十話
「うぅ……見つかってしまいました……」
ちょこんと俺の前で正座をしているドッペルゲンガーは、そう言ってうつむいている。なんか俺が悪いことをしたみたいだが俺は何もしていない。
「……なあ、変なこと聞いてもいいか? 俺のこと、どう見える?」
唐突な質問に、少し驚く様子の偽理恵は、だが首をかしげてこう答えた。
「なんか、自分でもよくわかんないんですけど、もわわ~んって」
「もわわ~ん?」
「はい。なんか、気配が見える、みたいな」
気配が見える……なるほど、なんとなくそれっぽい想像はできた。見てるけど、見てない。めっちゃ集中してるときの数学みたいなもんか。式を視界の端にとらえながら答えを書くのに集中する、みたいな。
自分で勝手に納得していると、今度は偽理恵が口を開く。
「あのー、なんで私がドッペルゲンガーだと? ……というかそもそもなぜ三島理恵の部屋に?! あれ、待って、あなた不審者?!」
「不審者とも言えるが生憎と透明人間なんだ。証拠不十分で起訴はされない。そもそも見つからない」
「うわぁ、なんかヤバい人来たなぁ……」
完全に引いている。まあ、自分も慣れるまでに時間かかったしね。慣れちゃだめだろうけど。
「能力は有効利用しないとなぁ?」
「やめてくださいよ」
「お前みたいに」
「……」
俺がそう皮肉交じりに言うと、返す言葉がないのか偽理恵は顔を背かせる。
「……別に、有効利用というわけじゃ」
「んじゃ、どうしたんだ」
何気なしに尋ねると、ちらりとこちらを見た偽理恵が、ぼそりと言った。
「……から」
「ん?」
「前世が目も当てられないぐらいのブスだったんだから、可愛い子の真似したいでしょ?!」
おおう。想像以上に、てか俺と同じぐらい欲望に忠実ではないか……。
まあ、わからんでもないが。見た目のコンプレックスというのは、持ってない人間にとっては理解し難いが、その本人にとっては辛いものなのだ。自分に自信が持てなくなる。
「そしたら……いつの間にかこうなってた」
「待て、もしかして、そうなる前の記憶を持っているのか?」
「うん。持ってるよ。全部。ないの?」
「そうなんだよ……」
しかし、そうか。記憶があるのか。そういえば前の溶解液男も持ってるような発言をしていたな。なぜ俺だけ持っていない……。
「思い出したいな、とは思う」
「でも、もしかしたら無いままの方がいい記憶かもしれないよ?」
「と、いうと?」
食い気味に尋ねると、「もしかしたらだけど」と前置きを入れて説明してくれる。
「あなた、透明人間でしょ? 消えたい願望とか、死にたい願望とか、とにかく人から離れたいっていう気持ちがあって、そのせいで誰からも見えなくなってるかもよ?」
……なるほど。確かに一理ある。というかこの偽理恵、頭の回転がすごいな。俺ならそこまで考えられんぞ。
「だが、もしかしたら単純に透明人間になって女子の着替え覗きたいだけだったかも……」
「それは最低過ぎるでしょ!」
いや、でも男子なんてなぁ? そんなもんだよなぁ? 気になるあの子の全てを知りたい! とか普通じゃない? 普通じゃ無いわ。
「まあでも……たぶん、理由はあっても、こうなったのは偶然なんだから、第二の人生と思って適当に生きよう」
「雑なまとめ方だなぁ。ま、嫌いじゃ無いけど?」
「変なキャラ入れなくていいよ……」
苦笑いに思わず自分も引きつった笑いをしてしまう。多分前の俺もギャグにはめっぽう弱かったのではないかと思う。悲しい。
と、階段の方から足音。
「あ、やばっ」
偽理恵が、がらりと窓を開ける。
「逃げるよ!」
「え? あ、そうだな」
焦るような偽理恵に促され、俺も窓へ駆け寄る。
「だけど、窓は……」
「本物の私ならどうせ閉め忘れたかなぁぐらいにしか思わないから大丈夫!」
なんだその本物への自身は。というかそれでいいのか偽物よ。
とは思うが口には出さないでおく。そして、偽理恵とともに窓から飛び降りる。
「うっ、おおぉぉ……」
謎におっさんみたいな声をあげる偽理恵の隣で軽やかに文字通り音なく着地し、俺は呟く。
「さぁて、こっからどうするかなぁ」
なんか、話が進む気がしない。ここで行き止まりか。まあ理恵を眺める毎日も悪くは無いからいいが……。
「それなら、わたしにいい案があるけど」
そういって偽理恵が俺の方を見る。
「みんながいるとこ、連れてってあげるよ」




