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蓮の伝説2

そんな晴彬にとってはいたたまれない時間を救ったのは第三者であった。

一人の若者がその広間に姿を表したのだ。


「晴彬様」

現れた池上高脩(いけがみたかざね)が静かに声をかける。

高脩は晴彬のひとつ上で、戦に行くよりも情報収集能力やその分析能力に優れているため、ほぼ参謀のような働きをしている。


勝春と勝美がそれまでのんびりしていた表情を改めると高脩を見る。高脩は、微かに頷くと居住まいを正して息を落ち着かせた晴彬に近づき耳打ちする。

「客?」

晴彬が怪訝な声を出して高脩を見る。問われた高脩は頷く。

「はい、女性の方です」

しかし、この声には若干の戸惑いがある。


「名は?」

勝春が短く訪ね人の誰何を尋ねる。高脩は困ったような顔を勝春に向ける。

「晴彬様にお会いになれば判る、と」

勝美が言う。

「身元がはっきりしないのならばお帰りいただくしかありますまい」

「身元がはっきりするのならばよろしいのでしょうか?」


突然、その場に明るい若い女性の声が響いた。

晴彬に集中していた全員が振り返る。全員の男性の視線を受けて、声をかけた女性が軽く頭を下げる。

その女性は腰まである髪を纏めることなく流している。この時代、女性の外着である袴姿である。

「おひさし振りでございます、晴彬様、勝春様。そのほかの方は初めてですね。勝美様、高脩様、風千代様」


ここに居る全ての男性が突然現れた女性に飲まれていた。

勝春はその女性を見知っているのだが、彼女が自分のことを覚えていたことに対して、

勝美と高脩は彼女が彼らの名を呼ぶときにきちんと彼らを見ていたことに対して、

風千代はその女性がにこやかに微笑したことに対して、

そして、晴彬は彼女の突然の訪来に対して遅まきながら驚いたのだ。

「・・・・千砂(ちずな)・・・・様・・?」


晴彬の呆然とした呟きは、一番早くショックから立ち直った風千代の耳に届く。

「白良家の領主の次女、白良千砂です」

「勝美!この方だよ。隣の国の方。白良千砂様!兄様の心にお決めになった女性だよ!」

この女性が自己紹介するのと、風千代が目を輝かせて勝美にその女性を指して叫んだのは全くの同時だった。

しかし、風千代の叫び声は見事なまでに千砂の声をかき消してしまった。

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