十一話
「ただいまー」
「おー、おかえり。……新入りか」
それはよくホームレスがいるような橋の下……ではなく、ボロいアパートの一室。黄ばんだプラスチックのインターホンと薄いドアをくぐれば、狭く短い廊下の向こうから声がした。
「お邪魔します」
「はいよ、いらっしゃい」
偽理恵に続いてリビングに入ると、その真ん中で、真夏に似合わないこたつで寝転がる1人の男がいた。
「ま、適当にすわんな」
「あ、はい」
促されるがままに、こたつの毛布に手をかけーー
「馬鹿野郎! こたつに触んじゃねぇ!」
「は、はいっ!」
なんか怒鳴られた。反射的に毛布を離すと、一瞬ちらりと中が見えてしまった。
そう、こたつの中に蠢く黒い影が……。
「ったく。これだから新入りは……」
ぶつぶつと言いながら、男はテレビのリモコンを手に取って番組を物色する。
……さて、まったく現状が見えてこないんだが。
しかも、偽理恵は「みんなのところ」と言っておきながら、部屋にはこの謎の男一人と俺たち二人しかいないんだが。
「えーと、どうする? この人」
「この人ってなんだ」
「だから、この透明人間の人」
「さあな」
「えぇ……」
……帰ろうかな。猛烈に三島理恵に癒されたい気持ちだ。
しかし、この部屋の雰囲気はそれを許そうとしない。
「三島理恵に惹かれた人」
「……そりゃ一大事だ」
偽理恵の一言が、男の目の色を変えた。
「おい透明人間。お前、襲う側か? 守る側か?」
わけのわからない質問だが、答え以外の発言を認めないかのような視線が突き刺さる。
「……一応、三島理恵を襲おうとした溶解液の男を撃退したことはある」
「なるほど、よし、わかった」
男がモゾモゾとこたつの中に潜り、何かをしている。かと思ったら入った方とは反対側から顔を出した。
「受け取れ」
「ちょ、ちょっと待て!」
話が進みすぎてわけがわからない。たまらず俺は待ったをかける。漫画やアニメで、こんなセリフを言うキャラの心情をしみじみと実感した。
「話はあとだ」
ありきたりなセリフをありきたりなセリフで返された俺は、諦めて一冊のノートを受け取る。
その題名はこうだ。
『東京都能力者図鑑』
「そこから、お前が撃退したっつーやつを探し出せ」
「……いい人だったぞ?」
「害を加えるならただの化け物だよ。……まあ、俺達もとっくの昔に人じゃないが」
言って、くつくつと自分で笑う。しかし、なんだかとんでもないことに巻き込まれてしまった気がするな。そもそも透明人間になった時点でわかってはいたが。
俺はパラパラとキャンパスのノートをめくる。そこには写真、能力がずらりと並べて載っていた。
見るからに異形な者から、普通に見えても恐ろしい能力を持っている者までいて、思わずずっと見ていたくなってしまうが、どうも先ほどから男の視線がすごい。あとで見よう。
と、そこで見つけた。
「これだ」
「やっぱりか」
『怪人 溶解男』
そこに、あの男の姿があった。




