二十二話
ひっそりと世界を救ってからひと月が経った。
今思い出しても、なかなかいいことをした気分にはなれない。だが後悔もしていない。
きっとああするしかなかったんだろう。
そんなわけで、今日も今日とて俺は廊下を歩く三島理恵を追っている。
『それは犯罪じゃないのか?』
「殺し屋が今更何を言ってんだか」
『確かにな』
死神は、タコ男が消えたあとも尚俺の中に住んでいる。しかしそれはイレギュラーなのだ。
三島理恵の父、溶解液男は正気に戻ったのだから。
つまり、俺はおかしいということだ。
まあ、別に大したことではないし、こいつがいる方が安心するのだが。
「というか、俺のこれは花さんから頼まれてやってるんだからな?」
そう、これはただのストーカーではないのだ。
三島理恵の母、花さん直々のお願いだ。
「やっぱり、あの子を狙ってくる人っていうのはたくさんいるのよ。だから、守ってくれないかしら?」と。
ならばやるしかない。つまりこれは合法的ストーカー。ストーカーに合法もあってたまるか。
『まあもしもの時は俺に変われよ』
「わかってるよ」
俺には先頭の技術はないんだからな。
しかし気になるのが、偽理恵はどうなったのか、ということだ。
あの後猫の姿のまま去ってから、一度も目にしていない。
もしかしたらまだ落ち込んだままかもしれないし、途方に暮れてるかもしれないし、何か行動を起こしているのかもしれない。
それでも、きっといつかまた会うことになるだろう。そんな気がする。
そんなことを考えていると、ピリッとした気配を感じた。
「……来たな」
『だな。よーし、行こう』
俺は廊下の窓から校庭へ出る。いたのは巨大なムカデの姿。
「ここにいやがるなぁ、この世界の鍵が……」
「それはさせねぇよ」
のっそりと上げた顔を、ばすんと蹴り飛ばす。
反動を受けて仰け反るムカデ。死神は笑う。
「三島理恵は渡さないぞ。これは仕事だ。殺し屋のな」
……もうどっちが主人公なんだかわからないな。
だがそれでいい。みんな誰しも役割がある。
俺はシリアスには向いてないからなぁ……。
激しい戦闘の途中。ふと校舎の方を見た。
ーー三島理恵が、そっと窓から離れて行った。
その意味を、俺達はまだ知らない。




