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蓮の伝説12

千砂は城内に入ると一目散に白良城内で一番広い部屋を目指す。

こういった城が戦場となった場合、けが人及び女性子どもがそこに集まっている。これは勝美にも伝えてある。そこに義敬他、城内の人がいると千砂はふんだのだ。

千砂の視界が一瞬暗くなる。千砂は反射的に勝美から借りた剣をサヤごと振る。ちなみに千砂が持っていた剣はさっき折れてしまった。

しかし、それはそのまま相手の腕に止まられてしまう。千砂はそうなることを予想していたのだろう、次への行動が異様に早かったのだ。剣との接点を支点にして男の懐に飛び込むと、さきほどと同じようにサヤごと振る。その拍子にさやから剣が抜けてしまい男のわき腹あたりに綺麗に入ってしまう。膝をついた男の首を柄で殴打する。その場でうずくまった男が気を失ったことを確認してざっと自分の着物を確認する。

白い自分が着物を汚さないようにしていたことに気付き、苦笑してしまう。千砂は血で汚れた部分を剣の刃で切り、血を拭う。千砂はサヤに刃を収めると再び走り出した。


千砂は一瞬むせ返るような熱気に顔をしかめた。千砂は近くでけが人の手当てをしている女性に声をかける。

「全員無事ですか?」

突然声をかけられた女性とそのまわりにいる数人が驚いたように千砂のほうを振り返る。千砂はその反応にたじろく。千砂は自分の姿を見た誰かが自分がいることを伝えているだろうと思っていたのだ。しかし、千砂の姿を見たものは正直それどころではなかった。

椋実にいるはずなのに、という声にならない驚きは千砂を中心にすさまじい速さで普及していった。義敬、敬影が再起不能に近い状態であるためか「白良の女将軍」とあだ名される千砂の存在は、ある意味士気を高めた。

「もう少し下がってください。この戸からできるだけ離れてください」

この部屋にある唯一つの障子の戸を指し千砂は声をかける。千砂の声はその静まり返った空間によく響いた。千砂は続ける。

「大丈夫。絶対負けたりしません。戦うことに支障の無い方はけが人を守ってください」

微笑してそういった千砂の顔を見て、遠くで奈菜は小さく息を飲む。千砂はその気配に奈菜の方を見たが、特別何か言うこともなく部屋を出る。


そこで千砂は低い声で呟く。

「利代子、この城内に敵兵は後何人ぐらいいる?」

「7名です」

足元から聞こえた声に千砂はひざを抱えるように座り込む。

「やっぱり、そのくらいいるのよね」

独り言のようにつぶやいた千砂に対し利代子は冷静だ。

「おそらく、ここにきます」

「………、まとめて?」

ため息を飲み込むように千砂は利代子に尋ねる。

「その可能性は低いです。個別に動いているようですから」

「ありがとう」

千砂の言葉に利代子の気配が薄くなっていく。しかし、利代子はそこにいることを千砂は知っている。


部屋に戻った千砂を迎えたのは、奈菜に支えられた義敬だった。その隣に奈菜の侍女はつねもいる。

「もう大丈夫なのですか?」

しかし義敬は千砂の言葉には答えなかった。

「千砂。何故戻ってきた?」

質問、というより詰問に近いその問い方に千砂は若干ひるむ。

「晴彬様の許可は頂きました」

「なぜ、このように危ないところに戻る?」

再び言葉を重ねた義敬に千砂は不信な顔をする。

「危ないと分かっていて放っておけと……」

千砂の言葉の途中で静まり返ったその部屋に大きな音が支配した。

千砂が慌てて振り返ると利代子が力負けして、戸を破って部屋に入ってくるところだった。バランスを崩した利代子を見て千砂がとっさに折れて使い物にならなくなった自分の剣を利代子に切りかかった男に投げつける。あとで修理してまた使おうと思っていたのだが、思わぬところで役に立った。

あたりはしなかったが、一瞬相手にスキが出来る。利代子は素早く起きると隠し持っていた短剣の柄で体当たりするようにして相手ののど元を狙う。どうやら、ここにいる女性や子どもの見える範囲での戦いを見せたくはないのであろう。千砂は彼女のそういった配慮に嬉しく思いながら利代子の側に行くべく廊下に向かう。奈菜はそんな二人から視線をそらす。


「大丈夫?」

先程の男は気を失っているのか、庭先で蹲っている。動き出す気配はない。

基本的に二人の女性の戦い方は相手の意識を奪って放置、である。

「はい、少し怪我しただけです。先ほどの音でここがばれてしまったでしょう」

「構わない。まだいける?」

「はい」

千砂は利代子の返事に頷く。千砂は開け放たれた部屋にいる義敬を見ずに言う。

「父上。私がここに戻ってきたのは私の意思です。私はこの白良の何かの役に立つたかったのです。私にはそのような権利も無いと父上は言うのですか?」

その言葉に利代子が一瞬鋭い目で千砂を見る。しかし、千砂はその視線には気付かない。

その言葉を聞いた奈菜はただ俯いたままだ。はつねは痛ましげに千砂と奈菜を見ている。義敬は強張った表情を崩せずにいた。

義敬はこの部屋の子どもや女性に侵入者と戦っている状況を見せないように気を配っている二人を見ながら、奈菜に声をかける。

「このままでよいのか?」

「………」

奈菜は答えない。

「このままでは、千砂や湖依、浦順に申し訳ないと思わないのか?」

「……お父様」

「……千砂と湖依が可哀想だ」

奈菜は何も言わずはつねに義敬を預ける。ゆっくりと立ち上がると豊かな波打つ髪が揺れる。

「……お父様、さっき千砂が浦順様に見えました」

「……奈菜…」

奈菜の言葉に逆に義敬が息を飲む。

「お父様……許してください」

奈菜はそう呟くと侵入者との戦いが落ち着いた二人に近づく。

「後……二人ね」

千砂がそう呟いたとき、まっすぐに近づいた奈菜が視界に入る。遅まきながら利代子も奈菜に気付く。

そして。

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