プロローグ
「...んっ..やぁっ...!」
甲高くてか細い声が薄暗い部屋に響く。彼の機嫌を取るための作った声じゃなくて、奥の方から耐えきれなくて漏れ出す本当のあたしの声。
やば...意識ぶっ飛びそう...
でもまだ...まだイキたくない...もっと奥までー。
「じゃ、今日の練習始めます!お願いします!」
「なこぉ〜、今日のメニュー聞いたぁ???」
「聞いたよ、300+200+100の3セットでしょ。」
集合の後、藍夏がメニューに関して何かしらあたしに愚痴ってくるのはもうルーティンと化してる気がする。
「ほんと信じらんな〜い!! 合宿明けだよぉ!? もっと強度落としてもよくなぁい?」
「そんなこと言ったって、もうすぐ冬季も終わるし、来週からは種目練も入るんだから仕方ないよ。今追い込まなきゃ」
「むぅー...相変わらず菜呼はしけてるなぁー。」
「はいはい、良いからアップ行くよ」
地元の国立大学に入って約1年。あたしは中学の頃から続けてた陸上を大学でもまだ続けてる。大学に来たのは勉強したいからで、陸上を続ける気なんか、最初はサラサラなかった。陸上でトップを取りたいなら地元を離れて私立の強豪に行くし、そもそも大学生になってまで部活に縛られて生活したくなかった。何を間違えたか、今はこんなことになってるけど、あたしが部活に入ったのには色々と訳がある...
「私もハードルブロックに行きたいよぉ〜っ、菜呼ばっかり羨ましい!!!」
1日3回は言ってる気がするこのセリフ、、藍夏がハードルブロックを羨ましがるのも無理はないんだけど。
だってこのブロックには...
「菜呼、今日の200Hのレスト12分でいけるか?」
「!!!!...いっ、いけます!!」
「おっけ!んじゃ、20分からだから流しまで入れとけよ!」
「、、、相変わらず鬼イケメンだよね、快さん、、」
そう、このブロックには私が陸上部に入ったキッカケとも言える先輩がいる...。