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六章

「パルクス……」


 か細い声で語りかける。

 パルクスは膝の上からあたしを見上げている。

「あたし、クラスの人たちにいじめられてるみたいなの……」


 喉の奥が酸っぱく感じる。

「どうしてなのかな……」


 話していると少しずつ心の奥の方から悲しみが漏れてきそう。

「あたし、何か悪い事したのかな。あんなことをされるほどのことをした覚えはなんだけど……なの、に……」


 息が詰まる。溢れだす涙が止まらない。

「どうしていじめられなきゃならないの……嫌だよぉ……」


 パルクスは何も答えない。

「……パルクス?」

 何も答えないのが気になった。常に元気に走り回るパルクスが、今日に限ってじっと黙ってあたしを見つめている。

 その表情は、真剣だった。


 このコにもだって表情があり、自分にだってそれは全く見当がつかない訳ではない。

 だからパルクスが何を考え、どうしたいのか分かる時もある。それでも今日のパルクスは変だった。自分自身のことのようにあたしの話を聞いている。明らかに意思を持って、真剣に聞くべきこととしてあたしの話を聞いている。


 やがて、変化が現れた。

 ウサギのような大きな黒い目がだんだんと深く、優しい藍色になっていく。


 ――なんだろう、この目……。


 その目を見ていると、心が凪いで妙に安心する。

 ささくれ立った気持ちが徐々に丸くなっていく。荒れ狂う感情が落ち着きを取り戻し、わずかではあるが元気が出た気がする。

 パルクスの前歯の一部が前触れもなくぽろり、と取れた。

 慌てて拾い上げようとすると、手に染み込むようにして消えていった。


「え、え?」


 気のせいだったのだろうか……と思った。度を越した不思議な体験は目の前で起こっても受け入れられなかった。それに何より、パルクスの藍色の目の方が気になった。

 安心する。そして確信する。


「ありがとう、パルクス」


 この藍色の目は、あたしを安心させるためにしてくれている。

 もう、怖れるものはない。




 世話をかけてくれる。

 手伝ってはあげるけど、ほんの少しだけだ。


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