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56.夢
幸せな記憶は時の彼方
ぼやけた輪郭は辺りに溶け込み
朧げになって消えていく
苦しい記憶も時の彼方
尖った輪郭で辺りを傷つけ
全てを刻んで消えていく
そうして僕は空っぽになった
楽しかった記憶も
嬉しかったことも
悲しかった出来事も
苦しかった心も
怒りも憎しみも何もかも
時に切り刻まれて砕けて消えた
そしていつしか
何も無いことが
僕になった
この虚しさも一時のもの
この幸福もすぐ消える
何も残らないまま
何も成せないまま
どうしてみんな
過去を覚えていられるの?
どうしてみんな
思い出を語れるの?
共有していたはずのそれを
どうして僕は
覚えていられないの?
ああ、きっとこれは悪い夢
永遠に醒めない
ただの、夢