下調べって言ったけどね!?
教室のあちこちで楽しそうな声が聞こえてくる。自由時間はどこに行こう-だとか、他のクラスの子達と合流する-だとか、お土産の予算は幾ら-だとか······。
うん。なんて素晴らしい雰囲気なのだろう。聞き耳を立てる度、研修旅行への期待に胸が膨らんでしまう。まぁ、実際最近すこーしだけ膨らんできた気がしなくも-······コホン。
「ねえマコト? 研修旅行の行き先ってどこ?」
「由来ちゃんは行ったこと無い? まぁ、私も無いんだけどね! 郷都っていってね? お寺とか神社とか、昔ながらの風情がある古い都なの!」
「キョウト? へぇ〜。ボク行ったことないかも」
なんて説明をしながらガイドブックを開き、由来ちゃんに寄り添う。心なしか、彼女も楽しみにしているように見える。とはいえ、研修旅行の目的は古い町並みや社寺仏閣から歴史を学び取る-というものなので、日中のほとんどは屋外行動になる。
由来ちゃんにはちょっときついかな?
そんな心配をしてみたり。私が班長になったからには大いに楽しんで貰いたい。その為にも体調不良になんてさせる訳にはいかないのだ。
「ん? ·········というか、瑠宇さん?」
「はい? どうなさいました? マコト様?」
「いや、えっと······一人···居なくない? どこ行った?」
「あっ、風亜さ-···こほん。あの木っ端悪魔ですか?」
いやいや、言い直さんでいい。
「うん、そう。風亜ちゃん。10分くらい前までは居たよね?」
「はい。マコト様の言いつけ通り、あの方は郷都へと下調べに〝向かいました〟よ?」
「············は?」
「へ? いえ、ですから、先程マコト様がわたくし達の担当を振り分けて下さいましたので、あの方は下調べの為に現地調査に向かったのです」
ちょ···待て待て待て待て!!
確かに私はそれぞれに担当を振り分けた。それぞれ担当を決めることで旅行の効率も上がるし、責任感も持てるし、何より任せられた-という実感で旅行の楽しさが倍増すると思ったからだ。
だから私は由来ちゃんに研修旅行中の記録係、瑠宇さんにはお土産代や雑費等の管理、そして風亜ちゃんには自由時間のガイド役を任せた。
任せたのだが······。
「いやいやいやいや!! 下調べって言ったけどね!? 現地調査しちゃったら楽しさ半減じゃん!! まだ見ぬ土地を開拓するのが醍醐味じゃん!!」
「そ、そうなのですか!? いえ、し···しかし、研修旅行の際に伺うお店などには先んじてコンタクトを取り、予約等を行っておくものなのでは?」
「料亭かッ!! ···ったく、いいのよ別に。基本的に私達が行くようなお店なんてアポ無しで入るものなんだから」
「マコト元気だね」
「え? あ、声おっきかったよね? 驚かせちゃった?」
「ううん。大丈夫。マコトの声、好きだから」
好きだから···好きだから···好きだから···好きだから···好きだから···-。
-ずっきゅん!!!!
あらやだ、何それ可愛いっ!! え、何!? 私も好きだよ!? というか、大好きだよ!!!?
「由来ちゃ-っ! ······ゴッッホン!!」
危ない危ない。愛し過ぎて危うく教室の中心で愛を叫んでしまうところだった···。
「というか、あの風亜ちゃんが現地調査なんて行っちゃったら-」
30分後-。
「っと。むふふ! 帰ったぞ我が下僕達よ。この我を忠犬の如く健気に待ち侘びていたとは! くふふふ。殊勝な心掛けよのぉ! なーっはははは!!」
·········ほらぁ。めっちゃ堪能してきてるじゃん。
唐突に舞い戻った大悪魔様は両手いっぱいにお土産を携えてご満悦の様子で高笑うのだった-。