十九話
「おらおらおらぁ!」
「うおっ!」
弾丸の雨から身を守るため、テーブルを立たせ防壁を作る。
この世界では俺の頑丈さは適用されないようで、先ほど試しに腕にくらってみたところがズキズキと痛む。もっと慎重に行動するべきだったか。
そう考えているうちにも、弾丸はテーブルをひとつ、またひとつと破壊していく。
「俺の姿見えてんのかよっ!」
「当たり前だろ? 自分が見えないわけあるか!」
ごもっともだな。
俺は手近な椅子を一つぶん投げる。だがそれもむなしく空中で雨に飲まれ木くずとなってハラハラと落ちていく。
だがそれでいい。
身体能力はそのままだ。俺は足の筋力に力を込め、死神に接近。ついに死角を捉えた。
「――甘いよ」
言って、男がガトリングを手放す。そして、懐から取り出したのは――
紫色の液を滴らせる刃を持ったナイフ。
「――接近戦もできるよな、そりゃあ!」
「まあねぇ、殺し屋だから!」
ヒュンと空を切るナイフを、俺は紙一重で回避する。能力者となって身体能力が上がっているとはいえ、この巧みな技術の前には手も足も出ない。
毒の刃の脅威から逃れようと、俺は近くの皿を力任せに投げつける。だが、それをなんとナイフ一本ではじき飛ばされてしまった。
……弾けるような勢いで投げたっけな。
「自分のやることなんて、お見通しだろう?」
「……ほう?」
俺も軽い挑発に乗ってしまったものだ。片手に花瓶を携えて特攻。
そこに、待ってましたと言わんばかりのナイフ――ではなく、どこから取り出したのか一丁のハンドガン。
だが、それを俺はわかっていた。
花瓶をハンドガンへ投げつける。死神は、それを見てハンドガンを諦め、腰にあったはずのナイフに手を掛ける。だが、そこにナイフはない。なぜなら――
「飛び込みセーフ!」
「――っ、あんまりいい手じゃないんじゃないか?!」
一歩踏み込みナイフを蹴り飛ばす。しかし、俺は宙に浮いた状態。格好の的になることは間違い無い。
と、いうことで。
「蹴りだろ!」
「何?!」
垂直にたたき込まれる蹴りを俺は両腕で抱え込むように受け止めて衝撃を殺す。俺の咄嗟の判断に驚きを隠せないでいる死神を、後ろへ投げ飛ばした。
「ぐっ……!」
「なあ、さっきお前は俺のやることなんてわかってるっつったよな?」
予想外の一撃にうろたえる死神に、俺はふんと鼻を鳴らし胸を張って答える。
「それが俺にできないわけがないよなぁ?」
「……バレたところでなんだ」
強がってるなぁ、俺らしい。
しかし、まだまだ余裕はあるのか、複数のテーブルを突き破った割にはピンピンしている。
「……なあ、俺に体を譲れよ」
「はぁ? 今更なんだ。それで俺になんの得があるって?」
自分の体を渡す馬鹿はいないだろう。だからそう伝えた。
「――じゃあ、お前は他人に自分の体を横取りされたやつの気持ちがわかるのか?」
……ああ、なるほどな。
俺は力んでいた腕の力を解いた。死神が動こうとしているのに。
死神も、俺が何を理解したのかわかったのか、ゆっくりと無防備に近づいてくる。それを拒否する権利なんて、俺には無かった。
「……そうか。そうだな。最初はお前だったんだもんな」
「ああ、そうだ。それがどうだ。今やストーカーの犯罪者が俺の体に住んでやがる」
ごもっともだ。俺も笑うしか無い。
いつから俺は俺だと錯覚していたのだろうか。
自分が阿呆で馬鹿で悶絶してしまいそうだ。
目の前の俺が、タコ男に作られた新たなる人格? いやいや、違う。こいつは俺だ。本当の、俺。
あいつが言っていた。強い能力者は弱い能力者の能力を受けない。あれが、事実だったならば。
「――あー、何つー馬鹿だよ。俺は」
「ただの馬鹿だよ。本人がびっくりするぐらいのな」
「だな。……ひとつ、聞いてもいいか?」
死神がこくりと頷く。
「俺とお前は、任意で入れ替えられるのか?」
「ああ、きっとできる」
「信じるよ」
「ああ、そうしてくれ」
「しっかり仕事はこなしてくれよ?」
「ああ、俺もずっと見てたからな」
拳を交わす俺たちは、にやりと笑い合う。
「お前の愛しの三島理恵は、この死神がしっかり守って見せるさ」
「愛しのってなんだよ……」
「ん? 違うのか?」
そう意地悪に笑う死神を見て、俺の意識はまた、闇の中に沈んでいった――




