↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

婚約を破棄した

(リアム視点)


 婚約してから初めて、俺はネリーが住んでいるバスキエ家の屋敷へ向かう。

 屋敷に着いたその時、俺とネリーのこの関係は終わりを告げることになるだろう。

 ミレイユとエクトル王子を残して出かけなくてはいけないことに不満はあったが、今回は仕方ない。結果的に早めにネリーと婚約破棄できるし、いい方向に捉えよう。


 馬車に揺られ景色を眺めながら、俺はいろんなことを考えていた。


 ――ミレイユが婚約したのにはひどく取り乱したが、このまま何もなければ大丈夫そうだ。


 すぐにミレイユへの態度を戻し、ミレイユに意識してもらえる行動をとり、ミレイユの気持ちを取り戻すよう心掛けた。結果、ミレイユは俺を拒むことはなかった。何年も両想いだった俺たちは、例え途中に僅かな亀裂が入ったとしても、再度求めあうことは当然だろう。


 エクトル王子といるミレイユは確かに楽しそうではあった。笑顔を見せていた。

 しかしそこに安心や憧れがあったとしても、愛はない。ミレイユが俺を見る目とエクトル王子を見る目はちがう。


 ミレイユを混乱させ心を揺さぶり、またすぐ俺のものにするのに、エクトル王子は邪魔でしかなかった。頭の切れる人間だし、俺的にはなかなか手強い相手……そう思っていた。昨日あっさり、俺の言うことを信じるまでは。


 夜這いだって、俺ひとりに行かせることになんの疑問も抱きやしない。普通警戒するべきだ。どうして本当にネリーのところへ行くと思うのか。エクトル王子も行くというなら、俺は客間から出る気などなかった。隙を見せるから、ミレイユをものにできないんだ。あのときは、脇の甘さに笑いが出そうになった。


 最近だと、マリンの態度も目につくことが多い。エクトル王子とミレイユを応援しているようだし、ネリーと婚約してから俺への態度は目に見えて悪くなった。

 マリンはミレイユが好きだから、ミレイユを悲しませた俺が気にくわなかったんだろう。

 ミレイユに花のことをバラしたのもマリンで間違いなさそうだ。だからちょっとした嫌がらせで、犯人はマリンと嘘をついた。


 そして最後にネリー……。俺は元々、ネリーと婚約を決めた時に〝仮〟だと告げていた。お試し期間を設け、お互いいいと思えば正式に婚約を交わそうという条件をつけていたのだ。

 俺は嫉妬したミレイユを見て、満足できたらよかった。その後は、ミレイユをまた可愛がると決めていた。


 俺がまたミレイユばかり構えば、ネリーはすぐに根を上げると思っていたが、この女はしぶとかった。


 ミレイユがエクトル王子と婚約したとき、一分一秒でも早くネリーと婚約破棄したかったが、お試しでも最低一か月と言われていたせいでできなかったのだ。 

 まだ日にちはあるが、もう素直に言うことを聞いていられない。それに、確実に婚約破棄ができる理由もある。


 俺は気づいていた。ネリーはもう、俺のことなど好きでもなんでもないことに。

 

 エクトル王子とミレイユが婚約して少し経ったある日、屋敷に来ていたネリーが俺が席を外している際、自分の連れて来た付き人に愚痴をこぼしているのを聞いてしまったのだ。


『公爵家の中では一番将来有望そうで、見た目もダントツだったから好きだったけど、あそこまでシスコンなのは異常ね。近くで見てたら余計きついわ。もはや気持ち悪いもの。しかもエクトル王子が婚約者になってから、余裕ぶってる割にかなり焦ってるし。私といるときも、いつも余裕なさげでダサいのよね。……私は公爵家夫人になれればそれでいい。どうせリアム様はエクトル王子に敵うわけないから、私が妻になってあげるだけ。それよりも、ミレイユの存在は鬱陶しすぎるわ。なんで私より可愛くないのににあんなに愛されるのかわからない。絶対リアム様と結婚して、オベール家を私のものにして、ミレイユの帰る場所をなくしてやる』


 ……よくもまぁ、俺の態度にめげずにアピールしてくるなと思ったが、ネリーにはネリーなりに、意地があったことを知った。

 

 異常と言われようが、気持ち悪いと言われようがどうでもいい。

 ただ、俺がエクトル王子に勝てないだと? ふざけるな。

 ミレイユへの気持ちで俺が負けるところなどひとつもない。俺とミレイユが結ばれたら、余ったエクトル王子をむしろお前にくれてやる。

 オベール家をお前のものにさせてたまるか。ミレイユの居場所は、常に俺であり続けるのだから。


「リアム様、どうしたのですか? 怖い顔して」

「……あ、ああ。不愉快なことを思い出したんだ。気にするな」

「あ、そういえば、昨晩のエクトル王子ったらすごかったのですよ」

「なにがだ?」

「ミレイユ様の部屋から声が聞こえた気がして、こっそり聞き耳を立ててたんです。すると――ミレイユ様の嬌声が聞こえたんです。まさかふたりがそんな大胆なことをするとは思いませんでした。なので今朝、〝昨晩はお熱かったのですね〟とお声かけしたら、笑って誤魔化されましたわ」


「……言ったのか。エクトル王子に」

「ええ。なにか問題でも?」


 余計なことを。エクトル王子は確実に勘付いただろう。俺がミレイユの部屋に行ったことを。

 ネリーも含め、どいつもこいつも俺とミレイユとは疑わない。まぁさすがにあんな状況で婚約者ではない相手の部屋に行くなんて常識外れなこと、普通の人間は想像すらしないということか。


 ……バレたところで、優しい王子はきっとなにもできないはず。もやもやを抱えて、自滅でもしてくれたら有難いんだけどな。

 でも……どうしてか嫌な予感がする。早く屋敷に戻り、ミレイユの姿を確認したい。


 馬車が止まる。やっと屋敷に到着したようだ。早くことを済ませて帰ろう。

 音を聞きつけたのか、すぐにバスキエ夫妻が俺を出迎える。

 両親の友人夫婦に申し訳ないことをしてしまうが、俺とネリーが結婚したとて仮面夫婦にしかならない。俺の欲望のために利用したことはさすがに謝るが、彼女もまた、今や自分の欲望のために俺を利用したいだけだ。


 さっさとこんな意味のない関係はやめて、他の男を見つけた方がネリーも幸せになれる。社交界で人気高いなら、いくらでも声はかかるだろう。俺は裏の顔もだらしなさも知り、ネリーを素敵な令嬢とは到底思えないが、そこに関してはお互い様だ。


「リアム様、よく来てくださいました。さぁ、中へご案内します」

「その必要はありません」

「……え?」


 ネリーを含めた家族三人が、動こうとしない俺を困惑した顔で見つめている。


「すみませんが、今日この場を持ってネリー嬢との婚約を破棄させていただきます」

「……え? リアム様、まだ一か月経っていませんよ? せめてそれから、オベール夫妻とじっくり相談しても……」


 必死に俺に説得を試みるバスキエ夫人だが、俺は首を横に振った。


「これ以上は無意味です。その時間を使って、新たな相手を見つけた方が有意義ですよ」

「そんな……! 仮だとしても、一度婚約しておいてその言い方はないでしょう! だったら最初から断れば、うちの娘も傷つかなかったのに……」

「……そうですね。俺も今、すごく思う。余計なことをしなきゃよかったと。欲のまま生きると、失敗するんだって」

「……ひ、ひどいわリアム様っ……あんなに優しくしてくれたのに、私のこと弄んで……っ!」


 ネリーがわかりやすい嘘泣きを始めた。ネリーに付き合うのも、もう本当にこれが最後だ。


「嘘泣きってわかってるからもうやめてくれ。ネリーは俺のことなんかどうでもいいだろ。言ってたよな。俺みたいなシスコン野郎は気持ち悪いと。欲しいのは公爵夫人の名だけで、ミレイユへの仕返しに俺と結婚するんだと」

「なっ……! そ、そんなこと、私がいつ――」

「あぁ、ちょうどそこにいる使用人に愚痴ってたな。俺は全部聞いていたよ。一言一句、間違えずに再現してもいいけど」

「……」


 ネリーは黙り込み、なにも反論しようとしない。


「ネリー、本当にそんなこと言ったの? なんてことを」

「だって! リアム様は屋敷にいる間もずっとミレイユミレイユって、ミレイユが婚約した途端、私に冷たくなって、ミレイユに必死になって……! おかしいのよ! 兄妹のくせに! ……エクトル王子にだって、勝てるわけないのに」

「俺がいつエクトル王子に負けた。俺はいつだって、ミレイユのことで誰かに負けたことなんかない」

「……じゃあどうして、ミレイユはエクトル王子と婚約したのよ!」

「ミレイユもどうせ婚約破棄するよ。……では。この話はなかったということで。こちらの両親には、俺から伝えておきますね。……ネリー。君の気持ちをひと時でも弄んだこと、悪かった」


 最後まで邪魔だったしどうでもよかった。利用価値のある女としか思ってなかった。

 でも結果的にネリーとの婚約は、なにもいいことを生まなかった。俺の判断ミスだ。巻き込んだことに関しては、今は少なからず悪いと思っている。あと、序盤はミレイユになかなかいい動きをみせてくれていた。嫉妬したミレイユを俺に見せてくれたことは深く感謝しよう。


 さようなら、ネリー。君の一番の失敗は、男を見る目がなかったことだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。