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透明ヒーロー  作者: 今野 春
11/22

十一話

「ただいまー」

「おー、おかえり。……新入りか」


それはよくホームレスがいるような橋の下……ではなく、ボロいアパートの一室。黄ばんだプラスチックのインターホンと薄いドアをくぐれば、狭く短い廊下の向こうから声がした。


「お邪魔します」

「はいよ、いらっしゃい」


偽理恵に続いてリビングに入ると、その真ん中で、真夏に似合わないこたつで寝転がる1人の男がいた。


「ま、適当にすわんな」

「あ、はい」


促されるがままに、こたつの毛布に手をかけーー


「馬鹿野郎! こたつに触んじゃねぇ!」

「は、はいっ!」


なんか怒鳴られた。反射的に毛布を離すと、一瞬ちらりと中が見えてしまった。


そう、こたつの中に蠢く黒い影が……。


「ったく。これだから新入りは……」


ぶつぶつと言いながら、男はテレビのリモコンを手に取って番組を物色する。


……さて、まったく現状が見えてこないんだが。


しかも、偽理恵は「みんなのところ」と言っておきながら、部屋にはこの謎の男一人と俺たち二人しかいないんだが。


「えーと、どうする? この人」

「この人ってなんだ」

「だから、この透明人間の人」

「さあな」

「えぇ……」


……帰ろうかな。猛烈に三島理恵に癒されたい気持ちだ。


しかし、この部屋の雰囲気はそれを許そうとしない。


「三島理恵に惹かれた人」

「……そりゃ一大事だ」


偽理恵の一言が、男の目の色を変えた。


「おい透明人間。お前、襲う側か? 守る側か?」


わけのわからない質問だが、答え以外の発言を認めないかのような視線が突き刺さる。


「……一応、三島理恵を襲おうとした溶解液の男を撃退したことはある」

「なるほど、よし、わかった」


男がモゾモゾとこたつの中に潜り、何かをしている。かと思ったら入った方とは反対側から顔を出した。


「受け取れ」

「ちょ、ちょっと待て!」


話が進みすぎてわけがわからない。たまらず俺は待ったをかける。漫画やアニメで、こんなセリフを言うキャラの心情をしみじみと実感した。


「話はあとだ」


ありきたりなセリフをありきたりなセリフで返された俺は、諦めて一冊のノートを受け取る。


その題名はこうだ。


『東京都能力者図鑑』


「そこから、お前が撃退したっつーやつを探し出せ」

「……いい人だったぞ?」

「害を加えるならただの化け物だよ。……まあ、俺達もとっくの昔に人じゃないが」


言って、くつくつと自分で笑う。しかし、なんだかとんでもないことに巻き込まれてしまった気がするな。そもそも透明人間になった時点でわかってはいたが。


俺はパラパラとキャンパスのノートをめくる。そこには写真、能力がずらりと並べて載っていた。


見るからに異形な者から、普通に見えても恐ろしい能力を持っている者までいて、思わずずっと見ていたくなってしまうが、どうも先ほどから男の視線がすごい。あとで見よう。


と、そこで見つけた。


「これだ」

「やっぱりか」


『怪人 溶解男』


そこに、あの男の姿があった。 

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