「かりすま☆がーど!!!」
………勿体ない。
とりあえず、具合は良くなったはず。
パニクってカード一枚壊してようやく冷静になれた。いつも思考は止めないようにしてるのに、目の前で人が倒れたらこの様だよ。……ごめん。
あと、カード、君の犠牲はきっと忘れる。ごめんね?
顔色も…うん、いつも通り。
良かったぁ…あ、安心したら力抜けた…。
美優は家の中に運び込んで寝かせた方が良いかも。ベッドなんて無いけど。
担架がいるな。担架、担架…棒と布が必要か。
もういっそのこと足と脇の下を二人で抱えて持ってけば良いんじゃないかな?
「私が運ぶから、家のドアを開けてくれる?」
ああ、怪力か!
こういう所でも役に立つんだね、それ。
日常生活では逆に物とか壊しそうだけど。力加減できてるのかな。
姫香がささっとドアを開ける。
行動早いね、わたしゃついて行けないよ。
仕方ない、恭子が美優を担ごうとするのを補助しよう。
あー、落ちる落ちる…危ない。
え、そっち?お姫様抱っこ?
確かにそっちの方が安定はするだろうけど。
絵面が……いや、何でも無いっす。
そういうのって、主人公がヒロインをお姫様抱っこしてヒロインが赤面するっていう、よくある好感度上げイベントだよね。
で、そこからヒロインが主人公のことを意識し始めるとか、なんちゃらかんちゃら。
でもきっと乙女心に気付かない鈍感系主人公なんだろうね。
そういう人が複数人の女の子、しかも大概美少女、美女とかを惚れさせるとか、無理だろ。
鈍感なのに。あと都合の良い難聴。
鈍感なのに女の子のして欲しいことを的確についてくるっていう。
はっ!(嘲笑)
そこまでしてあげられるなら、恋心にも気付いてやれ。
そんな奴に惚れた女の子が可哀想だろ。
あと、ハーレムが美少女、美女のみで苛つく。
平凡な顔の子は主人公に惚れてはいけないと?
大体モブが主人公に「好きですっ!」って言う時って、噛ませ犬だったりするし。
モブ顔はハーレムに居ちゃいけないのかい?
そもそも、主人公はハーレムと認識してないんだから選り好みせずにモブ顔も入れろよ。
美少女美女ばかりの方が男性読者に受けるのは分かってるけど!
モブをもう少し大切にしろよ作者ァ!
以上、モブからの意見でした。
あー、でも学校内でモブな立場の子が人気のイケメンに告白すると虐められるって良くあるよね。
ドラマとかで。
実際はよく知らない。
ドラマさながらの展開がされているのだろうか?
うーむ…関わりが無い子は把握してないし、噂話で聞くしか無い。
そしてその噂話も滅多にしないから情報が入ってこない。
つまり、知りようが無いって事だね。
大きな事件があったら流石に耳に入るだろうし、まあ基本関わらないかなー。
っと、寝室についたか。
「寝室はここね。…意外と狭い…」
「二段ベッド×2の予定なんだからこれで充分だよ」
「まあ、フェイクだから充分よね。」
そう、この地上部分はフェイク。
本体は地下の部分なのだ!
…なんか、擬態みたい。
ピクミ〇2でそんな感じの動植物がいたな。
地上に出てるのが草で、下に動物っぽい部分が隠れてた、ような気がする。
あと、蜘蛛が主人公の某ラノベで、地上の花の部分は擬態なのでいくら食べられても再生するとかそんな話があった。
……例えがマイナーすぎる!
え、これ姫香に言っても分かんない奴だぞこれ。
分かる奴いるのか?
うむむ。
ところで恭子さんや、床に下ろさないのかい?
「床に直接寝かせるのも…」
ん?あー、確かに。固いから寝にくいよね。
じゃあ、『軟化』?
床を柔らかくすれば寝やすいんじゃない?
柔らかくなーれ。柔らかくなーれ。
…んー、こんな物かなぁ?
「出来たよー」
「ありがとう、助かったわ」
ふふん。
ドヤァ!
…あれっ?何か、凄く微笑ましい物を見る目をされてるぞ?
私か?私を見てるのか?
くそぅ、身長の差が!恭子にとって私は妹扱いか!
日和 150㎝
恭子 173㎝
姫香 158㎝
美優 162㎝
数値にするとたいしたこと無さそうだけど、実際見てみると絶望的な身長の差が!
これでも縮まった方なのに!
一時期30㎝とか差があったんだからね!
…うー。
…うー☆
「かりすま☆がーど!!!」
「!?」
何か急に叫びたくなったから叫んでみた。
ふー、すっきりしたー。
ついでに身長云々の問題も吹き飛んだ気がする。
妹なら妹で姉に甘えて楽をするだけだしー。
これぞ開き直りの術。
あ、今かりすまがーどやってるんだった。
…おおぅ、その冷たさはブリザードですか?コキュートスですか?
さっきまでの温かい視線は何処に行った!
「…何それ」
「何でも防げる最強の防御姿勢だ!」
「………」
めっちゃ冷たい目で見られた。
冬の雪の日に一時間くらい外で雪触ってたときの手先くらい冷たい目だ。
いーじゃん、発作的にやりたくなったんだよ。
叫べっていう電波を受信したんだよ。
んー? 何か、思いつきそうな…。
あっ。
結界張ろう。
さっきの話とは全く脈絡が無いし、自分でもどういう過程でその考えに至ったのか全く分かんないけど。
異世界は危ないからね! って言ってたの誰だよ!
私だよ!
自分で言ったくせに危険への対策し忘れるとか、阿呆すぎて落ち込む。
拠点には結界を張るのがラノベの常識でしょうがッ! 私の馬鹿!
というわけで、ちょっと結界張ってくる。
「ちょっと結界張ってくるー」
ちょっとコンビニ行ってくるー、と同じリズムで告げて歩き出す。
靴を履いて玄関のドアを開けたら姫香がいた。
あー、そういえば家の中には入ってきてなかったような。美優に集中してたから意識がそこまで回らなかった。
ところで、何をしているんだい?
周りの草が根こそぎ行方知れずなんだが。
すごく気になる…と思いつつ、まずは不可視の結界を張る。強度は…よく分からんけど最高で。
というか、これって「結界を張る」って言ってるけど、正しくは「結界が張られているという事象を付与する」なんだろうな。
長いし面倒くさいな、正式な言い方。
せーの、えいっ。
うん、多分張られている。
付与されてますよーって感じがするから間違いないだろう。
…付与されてますよーって感じがするの! どんなって言われても、何だろ、勘?
悪くなった体調は瞬時に治して姫香の方に話しかける。
そういえば、これって家の外に出る必要はあんましなかったな。家の中で良かったのにわざわざ靴を履いた意味とは。
「何してるの?」
「畑を作っているんです! …畑って、草抜いたらどうすれば良いのでしょう?」
…ふつーに耕して肥料まいて種まいて水やりとかすれば良いと思います。
「まずは耕せばー?」
「………耕す、とはどうすれば?」
「……おぉぅ…そこからか…」
えー、でも私もそこまで知ってるわけじゃないよ。米は泥をかき混ぜれば良いのは知ってるし、土を混ぜれば良いのかな?
んー。
親戚が農家だから見たことはあるんだけど詳しくは知らない。
畑の隣でひたすら嫌がらせのように道の真ん中に落とし穴作ってた思い出ならある。
どうやって穴を隠すのか知らなかったから、中に泥を詰めて上に土をまぶせたんだよねー。
突っ込んだ人はもれなく靴が泥だらけになります。
懐かしいけど、今思うと結構酷いことしてたなー。
あ、あの盛り上がってる奴の名前ど忘れした。
えーっと。
ほら、種を植えるとこ…あ、畝だ。
耕して、畝作って、種をまく。
肥料は分かんないけど多分どうにかなるさ。
コンパニオンプランツとかは調べなくちゃ分からない。そもそも、ここで何を植えるというのか。
地球の野菜?それとも異世界の野菜?
地球の野菜は環境に適合してないかもしれないから却下。適合しすぎてても困るし。
適合しすぎた外来種って生態系破壊していくから持ち込まないに限る。
うーむ、それじゃあ異世界の種を植える事になるのか?そんなもの無いんだけど。
鑑定持ち来て。食べられる奴とか、薬草とか探してくれよー。
せめてどれが毒性ではないかくらいは教えて欲しい。
「も、申し訳ありません…」
「いや、私も詳しくは知らな…ん?」
例えば、毒のある野菜があったとして。
私が収穫時に、毒素が飛ぶように付与をかける。
すると、毒の抜けた野菜が出来るんじゃ?
いや、やる気は無いけど。
だって死にたくないし、わざわざ死の危険を冒してまで実験はちょっと。
「ん、んー。その内、種を手に入れようか。」
「…そうですね。異世界の町に行けば手に入るでしょう。お金は…ラノベでは何とかなっていましたし」
「なんか、お金になりそうな物持ってくか」
結局、異世界の町で種を手に入れることにした。
一番無難そうだし楽そうだし。
必要なのはお金になりそうな物。うーん、何それ?
ラノベとかでは、魔物とかを倒して売ってたけど。
私、平和ボケした日本人だよ。しかもモブだよ。
日本人は大概HENNTAIだが戦闘能力は無いんだよな。
だがしかし、一つのことを極めることに関してはHENNTAIだと思っている。
注意、個人の考えです。
でも日本人って大昔からそんな感じだよ、きっと。国民性ってそんな簡単に変わる物じゃないし。
まあ、かく言う私も一般人。つまりモブだし戦闘能力など無いわけですよ。そしてラノベ極めたい。どうやって極めるのか、どうしたら極めたことになるのかは不明だけど。
ただの引きこもり予備軍な本好きオタクです。
魔物倒すとか…無理無理。天なんて味方に付けてない。
魔物を倒すって言う案は却下!
適当な草かなんか持ってけば薬草あるんじゃない?
くそう、鑑定持ちは何処だー。
鑑定チートをするなら今だろ!
「鑑定持ちが欲しいですね…」
なんで鑑定持ちいないんだろう。
チートしろよ。無双しろよ。
あー、食べ物どうしよう。
火は魔法で何とかするさ…。
多分恭子が近くにいると出来ないけど。魔法無効のせいで。
あれかな、電子機器に影響与える雷みたい。
でも今日はご飯食べないし、さっさと帰ろう。
いや、これから先もご飯食べる予定なんて無いけど。
自分で作るくらいなら、家帰って食べるし。
異世界と日本じゃ、時間軸が違うっていうなら別だけど。
それなら何日も異世界に…あ、駄目だ。余計に年取る可能性大だから却下。
あー、そうだそういう可能性もあるのか。
じゃあ、外見固定とかの付与をすれば良いのかな?
むしろ、単なる時間固定の方が良いかも。
それだと肉体的には全く成長しなくなるけど。
精神的には…どうなんだろ。生物学の範囲になってくるな。脳細胞の成長が云々って奴。
まあそこら辺は考えておこう。
「それはそうとして、美優さんの目が覚めたら、話し合いをしませんか」
「いいよー」
異世界会議?円卓が欲しいな。
話し合いって何すんだろう。
あ、畑に何を植えるか、かな?
よし、考えておこう。
異世界って何か、食べ物に付加価値ありそうだよね。筋力増強とか。魔力増加とか。
そういう作物育てて実験したいな。
なんでそうなるのかが激しく気になる。
鑑定持ち、加わらないかな…。
…何の絵を描こうかなー。
好きなキャラとか、オリキャラはもう一通り描いちゃったし…暇だ。
「美優の目が覚めたわよ。」
グッドタイミング。
さて、早速様子を見に行こう。
まだ体調が悪いようなら、体調回復してあげなければ!
あ、今キュアするって単語が生まれた。
サ変の単語ですな。
「美優、大丈夫?」
「…うん」
…どうしたんだろう?
何か、暗い顔してるし。
よし、ここは聞いてみよう。
気になることは聞いてみるのが一番である。
だがしかし、時と場合によっては聞いちゃいけないこともあるので気を付けなければいけない!
この場合は…うん、聞いてみてから考えようか。
「美優、辛くない範囲で良いから、何が当たったのか教えてくれる?」
「うん…」
あ、背中をサスサスしてあげた方が良いかな?
ところで、私、時々摩る時の擬音語をサスサスって言うんだけど、変?
多分普通はなでなで、とかなんだろうね。
別にサスサスで困ることは無いけど。
「えっとね、私、能力を使うたびに気分が一瞬悪くなるんだけど」
「あ、私も気分悪くなるから、分かるわー。」
「マジで?辛いよね。でも、今回は使った途端に激痛がして…死ぬかと思った。」
「そんなに?ごめんね、そこまで負担だとは思わなかったんだ。」
「大丈夫…」
「…あっ」
「?」
この負担を和らげるという効果を付けたカード、作ろうかな。和らげるというか、肩代わり?多分、発動した時点では壊れないはず。能力を使って、肩代わりという効果が出て、肩代わりして負荷を受けたときに壊れる…ようにしたい。
でも、それじゃあ、紙だと強度が不安だ。
金属の類いとかならもう少し耐えられそうだよね。
異世界の金属と言えば、ミスリルやオリハルコン!アダマンタイト!
だがしかし、それらはめっちゃ高いので買えそうにない。
そりゃ、ただでさえ希少なのにあり得ないくらい固いし綺麗となれば金持ちはこぞって買うね。
そして更に流通量は減っていくという。
…ヒロインに頼めば、買ってきてくれるんだろうか。
主人公はフツーにこういうの入手してくるからな。
むしろ生成できるんじゃね…もしも本人が使いたくないというなら別だけど。
チラッ。
ところであの人達何してんだろ。
部屋に入ってこないんだけど。
あれ…これは、まさか…美優の面倒任された?
おい待て。
一人にすんなよ。なだめすかすのは苦手なんだけど。
私が前に深く悩んだ事なんて、高校生になってからは無いからね。
「人生楽しければそれで良い」って考えに目覚めたんだよ。
だからなだめ方なんて覚えてないし。
あー、うー…。
と、とりあえず何とかしよう。
何とか。
出来るよきっと…多分。