六話
「おっらぁ!」
俺は、ブルーシートが飛ぶのを防ぐためのコンクリートブロックを勢いよく男へ投げる。だが、それを易々と溶解液で防御し、男もカウンターの溶解液の塊を放つ。
『厄介な能力持ってやがんな畜生!』
「生憎と俺もメカニズムはさっぱりだが!」
『みんなそんなもんだろ!』
コンクリートブロックが無くなったのを感触で確認し、俺は学校の駐車場へと走る。ここが母校でよかった。
『たが、これじゃあ両方とも死ねねぇなぁ!』
「死なない結構!」
すまん、先生方! ……いや、よく良く考えればうちの中学の先生みんな頭おかしかったな……。
じゃ、いっか! とはならない。
「三島理恵を守るためだからすまん!」
手近な軽自動車を持ち上げ、思い切り投げる。さすがにその質量を一気に溶かせるほどの力がないとわかった男は、右に避ける。
男の背後で車が転がる聞きなれない金属音が鳴り響く。
『ぐぉっ?!』
「読みあたり!」
右が左か、二択の読みをなんとか外すことなく、俺は初めて直接的なダメージを男に与える。
『ぐっ、はっ!』
それは間違いなく男の脇腹を打ち砕いた。そんな感触がしたのだ。
これが、人を攻撃する感触……。
「……慣れるのに時間がかかりそうだ」
たった一撃入れただけ。なのに、人間の心のままの俺のチキンハートは今のでギブアップと叫んでいる。
当然だ。生前人を殴りも叩きもしてこなかった人間が、突然「殺しあってね」と言われて殺せるか?
否である。
正直、もう攻撃も与えたくない。
『……ふぅ』
回復した様子の男が、のっそりと起き上がる。
『……浅い蹴りだな』
「悪かったな。満員電車で立つことしかしてこなかった脚だ」
『でも、そんぐらい無害な方がいいだろ』
男が、うっすらと苦笑を浮かべた気がした。
『帰るわ』
「……は?」
『やっぱ、こんな姿になっても、自分を忘れても、死にたくねぇもんだな』
「……もとより、殺すつもりはなかったが」
『ははは。ありがてぇ。……じゃなあな。最後に』
『三島理恵、ちゃんと見とけよ』
地面が爆ぜ、砂煙が舞う、その中心。男はーーもうどこかへ行ってしまっていた。
勝手に戦い初めて、勝手に語って、勝手に帰りやがった。
だけど、なぜだろう。
なぜか俺は、満たされていた。
戦いの余韻などというものではない。
それはーー
「……透明人間になったら、みんな俺の事、わかんなくなるんだもんなぁ」
俺を、認識してくれた。会話をしてくれた。目を合わせてくれた。
そんな、些細な当然のことがーー嬉しかったのだ。




