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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第8話 ダンセイル一家

「だけど、親父。これでメンバー全員集合って感じじゃないよな。まだ奥で片付けとかでもやってんの?」

 アルセスは周囲を見回して作業をしたり、倉庫に荷物などを運び込んでいる団員の姿を見て首をかしげた。
 ダンセイル一家はそこまで大所帯ではないので、今もあくせく働いている者達は数人しかいないが、それでも顔見知りも含めてもうちょっとの人数がいるはずだと。

「ああ、リーンとレイリアは奥の部屋でフィオネに着せ替えさせられてるよ。上の店で使うウェイトレスの服の調整だとよ」
「やっぱりレストランという選択はフィオネに頼まれてでしたか、ルガー。奥さんに弱いですね、相変わらず」

 ティエナのからかうような意見をルガーは豪快に笑い飛ばす。

「なあに、要は人を呼び込めりゃ酒場だろうがバーだろうがレストランだろうが変わらんさ。噂話ってーのは人が集まりゃ聞こえてくるもんだからよ」
「そりゃ、うちの団員で店をやったらそこそこ人は集まるだろうけどさ」

 男女比率としては半々のダンセイル一家だが、他の()()()の集まりに比べれば綺麗どころが多いとはアルセスも感じている。
 見目麗しい美女に美しさを引き立てる服装を着せて店に立たせればそれだけで客はそれなりに呼び込めるだろう。
 そして、それだけでは終わらない事も。

「むしろ、中には副業の方を本業にした方がいいだろって人もいるしな……店に出すものもそれなりになるだろうけど……若干目立たないか? 女目当てに変なのが集まっても困るだろ」
「アルセス、前にも言っただろ。世の中には安定した暮らしよりもスリルのある暮らし、リスクがあってもワクワクする人生の方が楽しいって人種がいるんだぞ。このくらいどうってことないさ」

 一流の料理人顔負けのスキルを持つ小太りの青年が腕利きの密偵クラスのスカウト技術を持っていたり。
 圧倒的話術で交渉でも請け負えば引く手数多であろう美人の女性が色仕掛けの達人だったり。
 機械とオーファクトの扱いにかけては国家研究所にも務められるスキルを持つ男が、一家の機器類の整備を担当していたり。

 一芸どころか芸達者が揃い踏みのダンセイル一家の団員達は、ただ一人の例外もなく安定した職よりも多少は法に触れようが、スリルとロマンのある生活のほうが楽しいと半ば危ない橋を渡ってばかりの生活を好んでいる事をアルセスは嫌というほど知っている。そういう道楽者の集まりなのでそれについては意今更だった。
 ある程度世の中を知ってからは、それが如何に酔狂な生き方であるかを理解した彼ではあったがその生き様を否定できる身ではないし、そもそもするつもりもなかった。
 彼とて同類だ。生死の懸かったスリル、法の目を潜り抜ける独特の緊張感、その果てに宝と価値を見出す刹那的な享楽。
 それらは否定できない興奮を感じさせるものであるし、何よりその手段で無くばティエナを救い出す方法が見つからないかもしれないと考えれば、アルセスは事の善悪すら二の次だった。
 外道に堕ちるほど道を踏み外したくはないが、聖人を名乗れるほどの善性は自分には無いだろうと自覚している故である。

「俺もスリルを楽しむ一人だから強くは言わないけどさ。どこに拠点を構えようがリスクは一緒だし。けど、親父自慢の娘達にちょっかいかけるようなのが出たらどうすんだよ」
「ああ? んなもん速攻で挽肉だ」
「なら何で表に出すんだよ……」

 この厳つい顔でルガーは周りが呆れるほどの親バカだ。そうなってもおかしくないくらい彼の娘であり義理の姉妹である二人が綺麗どころ揃いの団員にも負けない美少女である事は彼も認めるところなのだが、ちょっと男が近づいただけで殺害予告をするルガーはどうかとアルセスは思う。
 そんな話をしていると広間に繋がる扉の一つが開き、奥から二人の少女が入ってきた。

「おーっ、ティエルとアルセスじゃーん! こら、オヤジ! 二人が帰ってきたらちゃんと教えてって言ったでしょー!」
「二人ともお帰りなさい……は、ちょっと変かしら? 無事に辿り着けて何よりではあるけど」

 はしゃいでティエナに駆け寄るショートカットの赤髪の少女と、頬に手を当ててゆったりとした雰囲気で微笑むやはり同じく赤く長い髪をアップで一まとめにして首筋を美しく見せている美女。
 しかし二人とも只者ならぬ雰囲気を纏い、この一家の一員と呼ぶに相応しい実力を併せ持つこの二人。同じ色合いの髪から分かる通り、姉妹である。

 名を、ショートカットの少女がリーン・ダンセイル。
 もう一人の女性がレイリア・ダンセイル。

 名が示すとおりアルセスの眼前に座る強面のルガーの娘であった。もっともいまはその厳つい顔も目尻が下がってトロけきっていたが。
 何せ二人の格好は黄色と白のチェックをメインに据えたウェイトレス姿である。
 いわゆるエプロンドレスと呼ばれる服装をややコケティッシュに仕上げたもので、袖口やスカートの裾などにあしらわれたフリルはややあざといとも言えなくもないが、美女揃いのルガー一家の副業を支えるという意味合いでは極めて強力な武器になるだろうと思える会心のデザインであった。言うまでもないが、ルガーの妻であるフィオネ・ダンセイルによる一品だ。
 ただ、やや身体の起伏に乏しいリーンよりもメリハリのあるボディラインが把握できるレイリアの方が色んな意味で視線を集めそうだという点で両者の評価は必ずしも一緒ではないが。

「どうよ、ママの渾身の一作のこの制服! 見えそうで屈んでも見えない絶妙な長のスカートに可愛さ全開のエプロンのセット! 男共をイチコロに出来ると思わない!?」
「あー、はい、確かにイチコロになりそうですね。ですけど、デザイン的にお淑やかなレイリアの方がファンが多く付くと断言しますね、わたしは」

 スタイル的にも、という一言をティエナは口にしなかった。リーンに配慮したというよりは騒がれるのが面倒だったので流したのである。しかし、その適切かつ無難な評価はリーンには面白くなかったようだ。

「ティエル手厳しくないー?」
「わたしはわたしの見解と分析に基づいて評価しただけに過ぎませんよ。元気な女の子、というコンセプトにもマッチはしていると思いますが、男はどうしたってレイリアのような落ち着いて楚々とした振る舞いを好みますから。ま、アルセスは例外ですけどね」
「さらっと惚気んなー!」

 済ました顔で分析するティエナにリーンはぐぬぬと唸りながらも抱きついて離れない。
 次女リーンはこの天真爛漫さでティエナが仮面を被らない数少ない人間の一人だ。
 いや、ダンセイル一家の団員に対する当たりは他の有象無象に比べれば全然マシなのだが、その中でもやはり短剣の頃からの付き合いであるルガーの家族達には多少は甘い。
 それはリーンがティエナの氷のような対応にもめげずにあれこれと構い続けたからだろう。いい加減あしらうのにうんざりした、と見れなくもないティエナの態度は、彼女を良く知るものから見れば心を許したと判断できるからだ。

「アルセス君、回り道での合流お疲れ様。ゴメンね、お父さんの都合で」
「別に陸路での旅も久しぶりだったから構わないよ、義姉さん」

 そんな微笑ましい擬似姉妹の会話とは対照的に、アルセスと長女レイリアの会話は和やかそのものであった。
 経緯の都合上、ルガーを親父と呼ぶアルセスであるが、彼の家族とは義理のようなものとはいえ付き合いが長い。とても裏家業街道まっしぐらの家族とは思えぬほどに情にも厚いダンセイル一家の中で過ごすうち、アルセスは自然と「真ん中の子」扱いが当たり前になっていた。
 その過程でレイリアはアルセスに自身を姉と呼ばせている。この包容力の高さや母性溢れる精神は母であるフィオネ譲りで自慢の娘だ、とはルガーの弁。

「ほらほらー、この腰のリボンの結び方とかちょーっとあざとくないかなって聞いたら、都会じゃこれくらいしないと目立たないってママが断言するし。ティエルもちょっとは興味ない?」
「むう……フィオネは流行に敏感ですね……確かにすれ違った女性の服装には中々派手だったりあまり見かけないデザインの物もありました。袖とか肩とかを露出していましたし、何かしらのコンセプトを強く前面に出す、という判断は正しいかと」
「ティエルの見立てでもそうなのかー。じゃ、ティエルの衣装はちょっと露出マシマシで」
「別にもらうのは構いませんが、それを着て店には立ちませんよ、わたし」
「えーっ!? なんでさー! 仕事しろーちゃんとー!」
「リーンは裏方ですから店に立つ暇はあるでしょうけど、わたしはアルセスにくっついて実働部隊ですよ! お店やってる暇があると思ってるんですか! そもそも、見知らぬ他人に接客するとかわたしの流儀に反しますっ」
「じゃ、何で衣装はもらうのよ?」

 訝しげに尋ねるリーンにティエナが露骨に焦りだした。視線を彷徨わせつつも何かをアピールするかのようにチラチラとアルセスの方を横目で見ている。
 それだけで思惑はバレバレであったのだが、妙案を思いついたとばかりにティエナは口を開いた。

「そ、それは……その、そうです! アルセスを誘惑するのには使えるかと! 先程も言ったとおり大半の男性の目を引くデザインですし!」
「え? じゃ、これ着て夜な夜なプレイするんなら洗い換え用に二着頼んどく?」
「ど、どどどどどどどうして汚れる前提で話すんですか! というか、何を考えてるんですか、そのやらしい笑いをやめてください!」

 にへらー、という擬音が似合いそうな顔で猛攻を仕掛けるリーンにティエナはタジタジになるが、周囲はそれを暖かく見守っている。
 何かと年上ぶるティエナであり、リーンも素直に従ってはいるが「色」の絡んだ話になると大抵は上下が逆転するのだ。じゃれ合う二人を他所に、アルセスはレイリアも交えてルガーと話を進めて行く。

「それで義母さんが今も鋭意製作中なのは分かったが……エモンドとジーゼンはどうしたんだ? あの二人も別口で王都入りする予定だったろ?」
「あいつらにはちょっと合流を遅らせる指示を出した。ほら、北門から回りこむ予定だったけどよ、ちょうど件の場所を調べるのに都合がいいから、偵察(スカウト)チームと合流させて先に探らせることにした」
「……二人とも気の毒に。王都観光する暇くらいやってもいいだろ。この間大仕事を終わらせたばっかりじゃないかよ」

 仕事詰めのスケジュールにアルセスは仲間達の悲運を嘆く。
 何だかんだで休暇の小旅行のような自分達とは違う事を気の毒に思った事もある。
 しかし、一家の長は無常だった。

「ライバル共もボチボチ王都に入りはじめてんのに男手を遊ばせておくわけにいかねえだろうが」
「その筆頭がソファにふんぞり返って娘眺めて顔を醜く歪ませてるのはいいのか?」
「誰が醜いだ、誰が。娘を見守る父親の慈愛に満ち溢れているだろうが」
「お父さん、普通に気持ち悪いのでちゃんと仕事してください」
「あ、ああ……すまんな」

 レイリアのナイフの様に鋭いツッコミによってルガーが一回り小さくなったようにアルセスには見えた。
 男家族に女家族が冷たく当たる、というのは何処の家庭でも少なくはないらしいとアルセスは知っているが、リーンにしろレイリアにしろ、二人の実の父親に対する態度は結構手厳しいように感じている。
 ルガーの妻であり、姉妹の母であるフィオネに言わせれば年頃の娘の父親に対する態度なんてそんなものよ、との事らしいが若干気の毒に感じなくもないアルセスであった。
 特にアルセスに対しては二人とも普通に接してくれるから余計に申し訳なさが立つという理由もあったが。そして、何故お前だけが、とルガーに八つ当たりされるまでがセットであるのが悩みのタネでもあるのだ。

「んー、お姉ちゃんと同じくらいのサイズでいけるかなーって思ったけど、ティエル、また胸大きくなってない? 自分で大きさとか調整できるんだっけ?」

 一方でマイペースな二人はなんのかんのと似たような話題を続けているようだった。

「人の神聖な胸を乱暴に揉んだ挙句、失礼極まりないことを言わないで下さい。スタート地点が違うだけで、成長に関する要素は殆ど人間と同じだと前に説明しましたよ? まあ油断しても太ったりしませんが、自分が望む姿から大きく逸脱はしませんし、急激に変化は出来ません。時間をかければ別ですが、それに応じた栄養や休養がない事には変化はしませんよ」
「にゃるほど、つまりアルセスに揉まれたという外部刺激による変化で大きくなったという事で!」
「ちち、ちが、ちがちが、違いますっ! そんな常日頃から揉まれたりとかしてないですから! そもそもそう簡単に触らせたりもしてないですから!」
「裏を返せば頻度の問題なだけで揉まれる事自体は相変わらずなのねー。基本ティエルってアルセスの言う事に逆らわないモンね」
「は、謀りましたね、リーン!」
「いや、ティエルが勝手に躓いただけっしょー」

 流石は一家の通信役を一手に担う口達者のリーンは、ティエナを煙に巻いて室内をバタバタ走り回っていた。アルセスもまたティエナの単純さに額に手を当てて何やら考え込む仕草をする始末。
 正面と隣から寄せられる視線が痛いのもあった。

「いやいや、一時はどうなるかと思ったが、仲が良くて結構じゃねえか。こりゃーなんだ? オレはもしかするとアルセスとティエルの子どもっつー貴重な新人類の誕生を見守れるのか?」
「割とデリケートな部分に遠慮なく踏み込むなよ親父……」

 ティエナが普通の人間ではない、という事に壁を作っている者は少なくとも団員には一人もいないし、そもそもティエナがそういう雰囲気を感じさせないのもあるが、それでも触れにくい話題という物はあるだろう、とアルセスはため息混じりに非難した。

「ハッ、あのティエルを見てそんなちっせぇ事グダグダ考えるだけ無駄だろうが。アイツなら、お前がガキ作ろうぜ、って言ったらそれだけで産める身体になりそうなくらいハチャメチャだろうがよ。そんな奴にオレ達人間の常識なんざ通じるかっての」
「いや、そうなんだけど心情的にというかさ……」
「大丈夫よ、アルセス君。お父さんにデリカシーとか配慮とかが無いのはその通りだけど、貴方達なら、理屈とか理論とか、そういうのを無視して何とかしちゃいそう、っていうのは私も感じていることだから」
「技術屋の義姉さんがそんな非論理的なことを言うとは……」
「うふふ、そんなに褒めなくてもいいのよ」
「褒めてないから」

 色んな意味で感心はしたが、とはアルセスは口にしなかった。義姉を面と向かって褒めるのはどうにも照れくさいのだ。もっともレイリアは分野が違うが。
 彼女は生み出す方の技術屋ではなく整備や調整の面が達者なのだ。一から作り出すのではなく、元々の設計に従って大量生産したり、短時間で仕上げたりと言った方面が得意というべきか。
 自然、彼女は消耗品の補充や一家の足代わりの乗用物の整備など縁の下の力持ち的な存在として団員に親しまれているのである。
 それゆえにファンも多い。だからこそ可愛がられるのがくすぐったくもあるし、下手なことを言って妬まれたくないというのがアルセスの本音でもあった。彼女持ちだろうと嫉妬の視線は避けられないのだ。
 では、その妹の方はどうかというと。

「こう、足というか太股を引き立たせるようなソックスとかはどう? ティエル足ほっそいしいけると思わない?」
「それはちょっと露骨過ぎて抵抗が……あ、いえ、自信がないというわけではなくてですね!」

 彼女も彼女で複数の通信網を繋ぎ、敵の情報は盗み取り、こちらの情報は一切洩らさぬ交換手。
 猫のような俊敏さで時には現場を駆け回ることすらあるリーンはといえば、マスコット的人気で比較するならば姉の人気にも引けを取らない。屈託の無い笑顔も相まって可愛がられているという意味合いでは、この姉妹は間違いなくダンセイル一家の花であろう。

「うんうん、今日もオレの娘達は天使だな」
「親父、気持ち悪いぞ」
「お父さん、気持ち悪いです」
「ルガー、ちょっと水でも浴びてきたらどうですか」

 そして、子供達から辛辣な言葉を投げかけられるまでがダンセイル一家の日常であった。
基本的にセメント対応しかされない一家の長(酷
+注意+
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