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二章

 パルクスと一番心置きなく遊べるのは、午前中で授業が終わる土曜日。お昼に家に帰ってくると、お母さんもお父さんも出かけてることが多いから、あたしの他には誰もいない。友達と遊ぶ約束をしていなければ、そういう日は、お母さんかお父さんのどっちかが帰ってくるまでずっとあたしの部屋でパルクスと遊ぶ。


「パルクス、おいで!」


 自分の手を差し出す。言っていることが分かるのだろう、さっと前足をかけたパルクスは、軽やかな動きであたしの腕を駆け上がった。まるで新体操のボールみたいに、重力を感じさせない動きで滑らかに体の表面を転がっていく。右腕から肩、首の後ろ、そこからさらに左腕へと。手首に到達したところでスナップを利かせるとパルクスもそれに応じて宙に向かって舞い上がる。くるくると前転して飛ぶパルクスの正面に人差し指を伸ばしてあげると、細くて長い尻尾が蛇みたいに巻きついてブランコの要領でまた高く飛んでいく。最後は揃えたあたしの両手にすぽっと着地!


「やったやった! あはは! やったね、パルクス!」


 前から教えていた芸が上手くいき、思わず声が上がる。当のパルクスはブランコの時のぐるぐるで目を回したらしく、ふらふら気味だ。ネコに似てるといっても、その辺りはあまり強くないみたい。ちょっと心配になったけど、頭をぶるっと振るとすぐ元に戻った。きゅぅきゅぅと楽しそうに鳴きながら、あたしの首元に頭を擦りつけてくる。視界の隅では尻尾が楽しそうに踊っていた。


 上手くいったご褒美に喉を撫でてやると、目を細めて気持ち良さそうに「きゅ~……」って鳴いた。そしたら、せがむようにもっともっとって頭を擦りつけてくる。パルクスの細められた目は心地の良さを伝えているようで、あたしも嬉しかった。

 手の平からパルクスを降ろすと、


「ね、パルクス。今度はボール遊びしよっか」


 ポケットからゴムボールを取り出す。ボールを使って遊ぶのは初めて。犬なら投げたボールを取ってくるっていうのはよくあるけど、パルクスは見た目がウサギっぽいからそういう遊びは全然思いつかなかった。パルクス、どっちかっていうと性格はネコに近いから、気に入ってくれるかは不安なところ。

 と、思ったら。


「きゅ。ぅ」


 パルクスが止まっちゃった。


「どうしたの!? パルクス!?」


 あんまりにも突然止まってしまい、あたしは軽くパニックになってしまった。ぴくりとも動かないから触っていいのかも分からないし、とにかく焦る。


 どうしようどうしよう。

 あわわわ、と固まったパルクスの前でひとしきり慌てていると、唐突にあることを思い出した。


「……って、ああ……」


 何度経験しても慣れない。

 これはつまり、生き物ならみんながする、生理現象を催した時のパルクスの反応。

 つまるところ、うんちだった。


 固まったパルクスを出来るだけ刺激しないよう、ゆっくりと慎重にトイレに抱えていく。全く動かないのはきっと、下手に動くととんでもない事になるからだろう。本当になるかどうかは分からないけど、さすがに試す気にはなれない。


 便器の上にパルクスを連れてきて右足を叩いて合図を送る。電源が入ったように一回ブルッと震えたあと、トイレの水に物が落ちた音がした。もう大丈夫だ。


 適当な長さのトイレットペーパーを手に取ってお尻を拭いてあげる。なんとも気持ち良さそうな顔。すっきりする気持ちはこの謎生物も一緒らしい。

「よしっ」


 紙を丸めて水に流す。ちなみにトイレの躾はだいぶ前に諦めた。さっきみたいにいつ来るか分からないし、備え付けのトイレを作るとそれはそれでお母さんたちに怪しまれちゃう。パルクスの面倒をみる自信はあるから、きっと大丈夫。



 ボール遊びはやめて欲しい。あれに関してはどうすることもできない。好きとか嫌いという話ではなく、「あたし」には出来ることと出来ないことがあるのだ。今回は何とかなったが、次に同じことがあれば、見ているしかないだろう。

 トイレに関しては何もしないでも問題ないから楽でいい。時々不審に思うこともあるが、基本的に向こうが勝手に処理してくれる。「あたし」がやるべきことはない。


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