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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第84話 machine of Duel ~鋼鉄の機人~

 頭上で戦い始めた少女たちをバックに少年と機械人形もまた激突を開始した。
 ガントレットを分厚く強化したような装甲を纏わせた腕によって繰り出される強烈な拳を放つロボットを相手に、アルセスは相手にも劣らぬ手数での応戦を行っている。
 ネーボルクの動きは流麗だ。人ならざる身でありながら人以上の「技術」を見せる洗練された拳。それは紛れもなく格闘技と呼ばれるものだ。
 ロボットにあり、人間には無い利点。
 それはまっとうに体得するには膨大な時間がかかる技術であってもロボットにとっては情報の一つでしかなく、理解し再現するのに必要な時間はほぼ無いという事である。
 かつての世界では戦争において使われたという戦闘用機械人形。
 極めた、という領域に到達こそ及ばないが一流と呼ばれる領域であれば数時間程度記述(プログラム)を組む時間さえあれば大量に生み出せたという時代。
 アルセスは目の前のロボットの放つ拳の重さからそれがいかに恐ろしいかを肌で感じていた。

 身体能力を始めとした性能。
 優れた技術を的確に扱う判断力。
 そしてそれを――機械の身体ならではの戦闘法に押し上げる独自性。

 人を模した存在でありながら、明らかに人よりも優れた一面も持ち合わせる脅威。
 何よりこの質を――同様のクオリティで大量生産出来たという事実。

 模倣と呼ぶには明らかに逸脱した拳を放ってくるネーボルクはそんなロボットの中でも異質のようにアルセスには感じられた。
 やや身体を屈めつつ攻防が一体となったような動きを見せる両の拳。
 全身が金属の塊とは思えぬ滑らかすぎる身体の動作。
 何より入力されただけである情報以上の技量を見せつけてくる不可解さ。
 目の前のロボットがやっているのは人真似や再現ではない。得た情報から基づいて再現した技術を学習し自己で最適化したこのロボット独自のオリジナルであるとアルセスは推測した。

 アルセスはその事実に背筋が凍るような思いだった。おおよそ機械が出来る自己学習の範囲を超えている。己の予想が事実であったのならば、という前置きはあっても眼前の相手が強敵であることには変わりない。

『戦闘傾向を分析。どうやら貴方は機械兵士との戦闘経験が豊富なようだ。筋肉の動きや視線に我ら機械兵士の見た目に惑わされない警戒心が含まれている模様』
「……ロボットのそういうところがこの警戒心を育んだんだけどな」

 数回の攻防だけで自身の思考を見透かされていることにアルセスは辟易する。時に機械兵士は心臓の鼓動や呼吸の乱れだけで心理状態すら分析してくる事すらある。おおよそ戦闘における情報という分野に関しては優秀な頭脳を搭載したロボット相手では分が悪いという認識が彼の中にはあった。
 そしてネーボルクはそんなアルセスの戦闘経験すら見抜いたのだ。どれだけ厄介な相手であるかは語るまでもなかった。
 右手のウェバルテインを逆手に構え直す。単調な攻め手を繰り返していてはあっという間に見切られる。使える限りの手札を使わねばあっさりと封殺されるだろうと。

『心気の向上を確認。所有するオーファクトの詳細は不明。対ワンダラー戦闘プログラムのレベル上昇を要求――承認。殲滅、開始』

 アルセスは大型の機械を背にギリギリのタイミングでネーボルクの放つ拳を避けた。
 もはや腕というよりはそれ自体がハンマーのような鈍器と呼んでも差し支えないそれは勢い余って機械を破壊――せずピタリと止まる。人間ではありえない身体の制御。僅かに期待したが、やはりロボットに計算ミスというのは無いようだとアルセスは転がりながら距離を取る。

『もしも私の攻撃による施設の破壊を期待しているのでしたら無駄だと断じておきましょう。それ故の近接戦闘仕様ですので』
「わざわざ火器を使わない宣言をしてくれてありがとうよ!」

 毒づきながらアルセスはウェバルテインの鞘を解き放つ。
 触れるもの全てを断つ黒の魔刃。ティエナの戦闘の基礎となっている黒い刃のアートと同質にして本体。伸縮自在の魔剣の真の姿の一端がネーボルクの目の前で明らかになった。
 それは半ば不意打ちだった。当たるはずのない距離から一気に伸びたウェバルテインの間合いにはネーボルクを既に捉えている。逆手のまま振り抜いた刃はネーボルクの腕を斬り――裂く事無く受け止められた。
 ガントレットと刃の間。そこに発生した力場のようなものと黒い魔刃は鍔迫り合いのように拮抗しているのだ。

「やっぱりアート対策も完璧かっ!」
『物理、非物理を問わず存在そのものの結合力を弱めて断つアートと分析。対アートシールドオン、近接戦闘用武装「キルシュガンデ」の稼働パターンの変更を実行』

 ブン、と静かな起動音のようなものがネーボルクからしたかと思うと両腕に変化が現れた。
 薄っすらと青い光を放ち始めたガントレットはまるでワンダラーが稼働させたオーファクトのような反応を見せていた。

「……嫌になるね。オーファクトに似た武装じゃなくてオーファクトを使えるロボットとかいよいよ人間のワンダラーの立場が無い」
『そう悲観することはありません。これはあくまでも疑似的なエネルギーの生成によって極めて近い現象を引き起こすだけの我ら機械人形用の戦闘武装の域を出ませんので。時にリミッターを超えた力を引き出すことの出来る未知数な人間とあくまで想定された結果しか出せないロボットとは明確に違いがあります』
「……不安定な上に出るかどうかも分からない105%の出力が出せる人間と、常に100%の出力を約束するロボットを比べられてもな」

 どちらが常勝に近いかと言われれば間違いなくロボットであろう。相応の性能があれば、という条件こそつくものの、コンディションによって実力に変動がある人間と自律したロボットのどちらが怖いかと問われれば如何なる時でも安定した性能を発揮するロボットの方が恐ろしいとさえ感じる、と。
 どうにも思い切り踏み込むきっかけが作れない。やや攻めあぐねているアルセスに無機質なネーボルクはまるで人間のように言葉を投げかけた。

『傾向からもう少し攻めに偏ったワンダラーと評価していたのですが、どうにも動きが鈍いですね』
「……いきなり何だよ」
『失礼。機械人形の上に主人にこき使われる身ではありますが、どうも私は久々の戦闘行為に若干の感情の昂ぶりを感じているようだ。人間はこれを確か……高揚と呼ぶのでしたか。どうも私は貴方の全力と見えられない事を惜しく感じつつもこの戦いを楽しんでいるようだ。実に興味深い』

 発言の意図が見えずアルセスは怪訝な顔をするだけだった。

『貴方達にとってもこの施設が重要であろうことを考えると……セーブした動きであるのは破壊を恐れての事ですか』
「……わざわざベラベラとこっちの事情を明かす気にはなれないんだがな」
『生真面目ですね。そして利口でもある。相手の口車に乗らない、だが駆け引きだと分かっているから少ない言葉から相手の意図を探ろうとするその姿勢。私の主よりもよっぽど熟達した戦士のようだ』

 空中で戦うことに夢中なデューテが聞けば憤慨ものの台詞を言い放ったネーボルクの口調は無機質なものではなく明らかに感情があった。僅かにであるがそこには確かに喜びのようなものがアルセスには感じられたのだ。遺跡に放置されていたロボットと同じようにどこか義務的でありながら、しかしそれらとは違い妙な人間臭さを備えているのは、それを生み出した人間の生まれた時代が違うからなのか。アルセスはそこに疑問を抱いたが、集中を欠くわけにはいかないと頭を切り替える。

『ならばその答えは――戦うことで見出すとしましょう』
「――ッ!」

 ネーボルクが構えを変えると同時にアルセスの視界から姿が消えた。
 空気の流れを肌で感じたか、それとも命無き人形にも戦意は宿るのか、はたまた己の直観か。
 理由が分からぬままアルセスは咄嗟に背後に下がる。大きく上体をのけ反らせるようにしたのも好判断だったと結果だけ見れば言えるだろう。
 視界から消えたのは大きく踏み込むと同時にネーボルクがしゃがみ込むかのような低姿勢だったからだ。そしてそこから間髪入れずに大きく振り上げたアッパーカット。顎を打つ、などという生易しいものではない。無防備なままに受ければそのまま首を折られそうなほどの右腕が空を裂いた。
 先程からのネーボルクのあまりに綺麗すぎる動きに、アルセスは思わずこんな感想が口をついて出た。

「……拳闘士かよ……!」

 銃器の発達に伴い人間の武術や武器の選別も取捨選択が進んでいるが、その中にあっても一番淘汰が進んでいるのは格闘技の分野だ。
 特に魔物との戦いにおいては相当な修練と身体強化の闘術が扱えねば話にならず、あくまで対人を想定した護身術であり、数々の武芸の技の下地という扱いになりつつあるのが格闘術の現状だ。
 だがその一方で、対人間サイズの相手に限れば己の全身が武器になり得ること、人体への理解を深めることでより効果的な身体の使い方を学ぶなど決して軽んじられているわけではない。

 何よりどんな武芸であっても――達人技というのは常軌を逸したものになるのだ。

 ネーボルクのそれは長き修練の果てに生み出された恐怖ではない。
 人間を超える膂力と人間では不可能な身体の動きを取り込んだ異端の技芸。
 さらにはその威力を更に底上げするオーファクト。
 この三つが合わさりネーボルクは文字通り全身がまさしく凶器なのだ。
 斬っても死なず血も流れず、壊れるその時まで冷静に勝利を模索する機械人形。
 それに適切な技術を伝えるという事がどれ程凄まじい事なのか、アルセスは刃を交えることで痛感したのだ。

(さて、時間を稼ぐとは言ったがダメージがダメージにならないような相手にどう凌いだものか……!)

 ネーボルクの猛攻は続く。重厚な鉄の身体をものともせずにステップすら交えて踏み込んでくる姿は死を間近に感じさせる程だとアルセスは攻撃を捌きながら思う。
 今は廃れたフルプレートの鎧を着こんでいるようなものなのに、敏捷性はまるで落ちていないという反則的な性能。そして重量がそのまま威力へと転じる体術という組み合わせ。ロボットと言えばその耐久性の高さと全身をフルに武器と化す装備の多彩さが売りであるが、人間の首など容易にへし折れそうな回し蹴りや、無抵抗に食らおうものなら人体など簡単に破砕されそうな鉄の拳による攻撃は全身重火器装備のロボットに決して劣らない攻撃力を備えている。
 何よりネーボルクの怖さは足が折れても腕がもげても壊れるその瞬間まで戦闘行為を止めないロボットの性質そのものにある。
 生物であれば生命の危機に際して生じる恐怖がある。自身を追い詰めた相手に対しての畏怖も生まれるだろう。
 だがロボットにそれはない。状況が悪化してなお選択可能な手段を即座に検索しそして実行する。壊れるまで決して退かぬ兵士の究極。それが戦闘用機械人形の到達点。
 回避と攻撃を組み合わせてネーボルクと戦うアルセスは防戦一方だ。むしろ単純な近接戦闘であれば、身体能力の差は小さくない不利だというのによく凌いでいる。相手は一切の疲労を感じぬ身体であるというのに、それでもだ。

『見事なものです。私にここまで攻撃をさせた相手はなかなかいない。私の計算が間違っているのかと錯覚するかのような卓越した防御技術。ロボットの出力を的確に見抜く観察眼。何より――貴方は私をロボットとして確かに警戒している』
「見たままなのに褒められることじゃないと思うんだがな?」
『いいえ、多くの人間は人の形をしたものの相手をする際に見落とすものです。私は人間の動きを真似られる。しかし――そこにこだわる必要はない事を』

 振り抜かれたストレートをすり抜けざまに避け、背後からウェバルテインを突き立てようと回り込んだアルセスはその動きを反射的に止めて身体を屈めた。
 ブオン、とまるで大きな鈍器でも振り回したかのような風の音にアルセスは怖気すら感じた。しかし、身体を強張らせる事無く再び相手の間合いの外へと飛び退いた。
 ネーボルクは単純に両腕を回しただけだ。ただし――上半身だけを一回転させるという人間には出来ぬ芸当で。

『そう、関節だけで手首を回す、下半身が無くとも戦闘が出来る。ロボットというのは人の形をしているが、人の形でなければできぬ動きに拘る必要はない。その事を理解していたからこその――動きの鈍さであったのだとようやく理解できました。故に私は賛辞を送りましょう――貴方は強い、と』

 全く嬉しくない賛辞を受けてアルセスはただ深く呼吸をするだけだった。

外見的なイメージは〇ボ〇ップをもうちょっと
メカメカしく厳つくしたような感じです。
要するにロボットのガチムチ系。そりゃ強い。

※ 次回の更新は1月14日です。
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