十七話
話を終えた後、俺は即座にあの場所を訪れようと決意する。
心なしかわくわくしている自分がいた。
あるはずもない記憶が蘇る。そう、それはテレビの中のヒーローに憧れたあの時の気持ち。
自分も誰かの役に、いや、世界の役に立てるんじゃ無いかと。妄想を膨らませたあの日々を。
そして今、俺がその中心にいる。
これでわくわくせずして何が男だ。
俺は駆ける。コンクリートを踏み砕く勢いで足を地面にたたきつける。
そしてたどり着いた。
「……さてと」
一見ただのぼろい二階建てアパートの一室にしか見えない、二階の端の部屋。秘密の隠れ家。
俺はあの時教えてもらったように、合い言葉代わりのチャイムを鳴らす。
二回連打。十秒待ってからさらに三回連打する。
と、ガチャリと音がなった。
「……やあ、何か?」
出てきたのは、こたつごと引っ張ってきたタコ男。コタツムリという表現がここまで似合うのに、今更ながら面白いなと思ってしまう。
さて、ここは単刀直入に行くか。
「お前、俺に嘘を吐いてただろ」
その言葉に、一瞬タコ男の動きが止まる。そしてじっと俺の目を見つめる。俺は目をそらさなかった。
「……あいつらに近づいたな」
「偽理恵もグルか?」
「いいや、あいつはだまされたままだ」
「あいつには、あいつの親が説明してくれるらしい」
そこで俺が何をしようとしたのか察したのか、タコ男がこたつごと玄関から飛び出してくる。
予想外の行動に、俺も反応が遅れ、両腕を男の手に、両足をタコ足に絡め取られ、ぼろい柵にたたきつけられる。
「お前の能力だけは事実なんだ! だから、俺はお前を殺さなければならない!」
そう言って、男がこたつの中から他の足とは違う足を覗かせる。
それは、見るからに禍々しい、コーヒーにミルクを入れてかき混ぜなかったときのような、中途半端な白と黒の模様の足。
俺の本能が警鐘を鳴らす。
強い能力を持つ能力者は、自分より弱い能力者の能力が効かない……というのは、
「やっぱりそれも嘘だな! 手の込んだ野郎だ!」
俺は腰を後ろに突き出す。と、俺の全体重が柵にかかる。俺をとらえたままの男も引っ張られ、そのまま柵が重みに耐えられず崩壊。二階から身が投げ出される。
それに反応が遅れたタコ男の手足が緩む。その瞬間、俺は拘束を振りほどき着地。そのまま距離をとる。
「聞こうじゃないか。お前がそこまでして三島理恵を守ろうとするのはなぜだ。俺を殺そうとするのはなぜだ」
「単純なことだ」
俺は質問をふっと鼻で笑い、そして堂々と言う。
「毎日ストーカーしたやつを守らなければ、俺はただの犯罪者じゃねえか!」
「――くだらない!」
おっと、冗談なんだがな。
会話はこれでおしまいと言わんばかりに、男がこたつを俺に向けて投げる。しかし俺はそれを避けずにキャッチ。そのまま左に向けて投げ捨てる。
だが早すぎたのか、こたつを目くらましにして俺に奇襲しようとしていたタコ男の前を通過していった。
「くそっ、外れた!」
「よく見切った!」
「俺も同じ戦法をとってたからな!」
溶解液男の時のように。
だが、こたつの中に隠していた足は、俺の想像以上だった。
「うわぁ、めんどくせぇ」
そう一言こぼし、触手を回避。すかさず追撃を入れてくる足を、後ろに跳んで避けた。
こたつの中に隠れていた触手はなんと二〇本を超えようかという数だった。その内の一本が、あの禍々しい触手だ。
「さっきの質問にちゃんと答えてやろうか?」
「……」
「俺は悪人じゃない。ただのストーカーをする凡人だ。だがな、一度助けた人間に情が湧かねぇはずねえだろ!」
足に全力を込めてタコ男に向けて蹴りを繰り出す。だが、それは触手の壁に阻まれる。
「なるほどな。一理ある」
「だろう?」
「しかし、お前は気にならないのか?」
「……何がだ」
ゆっくりと防御に使った触手をおろし、男が会話を始めようと肩を澄ます。
そして、俺も体の力を抜いて、だが警戒は解かずに話を聞く。
「お前の、能力者になる前についてだ」
そう言ってにやりと笑うタコ男。
「ごめんだね。犯罪者の頃の俺なんて知ってどうなる。今の脳天気なままが一番良い」
「だがお前は知らなければならない」
どすっと、何かが俺の透明なふくらはぎに刺さる感覚がした。
俺は嫌な予感に冷や汗を垂らし、そしてふくらはぎに視線を向ける。
そこには――切り離された、男の触手。それも、能力を持った触手が、刺さっていた。
「遠くからも動かせるんだ。自分を少し改造してな」
その言葉を最後に、俺の意識は、闇の中に沈んでいった。




