83.幻聴
頭の中で声がする
狂ったように笑いながら
或は泣き喚きながら
消えてしまえと叫んでいる
その声に惹かれて夜道を歩く
身を切るような冷たい空気
風は容赦なく体温を奪って
黒い空は何もかもを
塗りつぶしてくれそうだ
ああなんて
誘惑に満ちているんだろう
喚く声に従いたくなる
だってもう
僕など要らないから
悪いことは全て僕のせいだし
誰かの特別になることもない
ほら、あの人もそう言っただろう?
僕自身が変わるべきだと
それなりにやってきたつもりだった
でもまだ足りないなら
僕はこれ以上何を
そこに捧げればいいの?
僕なりに精一杯だった
でもまだ変われという
ならいっそもう殺してよ
今の僕は要らないんでしょう?
希望を抱く愚かな僕は
今にも凍えそうな川に棄て
何かにすがる弱い僕は
車に轢かせて消してしまおう
弱音を吐く馬鹿な僕は
荒れた山に彷徨わせ
何かに怒る粗野な僕は
森に棲む獣に喰われてしまえ
悲しいと感じる最後の僕を
崖から突き落とせば大団円
一夜重ねる度に
認められなかった僕を
少しずつ処分していこう
幾夜もかかりはするけれど
愚かで下らぬ感情を
全て片付け終わったら
消えろという声は止みますか?
僕は必要とされますか?