52/100
52.喪失
ピアノの旋律が揺れる
あれは幼い日の僕の姿
悲しみも辛さも怒りも
ピアノは全部受け止めて
綺麗に昇華してくれた
辛うじて僕が立てたのは
傍らにピアノがあったから
それを失ったのは勤めてから
引越しと同時にピアノと別れた
僕の全てを知る友人を
その時に失った
ひたすら折り紙を折った
細かい作業に没頭すると
頭が空っぽにできたから
涙で歪んだ連鶴が
僕の心を満たしてくれた
それを失ったのは転勤の時
引越しのゴミと共に
無残に千切られ捨てられた
文章を、落書きを書き殴り
思いの丈をぶつけてきた
誰かの「気持ち悪い」の一言で
そこから何も書けなくなった
それがいつだったのか
もう思い出せやしないけど
ささくれた心を収める術は
もう、何も要らないよ
どうせ何かの拍子に失うから
誰かに否定されるから
乱れる心をひた隠しにして
壊れた精神を取り繕って
笑って見せれば良いんだろう?