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プロローグ

「いらっしゃいませー!どうぞ店内ご覧下さいませー!」



「よろしければご試着はいかかですかー?」



「この商品僕も持っているんですけど、すごくいいんですよー!」



 誰もが一度は耳にしたことがあるような台詞だろう。人によっては嫌悪感で鳥肌が立つかもしれない。まあ俺もグイグイ来られるのは嫌なタチである。だがさっきの台詞を言っているのは俺、三浦和也(みうらかずや)だ。


 大学に入学したものの特にこれといってやりたいことは見つからず、サークルに入ることもなかった。適度に勉強し、適度に友達と遊んだ。何の変哲も無いごく普通の日常だった。だがはっきり言って仕舞えば日向ではなく日陰と言える大学生活だった。


 3年間を共にしたゼミのメンバーの名前を卒業まで覚えることはなかったし、飲み会や合コン、クラブに行くことは一度も無かった。ちなみに誘われることすらなかったのは内緒だ。

 就職活動の時期は周りが全員同じに見えて退屈で仕方なかった。俺はこうなりたくないとか思いながらもやりたいことはないわけで。結局のところ真面目に続けていたバイト先、アパレル業界にそのまま就職したというわけだ。


 みんなの言いたいことは分かる。え、アパレルで陰キャっておかしくね?って言いたいんだろ??それに関しては俺も同意である。だが売り場に立つ時、声を掛けに行く時。その時だけは自分じゃないような気になれる。イメージ的にはレバーがあって、それを動かすことでモードが変わっている感じ。何よりも、好きな服を着ている時はテンションが上がりまくりなのだ。


 まあそんなわけで、就職してからもバイトしていた店舗で働いて楽しい日々を送っていたのだが…。



「三浦くん、ちょっと話あるんだけどいいかな?」



「あ、はい大丈夫です」



「うん、じゃあ急だけど異動だから」



 そんなエリアマネージャーの声が頭に木霊した。あまりに突然のことで時が止まったように感じた。店舗異動は付き物だと分かっていたとはいえ、いざ自分が当事者になると鼓動が早くなった。


 アパレル業界であればどこのブランドでもそんなものだろう。長くて3年、短ければ半年足らずで異動することだってある。研修の時に良くしてくれた先輩は言っていた。



「全国の女に出会える最高な職だぞ!」



 それ自体は否定できないが、生憎女性慣れしていない俺には関係が発展することなど無縁な話である。


 もちろん女性スタッフと話すことも女性客と話すこともあるため、全く喋らないわけではない。というかむしろ女性と話すのは好きな方である。

 ただ、単純に苦手なのだ。ましてや可愛い女性であればあるほど苦手だ。緊張で上がってしまい顔が真っ赤になってしまう。


 だからこそ今までの23年間で彼女が出来たことがないのだろう。べ、別に付き合いたいとかは思ってないけどな。


 兎にも角にも俺、三浦和也はアパレル業界に身を置いて1年足らずで異動となるのだった。まさか新生活を迎える土地で沢山の出会いを迎えることになるとは。


 この時はまだ知る由もない…。

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