10.家にいたなら、小説を書こう。
自分の無力さを実感する時というのは、人生でそう何度もあって欲しくないものだと誰もが思うだろう。
しかし、案外そういう瞬間は多い。大きな災害や、予期せぬ親しい人の病や死、それ以外にも、悲しい出来事は人生の道行きにいくらでも転がっている。
今この瞬間もそうだ。
誰かがどこかで病に倒れているが、私を含めた大半の人間になすすべもないと来ている。
何か私に出来る事はと考えても、職場では人と適度な距離を保ち、あとは家にいて人と会う機会を減らし、健康に気をつけるくらいしかない。元々人とはある程度節度をもって距離を取りたいタイプだし、家にいるのは全然平気な質だから、申し訳ないがただのご褒美だ。
病院や検査機関、研究機関で昼夜問わず戦う方々や、生活に必要な店舗を維持してくれる方々、輸送や生産を担っている方々。休むことの出来ないそうした人達のおかげで、私は休みの日にのんきに家にこもっている事が出来るというのに、何も返せないのだ。
自分に出来る事を色々考えてみたものの、結局は私は仕事がある限り職場に行き、普通に働き、適度に経済を回して、休みの日は家にいる、それしか出来そうにない。
だから、出来ないことを数えず、出来る事やしたい事を考えてぽつぽつと文を書いてみた。
出来る事が少ないのなら、せめて自分の機嫌くらいは自分で取りたいからだ。ストレスを抱えて周囲に当たり散らしたり、ネットで攻撃的になったりしたくはないし。
今のこの状況がいつまで続くのかはわからないし、この後が今より良いとも限らない。何があっても戦うべき時にはきちんと力を発揮できるように、元気を蓄えておこうと思っている。
そうして、休みになったら、家にいる事になったら、小説を書こうと思った。
何でも良いから、こうやってまた何か書こうと。
役に立つとか立たないとかは関係なく、面白いか面白くないかも置いておいて、ただ書こうかと思っている。
どうもブランクが長いと少し続けて書くとすぐに自分が書いている物が面白いかどうかわからなくなって途中で止まってしまう傾向がある。漫画を書く妹は良くクソ漫画病にかかったと嘆いているが、それの小説版だろう。
それでどうも滞りがちだったのだが、もうここに至ってどうでも良いかなと思えてきた。
だって、誰がこんな未来を想像していただろう。こんなに文明が発達したように思えていたのに、自分が生きている間に、未知の疫病が広がって世界が大混乱だなんて。
考えてみれば、明日私が生きているかどうかだって誰にもわからないのだ。なら私が書いた素人小説が面白くなくたって、誰も困らないし私だってそれが原因で死ぬわけでもない。
きっと、自分の中だけでならもっと人は自分勝手でも良いのだ。
だから、休みになったらまた小説を書こうと思う。他の誰のためでもなく、自分のために。
そうして気が向いたらそれを家で暇をしている誰かに読んで貰いたい。ちょっとくらい誰かの暇つぶしの役に立てば嬉しいからだ。もし面白くなかったらそっとブラウザを閉じて見なかったことにして欲しいが。
このサイトには、色々な人がいる。きっと大半は私と同じように、家にいる事が別に苦じゃない人じゃないかなと勝手に思っている。
でもそんな私たちもやはり不安は抱くし、ずっと家にいれば鬱屈も溜まるだろう。
だから、皆さんにも感謝を。
小説を書いて、楽しませてくれてありがとう。それらを楽しんでくれてありがとう。
もう少し、みんな一緒に、それぞれの家でのんびりと自分勝手を楽しもう。
自分自身を、周りの人を、今頑張ってくれている人達を、少しでも危険に晒さないために。
でも自分が潰れてしまわないように、些細でもやりたい事を探して、全力で楽しんでしまおう。
今頑張っている人たちが仕事を終えて休みをとれる時が来るよう、その時まで社会を維持できるよう、私なりのやり方で、微力を尽くそうと思う。