしながらも、関係者への根回しは進めているけど、問題は・・」

「西園寺先輩の気持ちですよね。」

「ええ、正直、厳しいものがあるわね。ところで、この計画は、仙倉さんは、知っているの?」

「まさか!あいつ、いや仙倉が絡むと却って揉めそうですから。もちろん仙倉にも他の誰にも言っていません。」

「同感ね。玲子については、何か、大きなきっかけでもあればいいのだけれど・・」

「大きなきっかけか・・、あ、そうだ。冷泉先輩。私、体育祭の備品をとりに、ちょっと第2体育準備室に行ってきます。」



私は、第2体育準備室の前にきた。


??


入り口の南京錠が開いている・・・

この鍵の番号を知っている人って・・・

扉を開けて小屋の中に入ると、やはり・・・


「もう、留美遅いよ・・」

小屋の中で体育座りしていた西園寺先輩が顔を上げこっちを向く。

少し目が潤んでいるようだ。

「えっ?先輩、約束してました?それとも待ち伏せですか?」

「留美は意地悪だよ」

「先輩、そんなとこに座っていると制服が傷みますよ。」

そういって手を差し出す。

身体を起こした西園寺先輩は、その反動で私に抱きついてきた。

「ちょっと、先輩、ちょっと!」

「留美。最近、夏海とばっか遊んでいて私の相手してくれない。」

「遊んでいるわけじゃありません。練習です。」

「私も、練習したい。2人3脚じゃなくて」

「何の練習ですか?」

「キスの練習とか・・仙倉さんが言ってたよ。留美はキスが上手だって」

「先輩、それは流言飛語です。捏造です。」

「じゃあ、それを確認させてよ」

「先輩。じゃあ私は、練習台ということですね。いいですよ。練習台としてキスなら」

その言葉に西園寺先輩は、驚き、途端に泣きそうな表情になる、

「留美!ご、ごめんなさい!」

「先輩。私も少し意地悪な言い方でした。申し訳ありません。でも、練習とか遊びみたいな感覚で先輩とキスするのは嫌なんです。」

・・・これは、詭弁でも言い逃れでもなくて、私の本音だ・・・

「うん、そうだね。留美。でも、留美はそんなに私の事好きじゃないみたいだし・・・」

「先輩、私だって・・少しは、少しづづ変わっていきますよ。」

「でも、留美が、私にキスしてもいいくらいに気持ちを育んでくれたとしても、それは、私にはわからないよ。」

「大丈夫ですよ。先輩。その時は、私のほうからしますから・・・」


・・・先輩、私も変わりたいと思っているんですよ・・・

・・・だから・・・何か、二人のあたらしい関係の始まりのきっかけができれば・・・


「そうだ。先輩。私たちと賭けをしませんか?体育祭の2人3脚で、西園寺先輩が勝ったら、キスしてもいいかな・・とか・・」

・・この言葉は自分にとっての唐突だった。予め用意していたシナリオではない。全くのおもいつきだ。

「え、いいの?こっちが勝っちゃうよ?」私の言葉に驚く玲子先輩。

「でも、私たちが勝ったら、私のお願い聞いてもらえますか?」

「了解!じゃあ。明日、がんばろうね、留美」


そういって、玲子先輩は帰っていった。


私のお願いは聞かないんだな・・・

そう思いながら、私は、生徒会室に戻る。


・・・・・・・・・・・・・

「冷泉先輩、明日は絶対に西園寺先輩たちに勝ちましょう」私は冷泉先輩の前で宣言する。

「白石さん、いきなりどうしたんですか?」

「私、いまさっき西園寺先輩と約束しました。明日の2人3脚で私たちが勝ったら、西園寺先輩、なんでも言うこと聞くって」

「白石さん、それで勝ったら例の話を持ち掛けるの?でも残念ながら勝てる可能性は低いと思うわ」

「先輩、それは、分かっています。でも何かきっかけが欲しいんです」

「もし、私たちが勝ったとしても、そのお願いを玲子が快諾するとは思えないわ・・・でも、わかった・・明日は頑張りましょう」

「先輩、よろしくお願いします。」

「ちなみに、玲子が勝った場合のお願いはなんなのかしら?」

「それは秘密です。冷泉先輩に怒られる事かもです。」

「ああ、なんとなく想像がつくわ。ちなみに白石さんご存じかしら。私は・・」

「なんでしょうか?」

「嫉妬深い性格なのよ。だから俄然やる気が出てきたわ。」

私たちは固い握手をして、それぞれ家路につく。


・・・・・・・・・・・・・

帰宅するやいなや、まいんからLINEがきた。

西園寺先輩が明日の勝負の賭けの事をまいんに話したようだ。

私は返信する。

「そっちが勝った時の西園寺先輩のお願い事、聞いた?」

「教えてくれなかった」

「私も教えないよ」

もし、今、それをまいんに伝えたら・・・

いや、それはダメだろう。

それはフェアじゃない

「るみるみ、だから私も西園寺先輩にお願いしたよ。こっちが勝ったら、西園寺先輩に何でも言うこと聞いてもらうって」

「そうなんだ。じゃあ、明日はお互い頑張ろう」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私たちは負けた・・・


私たちは届かなった・・・


2人3脚競争は、西園寺先輩チームの圧勝だった。


悔しい・・・


でも、ほっとした気持ちもある。

いままでと変わらない西園寺先輩との関係。

それはそれで心地よい時間であったのだから。


体育際も閉会式を済ませ、生徒会室で後始末をする西園寺先輩と冷泉先輩と私。なぜかまいんもいる。

「白石さん、ほんと残念だったわ」

そういう冷泉先輩も心なしか、安心しているようにも見える。

「我々の圧勝でござるよ」勝ち誇るまいん

「そうね。仙倉さんのおかげだわ。ありがとう」

「じゃあ、西園寺先輩、私のお願い聞いてくださいね」

「ええ、わかったわ。仙倉さん、どうぞ。なんでもいいなさい」

「じゃあ、留美のお願いを叶えて上げて」



えっ??????



西園寺先輩はその言葉に固まる。


私もだ。


まいんのやることは、ほんと想像の域を超えている。

どこまでが計算で、どこからがその場の思い付きなのか分からない。

「白石さんのお願いを叶えること、それが私のお願いだよ。西園寺先輩」

「わ、わかったわ。仙倉さん。じゃあ白石さん、どうぞ」

そういって私のほうを向く西園寺先輩。


唐突だ、突然だ


こっちだって心の準備というものがある


どうしよう、どうしよう


ぎゅっ?


いきなり冷泉先輩がわたしの手を握る。


温かい手だ。


私は深呼吸する。そして



「西園寺先輩。私たちと『スクールアイドル』を始めてください!それがお願いです。」



・・・・・・・・・


ポカンとした表情の西園寺先輩。


そしてしばらくしてその意味を知る。

その目的を察する。


「嫌よ!そんなの絶対に嫌!」


西園寺先輩は激しく首を横に振る。


「留美、そんな事したって、私の過去は消せない!」

「西園寺先輩、消さなくたっていいじゃないですか」

「私の犯した罪は償えない!」

「罪なんてそんなものありません」

「夏海も、そう思うの?留美と同じなの?」

「玲子、ええ、そうよ。これは、なっちゃんからのお願いよ」

「なっちゃんって・・でも前にもいったでしょ。だって、わたし、ステージに立つとあの時を思い出して・・」

「先輩は何を思い出すのですか?」

「それは、あの子の・・・」

「あの子の何が忘れられないのですか?」


「・・・笑顔だった・・・」


「先輩。笑顔だったんですよね、先輩が忘れられないのは・・」

「うん、笑顔だったね・・」

「だから私はできると思うんです。西園寺先輩が、私を笑顔にすることを」

「それ・・・私に・・・できるかな・・・」

「できますよ、きっと、だって先輩が忘れられないのは笑顔だって言ったじゃないですか」

「留美、でも時間がかかるかもしれないよ・・」

「いいですよ」

「留美、できるまで、ずっと一緒にやってくれるのかな」

「はい」

「留美、高校卒業して、大学に進学して、就職しても、続けないといけないかもしれないけど、いいのかな」

「はい、私も、夏海先輩も、ずっと」

「なら・・ちょっと・・やってみようかな・・」

「先輩、ありがとうございます。」

「留美、夏海、ありがとう」

「ねえ、るみるみ、大事な人忘れていません?」まいんが口を尖らせる

「まいん、ありがとう。」

「るみるみ、そうじゃなくって、そのスクールアイドルとやらにはツインテ美少女はいないんですか?」

「まいん、当然、いるよ。当たり前じゃん。」

「事後承諾ですか」

「仙倉さん、いつも貴方がしてることですよ」

「ああ、これで無事メンバーが揃ったわね。さて玲子、白石さん、あとはこれ第2体育準備室に持っていって」


そういって備品を私に渡す冷泉先輩。

「冷泉先輩。ありがとうございます。」

あれ?、なんで私、お礼を言ってるんだ?


・・・・・・・・・

薄暗い第2体育準備室に入った私と西園寺先輩。


私と西園寺先輩は向き合い見つめ合う。


私は、西園寺先輩の腰に手を回してその身体を引き寄せる。


「いいの?留美」


「はい、約束ですから・・いや違います。記念日なので」


「記念日?スクールアイドル誕生の?」


「どうでしょうか・・」


そういって私は、西園寺先輩の顔に近づける。


形のよい唇に自分の唇を重ねる


甘い時間が過ぎていく。


・・・今日の事は忘れない・・・


・・・私が、新しいことに踏み出した記念日だ・・・


・・・私が、西園寺先輩への気持ちを意識した記念日なんだ・・・


・・・でもこの感情を一般的な単語にして口にするのは、もう少し先に延ばしておこう・・・

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