1.赤いジャム瓶を並べる。
このところ徐々に仕事が暇になってきたので、不安に思う時間を減らそうと有効活用にチャレンジしてみる。
しばし考え、まず冷凍庫が頭に浮かんだ。
私は毎年庭で実る沢山のブラックベリーを煮て搾ってピューレを作る。それが大量に冷凍庫に眠っているのだ。暇とやる気が出来たら時々ジャムにするのだけれど、なかなかその両方がある休みというのは少ない。
なので、ぜひあれをジャムにしてしまいたいなぁと思う。瓶も砂糖も通販で買えるので、家から出る必要はない。ネット通販会社さん、運送会社さん本当にありがとう。
鮮やかな赤い輸血パックのような塊を何個か冷凍庫から出し、一番大きな鍋に放り込み、弱火でゆっくり溶かして行く。
溶けたらそのまましばらく煮る。やがてあくが浮いてくるので、それを取り、砂糖を足す。分量はこの時は大体適当だ。
そのまま時々かき回し、あくを取りして煮ていくと、赤くてちょっとふわふわしていたピューレはやがて赤黒いとろりとした液状になる。その変化は結構劇的で面白い。このジャムを煮ていると、良く家族から魔女の薬のようだと笑われる。
鍋の中身はふつふつとゆっくり沸き、甘酸っぱい香りが台所を越えて居間まで届く頃、糖度計で糖度を確認。
(ちなみにこの糖度計は誕生日プレゼントにリクエストして貰った物だ。赤外線の温度計もそう。次の誕生日にはミニガスバーナーをリクエストしたいと思っている)
そうして糖度が十分な事を確かめつつ、ジャムの表面にうっすらとしわが寄るくらいまで煮詰めたら完成だ。
後は煮沸しておいた瓶に分け、別の鍋に入れて脱気する。
そう、ジャムというのは、この工程が意外と面倒くさいのだ。
入れる瓶をあらかじめ煮沸しておかなければいけないし、できあがった物を日持ちさせるためには脱気が不可欠だ。
こういうことは絶対、休みがあって疲れてない時じゃないとやる気になれない。
すぐに食べきれる分だけ作るならかまわないのだろうが、あいにく私の保存しているピューレのパックは結構大きい。そして実は私は甘い物をあまり食べない。
じゃあ何故実を取っておくのか、ジャムを作るのかと言われると困るのだが。
だって実ったら取らないとなんだか申し訳ないし、そのままにしておいてもブラックベリーは鳥も食べないので翌年あちこちから芽が出てしまう。取った実を捨てるのももったいないし。
そして、甘いジャムはほとんど食べないが、できあがった濃い赤の美しい瓶をずらりと並べておくのは好きなのだ。ベリーも杏もリンゴもゆずもレモンも、出来上がった瓶はどれも美しい。それを並べると、なんだかやりきった感があってたまらないのだ。
要するに私はジャムを作ることがとてもとても好きなのだろう。この結構面倒くさい作業が気にならないくらいに作るのが楽しく、それを振る舞うのもまた楽しい。
ジャムをいれたヨーグルトを食べる家族の前で、私は生ハムやチーズを食べているが。
そんな風に、面倒だけどちょっと手間をかけて、日持ちするようにきっちり作れば人にもプレゼントしやすい。きっちり作るのにちょっとだけだともったいないからと、一回に大量に作る。出来あがった瓶を並べてひとしきり眺めて楽しむ。そして何かの折にそれを人に配り、楽しんで貰う。
そこまでセットで、全部私の楽しみなのだ。
だから私が今家にいたら、きっとそんなことをするだろうなと思う。
冷凍庫の整理を兼ねて、赤や黄色のジャムを気が済むまで作って、棚に並べてうっとりと眺めたいなぁ。
そんなことを思いつつ、今のところ普通に仕事に行ける幸運についても考えている。