表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

①解かれたリボン



私は家の前を走る新聞配達のバイクの音で目を覚ます。


・・5時45分・・


6時にセットしていたアラームを解除する。


今日は、記念すべき私の高校生活の始まりの日だ。

どんな素敵な出会いがあるんだろう。

高鳴る気持ちに私は胸を躍らせる。


・・・なんて・・・そんな気分であるわけないよ・・・


・・・むしろ逆だ・・・


・・・なんでこんな事になったんだろう・・・


今日から私が通う学校は、自宅から徒歩で20分の距離にある。

始業は8時30分からだから、8時で出れば間に合うが、7時30分に家を出る予定。


今日が高校生活の初日だから?


そんなわけがない。


私は小心者だから。


臆病で、人見知りだ。


生まれてこの方、常に目立たないように人目を気にして生きてきた。

遅刻なんかもっての他。

常に余裕をもって行動をしている。


・・・でも?例えば?・・・


学校に行く途中で、突然、見も知らぬ先輩に抱擁されて気を失ってしまい、その結果・・・

「白石さん。あなたは初日から遅刻ですか?後ほどでシスター様から大切なお話がございます」とか?


・・・あるわけないでしょ、そんなこと・・・。

(・・・いや、あるか普通に・・・)


で、すいません。

ご紹介が遅れましたが、私の名前は白石留美しらいしるみといいます。

7月生まれの15歳。

やや癖っけのある明るい亜麻色髪をボブカットにしている。

もちろんパーマをあてているわけでもなく、髪も染めているわけではない。地毛。

身長は158cm。

スリーサイズは、81-57-83。

(あ、これは自分でいう事じゃないな)

顔は・・私の顔はというと、父と母と姉は、可愛らしい顔だと言うけれど、

それは、親馬鹿というか判官びいきというか、そんなものだろう。

「まあ普通」というのが自己評価だ。

幼馴染の麻衣や朋美との相対評価で言えば私の顔のレベルは、うーん65~75%といった感じかなあ。

・・・といっても自己の主観を多大に含む相対評価なんだけど・・・

家族構成は、銀行員の父と専業主婦の母と大学3年の姉の4人。

(・・・うーん、やはりお姉ちゃんか・・・)

そしてこの春から東京では有数のお嬢様校である「聖マリア女学院高等部」に通うことになった。

で、この学校は、幼稚舎から大学までの一貫教育が売りで、大学までは外部入学は基本的にないのだけれど、中学までは、別の学校に行っていた私は、ある事情によりこの学校に通わざるを得ないことになったのだ。

ある事情というのは、私の事情ではなくて、学校側の事情。

わたしの通っていあた中高一貫の私立女子高が経営破綻して廃校になってしまったのだ。

(・・・こんなこと実際にあるのかな・・・)

私が中学3年になった時の突然の出来事。

そんな時に聖マリア女学院が、私たち生徒に救済の手を差し伸べてきたのだ。

よほど素行に問題がなければ、簡単な面接だけで生徒を受け入れると。

しかし、私の通っていた学校は、どちらかというと進学校であったために生徒の8割以上は、高校入試を受けて他の学校に行った。

聖マリア女学院高等部の卒業生の殆どは、そのまま聖マリア女子大に進学する。

外部の大学を受験する人は少なく、受験向けのカリキュラムが組まれているわけではないのだ。

聖マリア女子大の学部は、文学部、社会情報学部、国際教養学部、神学部といった文系に偏っていることもある。


なので、もちろん、我が白石家でも早速、家族会議が開催された。

「お父さんは賛成だな。なんたって聖マリア女学院は名門だ。大学までの一貫教育なら留美ちゃんの、のんびり屋の性格にあっていると思うよ。」

「お母さんも、賛成ね。あの学校は、私も憧れていたのよ。」

私の家から見える大きな高台。もとは大名の屋敷跡だったらしい広大な森の中に聖マリア女学院がある。

家からは、校舎の殆どは森の木々に隠れて見えないのだけれど森の中から頭を出した白いゴシック風の時計台は、子供の頃から見慣れた風景だ。

駅ですれ違う清楚で上品な女生徒たち。

でも、母と違って、それに対して、私にはなんの憧憬もなく、ただ無縁な世界だと思っていた。

しかしながら、私個人としては、聖マリア女学院に行くほうに心は傾きかけている。

はっきり言って、消去法。

いまから受験勉強して高校受験に失敗したらという大きな不安からである。

でも、誰も反対意見がないというのも気になる。

十分に議論がなされていない証拠だと思うし、こんな重要なことをなんとなく決めてしまっていいのだろうか。

「ねえ、お姉ちゃんはどう思う?」

私は、姉に話をふった。

「で、留美はどうしたいの?将来のこととか」


・・・質問に質問で返してきたか・・・


・・・でもどうしたいんだろう・・・


・・・将来のことなんて。ちゃんと考えたことがない。文系だから教員免許とって教師とか、でも大変そうだし、公務員とか・・・


「私、文系だから将来のこと考えると聖マリア女子大でもいいかなと思っている。社会情報とか興味あるし」


・・最後の言葉は適当だ。なんかこういう事言っとけば、一応考えているようには多少見えるだろう・・

・・いや、これはむしろ自分をだますための言葉か?・・・


「そうよ、そうよ。聖マリア女子大なんてお嫁さんにしたい女性No1じゃない!」

意表を突く言葉だ。

・・将来って、そっちか。それこそ考えたことがない・・・

そういえば、両親は見合い結婚。

ああこの人は、母親になる前は、お嫁さんだったしね。

「うん、そうだね。私は、聖マリアに行くことにするよ。」


十分に議論された結論ではないとわかりきっているのだけれど。


これも私だ。


いや、これこそが私らしい決め方だ。


私は流されやすい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

身支度を整えて父と母と一緒に朝食を囲む。

姉はまだ寝ているようだ

「お母さん、やっぱり髪、黒く染めてストレートパーマかければよかったかあ」

厳格なお嬢様学校なので、当然、髪染め・パーマ禁止。カラコン、メイク、アクセサリーは論外。それに

・・・下着の色と形の指定ってどんなシチュエーションを想定しているんだよ・・・

「留美ちゃん、大丈夫じゃない。面接の時も言ったし、ちゃんと学校側にも事前に相談したんだし」

「そ、そうかなあ。でもお母さん、生徒の全員に通知されているわけでないし・・」

「気にすることないわよ。それと今日からお母さまって言いなさい。」

「はは、留美も今日からお嬢様だな」父が笑う。

「じゃあ、私、行ってくるね」

「頑張ってきてね。留美ちゃん」


・・・こういう「頑張ってね」って言う常套句ってなんだろう・・・

・・・普通は、頑張ることがないとか、頑張ってもしょうがない状態で言われる言葉だと思っていたけど・・・

・・・でも、今日から、私は頑張らないといけない・・・

・・・計画に沿って、予定通り、自分を律して、やるべきことをやっていく・・・



案の定、7時50分には、私は校門の前についた。

幼馴染の麻衣からLINEが来た。

麻衣は、私と同じ外部転入組みだ。

「るみるみ、起きた?」

はあ??・

「もう、校門。じゃあ切るから」

それだけ返してスマホの電源を切り、鞄の内ポケットに入れた。


校門をくぐる。

校門から校舎まで一直線の並木道。


・・うわっ、結構、もう人いるじゃん・・・


並木の両側で朝のおしゃべりに没頭している人たち、あるいは部への勧誘のための看板などを設置している人たちもいる。


やばい、どうしよう・・・


人見知りの私は、彼女たちと視線を合わさないように下をうつむき、地面を見ながら足を進めていく。



・・・あれ、もしかして私見られているのかな・・・


・・・そんなの私が自意識過剰なだけだよ・・・


・・・「何、あの子、この場に似つかわしくないわね」・・・


・・・そんな声が聞こえるような、いや。単なる被害妄想、被害妄想・・・


・・・ああ、こんなことなら麻衣と待ち合わせすればよかった・・・


・・・しかし、あいつは遅刻魔だから、それもそれでリスク高いし・・・


・・・あー、もう帰りたい・・・



「そこの貴方!ちょっと。」


えっ、もしかして、私のこと?違うよね。


「そこの茶色髪のボブの子」


あああああ。私の事だ。終わった・・万策つきた・・・


「ご、ごめんなさい」


何故か謝りつつ、観念して顔を上げる。

そして私の目の前には、まるで女神のように美しい女生徒が立っていた。

真っ白な艶やかな肌、涼しげな目もと。

きらめく長いまつ毛は、その大きな瞳を際立たせている。

自然なウェーブがかかった長い髪は、サイドテールにしている。


「ごぎげんよう。白石さん、でも何で謝っているの?」


・・・うわ、本当にごきげんようって言うんだ、都市伝説だと思ってた・・・

「ご、ごきげんよう。先輩。あの、その、この髪は、その・・」

私は、髪のことを注意されたのだと思い、しどろもどろになる。

それと先輩っていう呼び方でいい?もしかしてお姉様とか?

すると、その美しい女性は私のほうにぐっと身体を近づけて、私の髪の毛をつまんだ

「地毛でしょ。わかってるわ。でも、そのリボンがね」

そういって私の制服のリボンを解く。

あっ・・・

あ、私はまるで服を脱がされたかのような感覚に陥り赤面する。


「こんなきつい締め方だと生地が痛んじゃうわよ。白石さん」

そういいながらリボンを結びなおす。

「はい、可愛い」

「ありがとうございます。手帳を見ながらやってみたのですが、、」

少しは、落ち着いた私だが、あることに気が付く。

「あ、あの先輩は、何故、私の名前を知っているのでしょうか?」

「何故って可愛いからよ。というか新入生の顔と名前は全部覚えているわ。なんたって私、風紀委員長ですから。だから・・・」

「はい、なんでしょうか?」

「これから貴方の下着をチェックさせて頂くわ」

「ぇえええええ!ここでですかああああ、そ、それは、それは」

思いもよらぬ言葉に私の頭の中が真っ白になる!


「もう、いい加減にしなさいよ。玲子!新入生をからかうのは。」


背後から女性のきつい声がする。

私は振り向くとセンター分けのボブの女性が顔を強張らせている。

彼女もまた美しい顔立ちである。

「もう、夏海。邪魔しないでよ。いいとこだったのに」

「何がいいとこよ。それに風紀委員長?あなたは風紀を乱す側でしょ!」

「人聞きの悪い、偽計業務妨害じゃない?」

「はあ?それにこれも、貴方の仕業でしょ」

そういってセンター分けのボブの女性、夏海さんは、私のリボンを外し、「正しく」結び直す。

「私は、2年A組の冷泉夏海です。そして、あの子が西園寺玲子。白石さん、今後ともよろしくお願いします。」

ふっといい匂いがする。

顔を近づけてきた夏海さんも玲子さんとは違うタイプだが相当な美人だ。

「あ、ありがとうございます。わたしこそ、よろしくお願いします。冷泉夏海様、西園寺玲子様」

「名前にさん付けでいいわよ、白石さん」

「私は、玲子お姉様って呼んでくれていいよ」

「ちょっと玲子、あなたいい加減に」

「では、夏海様、玲子様。ごきげんよう」

私は2人に深々と頭を下げて教室に向かった。

身体が火照って、頭はぼうっとしている。

この感覚なんなんだろう。

嫌な感じではないのだけれど・・

その日は、学校案内とオリエンテーリングのみだったが、何一つとして頭に入ってこなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あー疲れた」

家に帰り、ベッドに倒れこむ。

麻衣からの安否確認。

「よ、るみるみ元気?」

「元気じゃないよ。もう疲れた」

「何かあった?」

「あったよ、リボン結ばれた。2回も」

「リボン?なんだそれ。で、誰に?」

「夏海先輩と玲子先輩」

「ふーん、お疲れ。それ誰だか知らんけど、なんか疲れているようだから切るね」

「ありがとう、まいん。じゃあ明日」

そういって私は電話を切る。


「よし終わった。」

私は、手帳を取り出して、確認し、チェックを行う。

そしてその後にパソコンの電源を入れて、オンラインミーティングにログインする。

モニター越しに金髪の女性が映し出される。

そして私は話しかける。


『研修生の森田です。プロジェクトコードN08Gを担当しております。女神様ごんばんわ。』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ