八話
「ふんふんふ~ん」
今日の俺は上機嫌だ。鼻歌も歌っちゃう!
まあ、なんといってもようやく話が進みそうだからな。こういうイベントはゲームではもっぱら急展開の下りだろう。あと打ち切りの漫画とか。なんか不穏。
そんな不穏な空気は三島のしたトイレの水と一緒に流して、俺はだが拭い取れない不安について考えをはせる。あ、俺はもちろん個室の外よ? 女子トイレに入るのも抵抗がなくなったなぁ。
完全に不審者だが、そんなことより今はドッペルゲンガーについてだ。一体いつ、どこに現れるのかなんて情報はあるわけがない。だから、今はまだ待つしかない、のだが……。
ま、今は今日の三島の髪型を楽しむとしよう。俺は普段寝泊まりは公園でしているので、三島を見るのはこの学校のこの時間が最初。俺にとっては一日の始まりの目覚まし時計と言っても過言ではない。
「え」
その三島が、トイレから出てくるやフリーズ。驚いたような表情をして固まっている。
うん? 一体どうしたというのだろうか。なんか、俺の方を見てるような……。俺は反射的に背後を振り返る。だが、そこにいたのは……。
「く、蜘蛛ー?!」
握りこぶしサイズの大きな蜘蛛がいた。いや、俺も正直怖いんですが……。俺の目と鼻の先だけどなんか目と鼻の先って言い回しこんな場面に使うものじゃない気がするんですが?!
と、俺も硬直していると、いつの間にか三島は俺の前から消えていた。まあ、当然だよな。
何はともあれ、可愛い一面を見れたから満足だ。とりあえず蜘蛛。ちょっと一回天井に戻ってくれ。
―― ―― ―― ―― ――
その日はいつも通りで、公園で一夜を過ごし翌日。
「おはよー」
「おはよう、理恵」
いつもの金髪っ子の登場。やっぱ眺めてるだけでもいいよなぁ。俺すげぇ変態な気がする。でも、世の中の男子ってそんなもんだよな……?
少し自分が怖くなっていくような気もする。なんだか、別の悪い何かに飲まれていくような……。
――そういえば、あの溶解液の男はどうなったのだろう。
ふと、そんなことを思い出した。だが、そんなことはどうでもよくなる。
「きゃっ?! 蜘蛛?!」
「あはは、大げさだよ、由香ちゃん」
「あ、あんたは大丈夫なわけ?」
「まあ、ちょっとは怖いけど、そんな驚くほどじゃないかなぁ」
……あれ? 昨日はあんなにびびっていたじゃないか。そんなに驚くほどじゃない。
「昨日も、家の花壇におっきい蜘蛛がいたけど、追い払ったよ」
「ひええ、すごいね……。なんかおばあちゃんっぽい。昭和っぽいみたいな?」
それは褒め言葉なのかどうか微妙なラインだが、しかし……。
ドッペルゲンガー。三島理恵には気を付けろ。
……これは、合法的に家について行けるな。




