No.2 冒険者になる
ヒロインず登場はもう少し先です!
修正:この回を二つにわけました。
車に乗ってから2時間が経とうとしていた。休憩はしていない。もうすぐ塔がある札幌だ。北海道での移動はかなり時間が掛かるため、車酔いする人には辛いのだ。隣で勇気が死にそうになっている。
「もうすぐだ。」
どうやらこの車は塔に向かっているようだ。塔の周辺は瓦礫の山と化している。塔がでかいのでこの車が塔に向かっている事はすぐに気付いた。
しばらくすると塔の近くに簡易的な建物があるのに気付いた。工事現場とかでよく見るあれだ。
「あそこが目的地だ」
なるほど、あそこがギルドなのか。何かしょぼi…
「今はあんな建物だが、すぐに新しいのが建つだろう」
俺の心を読んだかのように西村が言う。ちょっとドキッとした。
そうこうしているうちに車が止まり、ギルドについた。
俺たちは車から降り、ギルドへ向かう。
勇気は……朝ごはんが口から出ている。
「ようこそ、ギルドへ。改めて、私がギルドマスターの西村悠希だ」
ギルドマスターだったのか。ギルドマスター自ら俺たちを呼びに来るとは何というか、無防備だな。
「あぁ!悠希…じゃない!ギルドマスター!何してたんですか!」
「あぁ、萌奈か。すまないな、二人を呼びに行っていた。」
萌奈と呼ばれた女性は驚いたようにこちらを見ている。
「え、えぇ!?それは他の者がやるのでマスターは待っていてくださいと伝えたはずですよ!?」
「待ちきれなくてな。すまない。」
萌奈と呼ばれた女性は頭を抱えていたが、いきなりバッと顔を上げるとこちらに向かって微笑んだ。
「初めまして、伊藤萌奈です。よろしくお願いしますね!」
萌奈と呼ばれた女性、改め、伊藤さんは背が低く、笑顔が素敵だ。勇気の目がハートになっている。
だが俺は聞き逃さなかったぞ。伊藤さんが西村を…西村さんを名前で呼んだことを。この二人何かあるな!
「は、初めまして!お、おお、大谷勇気と申しますっ!」
「初めまして、坂本優人です。」
「はい、存じております。では案内をするので付いてきてください。」
そう言って伊藤さんはギルドの中へ入っていった。
俺たちもそれに続く。中は意外と物が多く、仕事の量を物語っていた。職員は全部で20人もいないだろう。
その職場を通り過ぎ、俺たちはギルドマスターである西村さんの部屋へ案内された。
「まず、最初に確認させてもらうが君たちが触れたという石は本当に黒くて大きい石だったのか?」
いきなり本題だな。だがまあ無駄な時間が省けるならそれに越したことは無い。
「はい、黒くてバスケットボールより少し大きいサイズでしたよ。あと喋りました。」
それを聞いた西村さんがフラッとなるが持ちこたえたようだ。
「そ、その石は今どこに…?」
伊藤さんが恐る恐ると言った感じで聞いてくる。
さて、どう答えたものか…。
「ぼっ、僕達の中でありますっ!!」
やってくれたな勇気。
再び西村さんがフラッとなる。
「…おかしな事を言っている自覚はありますが、これは事実です」
「あ、あぁ、わかっている。実はな私達もそれに似た石を確認している」
今度は俺たちが驚く番だった。つまり俺たちの様に石に触れ身体能力が異常に上がった者が他にもいると言うことだ。
「それはどこに?」
「迷宮…塔の中だ。ちなみに塔の中は迷宮となっているよ。君たちもゲームやアニメで見聞きした事はあるだろう?」
「はい、それはTVでも多少ききましたが…。」
「実はな、調査隊の中の1人が無事に帰ってきているんだ。」
なに?TVでは全滅したとなっていたが。
「そ、そうなんすか?TVでは全滅したと…」
勇気が聞くが西村さんは答えない。いや答えていいのか悩んでいるようだ。だが伊藤さんが肩に手を載せると心を決めた様に話し始めた。
「調査隊は塔に入ってすぐ沢山の宝石の様なものを見つけたらしい。そしてそれはその部屋から持ち出すことは出来なかったようだ。だが、調査隊のうちの1人がその石に触れた時、石がその調査隊員の中に入っていったらしい。」
沢山の宝石?持ち出す?どういう事だろうか。
俺たちがみた石のサイズでは持ち出すことは難しいし、あの大きさの物が沢山あるというのは不思議だ。
「その石は調査隊員によるとビー玉ほどの大きさのだったらしい。色は確認した範囲では赤・青・緑・黄の4つだ。」
ん?黒はないのか?それにビー玉ほどの大きさって?
小さすぎないか。
「その調査隊員が触れた石は青だったらしい。だが特に何も起こらなかったようでそのまま進む事にした。そして調査開始から1時間経ったころ上へと繋がる階段を見つけた。慎重に慎重を重ねてそこをのぼり上の層へ行くと、そこは1層に比べ量・強さが上がったモンスターが徘徊する同じ様な迷宮だったそうだ。」
なるほど層が上がると難易度が上がるのかもしれないな。
「運悪く調査隊はモンスターに見つかり、応戦するも全滅した。戦闘要員が少なかったのも原因の一つではあるが。」
「ちょっと待ってください。1人は生き残ったのではないんですか?」
「いや、確かに死んだようだ。だが致命傷を負い、死を覚悟した時、体内で何かが割れる音がして気付いたら迷宮の入口に帰ってきていた、という訳らしい。」
つまり取り込んだ石が身代わりになったという事か?
ならば石があれば何度でも挑戦できるという事になる。
「なら、迷宮の攻略はかなり楽になるんじゃないですか?」
そう聞くと西村さんは顔をしかめた。
「いや、1度迷宮内で死んで迷宮から出されるともう2度と中には入れない様なんだ。」
1度迷宮で死ねばもう2度と迷宮に挑戦できないということか。
「…まってくださいっす。何でその調査隊員以外は石を体内に取り込んでないんすか?」
おお、勇気がまともな質問をしている。確かにそれは気になるな。
「資格、が無かったのだろう。」
そういいこちらを見つめてくる西村さん。
なるほど、俺たちはネットに上げているからな。
『貴方達は資格を有している』
そう、黒い石は確かにそういった。
「資格…ですか。確かに黒い石はそう言いました。ですが僕たちには心当たりがありません。」
「資格というものは検討が付いている。」
なに?どういう事だ。俺たち自身も気付かない様な資格に検討が付いているのか…?
「その資格とは…?」
「1度死にかけるか、人の死を間近で見る、または死に相当する恐怖を感じた事がある者、だ」
つまり、俺たちは2番目に当てはまるのだろうか。だがそれだと病院の関係者などには資格を有する者がそれなりにいる気がする。
「ただし、人の死を見るについては病死や寿命ではダメらしい。事故、他殺、自殺など唐突な外的要因による死を見ることらしい」
なるほど、だが何故そんな条件を設けているのだろうか。それでは挑戦できる人が減ってしまう。黒い石は攻略には積極的な感じだったはずだが。
「生き残った調査隊員はこう言っていた。自らの死を感じた他の隊員が起こしたパニックはモンスターよりも危険なものだった、と。」
そうか、そういう事か。つまり迷宮は外的要因による死について理解していて覚悟のある者なら拒まないが、そうじゃない者には倍以上の恐怖を与え、入ってくる事を拒否しているように思える。
「でも、それでも自衛隊とかが大勢で突入すれば何とかなるんじゃないですか?」
「…もう突入はしたさ。そして25層までは行った。だがダメだった。上に行くにつれモンスターは強くなり、ついに銃がほとんど効かなくなったんだ。」
銃が、効かない。それはつまり人類の手軽かつ強力な攻撃手段が通用しないという事だ。せまい迷宮に大きい武器を持ってくのは難しいだろう。
「じゃあ、あの塔の攻略は不可能って事なんすか?」
そう勇気が聞くと、西村さんは首を____横に振った。
「突入した特殊部隊50人の隊員の中で石を取り込めたのは12人。そしていずれもその数時間後に身体に異常な変化を起こした。」
身体に異常な変化、か。俺たちと同じ様になったのだろうか。
調査隊員は侵入してからすぐやられたからな。それで石の力を発揮できなかったのか。
「変化というのは具体的には_____」
西村さんの話を要約するとこうだ。
赤石:身体能力の超向上。剣や槍などの近接武器の扱いが上手くなる。
青石:魔法というのに相応しい、特殊な力を得る事が出来る。
緑石:取り込めた者が居ない為、不明。
黄石:任意の対象を任意で治癒する事が出来る。
という事だ。
なるほど、迷宮を攻略する為の力は提供されるのか。
「そして石を取り込んだ者達が敵と戦い、何体かのモンスターを倒す事に成功した。が、戦闘継続は不可能な状況になったので撤退を余儀なくされた」
石を取り込んだとはいえ、かなり上の層では歯がたたなかったということだろう。1層からしっかり攻略を始め、きちんとした経験を得る事が大切なようだ。
「我々はこの迷宮を攻略する為に、冒険者という職業を確立しようと思う。今の日本の戦力では迷宮の攻略は厳しいし、他国を頼るのも、な。だから石に適合する者達を集め、攻略に協力してもらうことにした。」
冒険者?
確かにそれなら攻略も楽になるだろうが、そんな職業が成り立つのだろうか。
「詳細は後で話すが、1週間後には冒険者の募集を始める予定だ。」
「何故その事を僕達に?」
「…君たちには冒険者になってもらいたい。」
うすうす勘づいてはいたが、やはりそうか。
俺たちは1ヶ月も前からこの力と過ごし、特に問題も起こしていない。
それに石の大きさや取り込んだ状況から察するに、俺たちの力は他より強力なものなのだろう。
「俺は、やってみてもいいと思う!」
勇気がこちらを見てハッキリと言った。
だが…
「俺たちには学校がある。それに札幌に来るのだって一苦労だ。やるのはかなり厳しいんじゃないか?」
勇気はそれを聞き、考え込むように黙った。
俺たちは単なる学生だ。義務教育では無いとしても、今の時代、高校中退なんかでは就職も厳しいだろう。
冒険者としての収入も不安なものがある。
「それについては心配ない。冒険者専用の高等学校も用意される。無料で寮も使用可能だ。学費や食費も免除しよう。」
なんと、そこまで優遇されるのか。だが勉強と攻略の両立は厳しいんじゃないだろうか。
「これを見てくれ」
そういって西村さんが渡してきたのは、冒険者専用高等学校のパンフレットだった。
「これは既に君たちの両親にも渡してある。そして君たちの両親は二人の判断に任せると言っていた」
なるほど、後は俺たち次第で全てが決まるのか。
塔を攻略しなければ世界は滅ぶらしい。タイムリミットはわからない。だからこそ、急いで決断する必要があるだろう。
「優人、やっぱり俺は冒険者になるよ。俺たちなら、何とかなるさ」
勇気の気持ちは決まったようだ。それなら俺が拒否する理由はない。
「わかりました。俺たちは、冒険者になります。」