十二話
「現状の最重要注意人物だ」
男がこたつの上のみかんの皮をむきながら、そう話す。
「三島理恵を殺そうとした。これは非常にまずい」
「なぜだ?」
「三島理恵がいなくなったら、世界が終わるんだよ」
あまりにも突拍子も無い話に、俺は正直言って冗談かと疑ってしまうほどだった。
あの平凡な高校生が、世界単位で重要な人物だと?
「わけがわからないな」
「だろ? だが、あいつはそんだけ異常な存在なんだ。まあ聞け」
男がみかんを丸々口に運ぶ。
「あいつは、この世界初めてのハーフなんだ。人間と、能力者のな」
「……そんなものがあるのか?」
「ない。ありえないんだよ。まず、能力者になった時点で、そいつは二種類のどちらかにわかれる。簡単に言えば、見えるか、見えないか、だ。その差はどうやって決まるかっていうと、その能力が憎しみを持って生まれたか、そうでないか、だ。お前もいるか?」
「貰うよ」
男が投げるみかんを片手でキャッチし、また皮をむきながら男の話を聞く。しかし、果たして話についていけるかどうか……。
「悪の感情を持って生まれた能力者は、まあ見てわかる通りの異形だ。気性も荒いやつが多く、人間に被害を加えるやつらもいる。だから見えない。それを止めるのが、その逆の感情。良の感情を持って生まれたやつらだ。だから見える。見られても人と変わらないから。そう、例えばあいつみたいにな」
言って偽理恵を見る男。だが、そこでふと疑問に思った。
「待て、あいつは可愛くなりたい願望で能力者になったんだろ? それって、どっちかっていうと可愛いやつが妬ましいっていう悪の感情じゃないのか?」
「むぅ。失礼な。私は自分がブスだった自己嫌悪が能力に関係したんです。だから悪じゃないんですよ」
それも悪感情な気がするが……? まあ、細かいことは気にしたら負けなのか……。
「ああいうやつは、他人に危害を加える能力ではないから、常人からも視認ができる。あいつができるのはたかだか見た目を真似するのと記憶をちょっともらう程度だからな」
「それは無害なのか……?」
「無害ですっ」
ふと呟くとすかさず偽理恵が反論してくる。……聞こえてたのか。いい耳してんな。
「話がそれた。まあ、要するに三島理恵はとんでもない爆弾なわけだよ。しかも、運悪く三島自身も能力者だ。自覚はないがな」
「つまり、それがさっきの世界が終わるっていう話に繋がると」
「そうだ。理解が早くて助かる」
まあ、それでも納得できなかったり疑問に思うところは多々あるが、それはいつかでいいだろう。
「三島理恵。あいつの能力は、コントローラーだ」
「……コントローラー?」
俺がオウム返しに疑問を投げかけると、小さくため息を吐いて、男が手元みかんに視線を落とす。
「……あいつは、この世の全ての能力者の能力を操ることができるんだ」
「待て、それはつまり、あいつがその気になれば世界を征服できるってことだろ? それが世界の終わりなのか?」
「早まるな。まだ続きがある」
先ほど理解力を褒められたのに、つい話を遮ってしまった。仕方ないだろう。だって、スケールが大きすぎるのだから。
「確かにあいつがその気になれば、世界征服も、なんだってできるだろう。しかし、それはあいつ自身の親の力でカバーされているから問題はないんだ。問題は、そのコントローラーの中に、能力のオンとオフを切り替えることのできるボタンがある、ということだ」
能力の、オンとオフ……。
「……なあ、一個気になったんだが」
「なんだ」
「能力が無くなったら、能力者はどうなるんだ?」
それは……能力が主となって生まれ変わった俺たちの存在意義を奪うということに他ならない。
「安心しろ。死にはしない。なぜなら、俺たちは普段から能力がオフの状態だからだ」
どういうことだ? と、視線で問いかける。
「俺たちの能力には常時ストッパーが掛かっている。いつまでもオンのままじゃ、燃費が悪いからな。だが、今の俺たちは自分でオンとオフを切り替えることができるんだ。そいつだって、オフの時は返信が解ける」
「唯一の悩みです……」
偽理恵がそう言って苦笑を浮かべる。だが、そうなるとやはりもう一つ疑問が。
「じゃあ、俺みたいな常時オンのやつはどうなる?」
俺はいつも透明だ。きっと、これがオンなのだろう。
「いや、大丈夫だ。それがお前のオフなんだよ。お前の透明化は、本当の能力の副作用にすぎない。俺みたいにな」
言って、男がこたつを――なんの力も加えず、浮かばせた。否、それは見間違えだ。こたつは支えられている。――男の下半身から伸びる、巨大なタコのような触手によって。
「俺は良の感情を持って生まれたはずなんだが、なぜか異形なんだ。だが、このたこ足は俺の能力とは直接の関係がない。俺の本当の能力は、能力者を見つける力だからな」
言い終わると、ゆっくりとたこ足がこたつを下ろし、たこ足はこたつの中にすっぽりと収納されてしまった。
しかし、今の話と、二つ前の見える見えないの話を合わせると……。
「なあ」
「話がまたそれた。続けるぞ」
先に言われてしまったので、また後で聞くことにして、俺は話に耳を傾ける。
「で、三島の持つスイッチっていうのは、少し出力が強すぎてな。オフ状態をさらにオフ。オン状態をさらにオンにしちまう。三島はそれを無意識にコントロールしてるわけだが……それが、もしも三島理恵が死ぬかなんかして、コントロールできなくなったら?」
それはつまり、あの溶解液男で例えるなら、溶解液がさらに強く、逆に、溶解液が無くなる、ということか。
「世界は混沌に包まれる。能力を力のままに乱用する者。逆に、能力を無くし、途方に暮れる者。能力者が世界中にあふれる。そして、俺たち自身も能力者の倒し方を知らない。先ほど良の感情を持って生まれた能力者は悪の感情の能力者を止めると言ったが、倒すことはできないんだ。……そこで、君だ」
「俺?」
急に話を振られ、動揺する。
「君は君自身の能力に気がついていないようだから、今教えよう。君の持つ能力は――死神。この世界で唯一、悪感情の能力者を倒すことのできる能力なんだよ」




