三話
三島理恵。それが、俺が助けた少女の名前らしい。
運動は得意、学業は苦手という両極端な性格の彼女は、今日も陸上部の活動に励んでいる。
いやはや、立派なストーカーである。
とか悠長にしている場合じゃないんですけどね! ストーカーだし不法侵入者だし立派な極悪人なんですけども!
……なぜか、あの子から、三島理恵に惹かれるものがある。
その正体を俺は知ることなどなさそうだが。
「休憩ー!」
「「「はーい」」」
時刻を見れば四時半を過ぎるところ。季節に見合わない灼熱の光線を放射する太陽に照らされつつ、少女たちが休憩に入る。
……眺めてるだけで眼福だね、まったく。
ロリコンそのものの思考であるが、自覚はあるのでセーフでいいだろう。
俺は直にコンクリートに触れないようにして、比較的熱くない雑草を踏んで移動する。すまない雑草。
少し喉が乾いた。自分もここらで休憩としよう。
靴がないというのがここまで不便だとは気づかなかったが、なんとか水道まで辿り着き、その蛇口を捻る。
「ひゃぁ?!」
不注意だった。
周りを見もせずに蛇口を捻った。それは、傍から見れば突然誰も触っていない蛇口から水が出てきたということで。
「……お、お化け?」
「バカね、理恵。そんなのいるわけないじゃない。……まあ、ちょっと怖いけど」
「あはは、そうだよね……」
俺は音をたてまいと、体を固くする。お願いだからこの蛇口の近くにこないでくれ……。
しかし、その心配は杞憂というもので。
「怖いし、ちょっと離れたところに行こう、理恵」
「うん。そうする」
二人は、仲良く談笑をしながらもうひとつの水道まで歩いていった。
危なかった……間一髪だ。だが、これで俺はようやく水を飲める。
変な緊張で水を欲する体に、思う存分それを与えてやる。冷たい水が、見えない体を潤す。
ぷはぁ、と顔を上げ、蛇口を閉めて俺は何気なしに三島理恵の方を見る。
ーー離れたとこから、三島理恵が、こちらを見ていた。
「どしたの?」
「……ううん。なんでもない」
微かに聞こえたその会話は、俺の思考をフリーズさせる。
ありえない。いや、有り得るのだろうか? 果たして、自分の目にも見えない自分の体を、他人が見ることはできるのだろうか?
だとしたら……。
「……俺、ただの全裸の変態じゃん」
それだけは避けたいんだがなぁ……。
ザリッ。
背後で土を踏む音。そろそろここから離れて、また誰も来ない場所でひっそりと女子を観察することにしよう。しかし、ブルマでなくなったのが悲しいなぁ。
俺はその場を後にするーー予定だった。
『ぐじゅる』
すぐ後ろで、妙な音。振り返ればーー
「……おいおい」
透明人間になったってだけでもおなかいっぱいなのに。
「なんだ、こいつ……?」
高さ、約1メートル50センチ。例えるならば、そうだな。
溶けたパルムの妖怪のような、茶と白の醜い化け物が、俺を見つめていた。
『ぐじゅる』




