6.育てる楽しみ。
仕事に行くときに天気がいいと、ああこんな日は家にいて庭をいじりたいなぁ、と春はいつも思う。
冬に鉢上げしたまま、まだ地に下ろしていないレモングラスが出勤する私を玄関で恨めしく見つめている……ような気がしてくる。
車に乗ろうとすると、自分のハーブ畑がどうしても目に入る。今年は冬にほとんど雪が降らなかったので、イタリアンパセリは早くも青々としていて、あれを収穫してトマトとフェタチーズと和えた癖の強いサラダを作りたい。そして同じく庭からむしったミントでモヒートを作って朝から一杯飲みたくなる。
使う分を収穫したら、そろそろ畑中に薬も撒かないといけない。雪が少ない年は害虫や病気が流行る。カメムシとヨトウムシとヨモギハムシとの戦いが今年もまもなく始まってしまう。雨が降る度に雑草は伸びていくし、今年はなんともう蚊も出ているので軽く絶望した。
住んでいるところが田舎なので、庭だけはそれなりの広さがある。
私はハーブや果樹を植えるのが好きで、自分の木や草が幾種類かあるのだが、どれもやはりそれなりに手入れを必要とする。ちなみに食べられない植物にはあまり興味がない。草をむしって、肥料を撒いて、病気の予防をして、害虫を駆除して、花がつけば受粉を確認し、実がなれば袋をかける……スローライフは忙しい。一年中、何かしらやる事はあるものだ。
けれど、その面倒くささを考えても、自分が植えた木や草が育っていくというのはなかなか楽しい物がある。冬を越え、新芽が出ればほっとするし、枝が伸びれば嬉しく思う。花が咲き、葉が茂り実がなるのは毎年喜びを運んでくる。それをそばで手入れしながら眺めるのが好きなのだ。
今年もそろそろ手入れを始めたいので、このところいつも雨の休日を恨めしく思い、晴れた平日の空に嫉妬している。私の会社は幸運ながら休みになっていないし、テレワークも存在しないから仕方ないのだが。まぁどのみちテレワークの最中に庭に出るわけには行かないだろうけど。
もし庭がなかったり、季節が冬や真夏なら、きっと家の中でなにか育てただろうなと思う。アメリカ人がひよこを飼うように、何か小さなものを室内に植えただろう。
プランターで育てられるようなハーブや二十日大根は定番だし、食べた後の豆苗なんかも手軽で楽しい。にょきにょきと景気よく伸びる豆苗は可愛かった。味は……私は好きなのだが、家族には今ひとつだったので、二回くらいやって今のところそれっきりだが。
そういえば昔育てた椎茸も楽しかった。椎茸は実は大して好きじゃないのだけれど、自分で育てたと思うとなんとなく美味しい気がするので、椎茸嫌いのお子さんにはおすすめしたい。いつだったか切り倒した庭の栗の木で育てたのはさらに美味しかったけど、めちゃくちゃ時間が(多分二年くらい)かかったので、是非菌床でどうぞ。
食べられないけれど育てて面白かったのは、アボカドの種。爪楊枝を下に何本か刺したりして水耕栽培するのだけれど、発芽までかなりの時間がかかるだけに根や芽が出たときはとても嬉しかった。
子供の夏休みの自由研究とかにいいかもしれない。芽が出るまで一ヶ月位はかかるので、観察記録が簡単で済む。ずぼらなお子さんにおすすめしたい。
ただ、実がなるまで十年とかかかるらしいし、冬になったら枯れちゃうんだけど……暖かい地方の人はいいんじゃないかな。
日々育つ何かが傍に一つでもあると、生活に張りが出る。
別に植物でなくてもいいのだろうが、子供やペットほど手がかからないので、ちょっとした心の余裕になる気がする。一日に一回でも、朝でも夕でも、その姿に目を止め、水は足りているか、今日の葉のつやはどうか、雑草に浸食されていないか、なんて言うことを少しだけ点検する。
毎日暗いニュースが溢れ、閉塞感に息が詰まる時にこそ、植物を育てたいなと思う。
今年は新しく、コリンキーというカボチャの苗をプランターに植えると決めていたのだが、苗を探しに行くのは不要不急にはいるだろうかと少々悩んでいる。とりあえず、種の通販を探してみようかな。