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三章

 中学校に上がって数か月が経った頃、異変が起きた。どうも、いじめられているらしい。らしいというのは、パルクスのことばかりで頭が一杯だったので、正直気付かなかったのだ。

 あたしは小学校の頃から授業が終わるとパルクスと遊ぶために家に真っすぐ帰っていたんだけど、それだとどうしても付き合いが悪くなってしまう。それが気に喰わない人がいたようだ。


 時々上履きが鋏でボロボロにされていたり、お弁当が隠されていたりしていた。自分がいじめられているなんてことは考えもしていなかったから、大して何も感じなかった。傷つけられた上靴を見てもこんなになるまで激しく走ったかなぁ、なんて思っただけだったし、お弁当についても確かに鞄の中に入れておいたのに、としか思わなかった。


 はっきりいじめられていると気づいたのは、なんとも鈍感なことだが、クラスのリーダー格の女の子、宇野加奈に直接言われた時だった。付き合いが悪くていじめられ始めたのに、いじめに対する反応が悪過ぎてまたいじめられるらしい。

 ある日の放課後、あたしは人気のない校舎裏に連れて行かれ、取り巻きに囲まれたままその女の子と対峙することになった。


「宮本さぁ、人を不快にさせてる自覚あんの?」


 苛立ちを隠そうともしない口調。不快にさせてるなんて言われても、何かまずい事をした覚えがないあたしには、どうすることもできない。


「えっと……何のこと? どうしたの?」


 心当たりを探しながら、当たり障りのないように、穏便に原因を探る。どこに地雷があるのか見当もつかない。


「あたしらが声かけてやってんのにシカトして、それからもあたしらがいないみたいに振る舞ってるじゃん。バカにしてるんだよね?」


 胸倉を掴まれた。あたしを睨む怖い顔が目の前にある。足が震え、なんだか気持ちがふわふわして落ち着かない。歯の根も合わなくなってきた。


「ムカつくの。言ってること分かるよね?」


 息が止まり、心が凍りつくのを感じた。

 面と向かって、ここまで直截的に悪意ある言葉を投げかけられたことはなかった。何がこの子にこうさせるのか、あたしには理解できなかった。


 納得のいく理由も合理的な理屈もない言葉だったろうに、あたしはまるで自分が世界一悪い人間になったようで、「学校来ないでよ。あんたの顔見たくない」この子が言っていることが、何よりも正しく思えて、「人に迷惑かけないで。邪魔なの」自分が許されるには何をすればいいのかも分からず、「あんたがいると、イラつく」ただただ、茫然と俯いて立ち尽くすしかなかった。


『ムカつく』


 悪意ある言葉には、力があった。



 いじめが発生した。「あたし」には関係ない出来事だが、激しくなるようなら出張る必要が出てくるかもしれない。


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