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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第83話 破壊者二人

『イエス、マスター。正確には奪われた地ですが』
「失態には変わりないんだからいちいち訂正しなくていいわ。面倒なだけの任務だっていうのにこれ以上気が滅入るようなこと言わないで。スクラップにするわよ」
『失礼いたしました。嘘も誤魔化しも出来ない思考回路ですので』
「……慇懃無礼なのを仕様だと言い切る機械人形(ロボット)とか本当サイアクよね」
『事が済めば処分されるという立場にありますので。学習の結果による性格の改変の影響と考えていただければ』
「はいはい我らが教主様のありがたいお言葉よねー。全ての忌まわしき知識の産物は全てカミサマに反する邪悪な叡智の結晶ですっけ。私達が一から作ったものは例外にする辺りは随分器の大きいカミサマのようだけど」
『デューテ、不穏な発言は慎んだ方が良いかと。記録器(レコーダー)を解析され先の発言を聞かれては要らぬ処分を受けるかと』

 明らかに皮肉を含んだ少女の発言をロボットは窘める。
 だが、少女の方は気にも留めていない。その態度には明らかに所属する組織への忠誠や信仰は微塵も感じられなかった。

「アンタがバレないように改ざんしてるんでしょ。へーきへーき」
『マスター風に言うならば面倒な仕事を増やさないでいただきたいという遠回しな要求なのですが』
「うっさいわよ、ネーボルク。次のメンテを手抜き作業にされたいの?」
『マスターの性格上、無意味な手抜きなど出来ないと知っておりますので、その発言は脅迫にはなりえないかと』

 まるで警戒心を感じさせずに入ってきた侵入者は少女と鉄の兵士という奇妙な組み合わせであった。
 フリルやリボンを存分に――いや、やや過分にあしらった黒と白で構成されたドレスを身にまとう白髪の少女デューテとそれに付き従うというよりは保護者のような振る舞いをするネーボルクと呼ばれた鉄の人形。
 特に少女の外見が十二、三歳のという愛らしさの方が前面に出ている外見もあって機械人形はまるで保護者のようにも映る。
 その機械人形の精巧さにアルセスは目を見張る。
 関節の継ぎ目も含めて人型を構成しているのは間違いないが、その動きの洗練さにアルセスは遠目ながらも驚いた。どこか硬い動きの混じる古代の遺産たる機械人形と違い、洗練された動きはまるで鎧を着た兵士にも似て人間じみている。
 しかし、発する声や言動などからそれらが人間ではない事を教えてくれているからこそ、その似姿は脅威にすら思えた。未だ人類はオーファクトはともかく機械人形の分野には着手すら出来ていないからだ。
 機械人形の精度がどれ程か分からないため、アルセスとティエナは契約関係に基づいて成立している念話にて会話を始めた。

(……言動から再神教会の連中って事は分かるが……)
(アルセスの疑念は分かります。恐らくはあの小娘――アルデステン王家の正当な血統を継いでいるのでしょう。わたしのように『裏技』を使ったのであれば履歴(ログ)に痕跡が残ったりしませんから。過去に何があったかは知りませんが、現在の子孫はカルト教団に染まっているというだけなのでしょう)
(……途絶えた時にさらったのが教会の連中で今も利用されてるって線もあるけどな)

 あの少女の背景に何があったかはもはや推測でしか語れない。
 故にアルセスは明確に事実だけを認識する。

 目の前の二人は敵だ。だが、積極的に事を構えたい相手という訳でもない。
 何しろ場所が場所なのだ。状況次第では王国軍すら敵に回るこの地では大っぴらに戦うという選択肢は出来れば避けたかった。
 かといって組織全体の敵でもある連中をみすみす見逃すというのも末端とはいえラークオウルに属する身としてはどうかと思うという考えもある。
 息を殺したままどう動くべきかを思案するアルセスだったが。

「んで? 私はこの端末で何をすればいいのよ。私、こんな難解なプログラムの改変なんか出来ないわよ?」
『デューテはこの施設にアクセスするだけでよいと。後は持ち込んだ携帯用端子に刻まれた記述(プログラム)が仕事をするだけだそうです』
「ふーん、それだけでこの大陸が滅亡するなんてよく分からないけど教祖さまの方が姿も見えないカミサマよりよっぽどすごいんじゃない?」
『教祖は神より啓示を受けたといいます。彼はそれを形にしただけだとも』

 彼らの会話で黙って逃げるという選択肢は潰された。
 どこまでが本当かもどれだけ時間がかかるかも分からない。
 だが、今この地には仲間がいる。我が身かわいさに何もせずに立ち去るなどという事は到底出来よう筈もなかった。

(ティエナ)
(はいはい、分かっていますよ。アルセスはなんやかやでこういう事を見逃せない人ですからね。とんだ甘ちゃんです。本当に)
(心配かけてすまない。だけど、俺達が先に進むためにもこの施設を好き勝手させるわけにはいかないだろ?)
(だ、誰が心配したというんですか、どこにそんな発言がありましたか!)

 ジト目で睨みながら反論するティエナだが顔を赤くしていては説得力はなかった。図星だと自ら語っているも同然である。

(分が悪いが俺がロボットの方を担当する。ティエナはまずは施設への干渉を止めてくれ。その後は――分かっているな?)
(承知しました。ですけど、アルセス。もしも貴方の身が危ないようでしたらわたしは逃げを選択しますからね。あ、貴方が心配なだけじゃなくてウェバルテインの管理者としておめおめとご主人様(マスター)を死なせるのを良しとしないだけですから!)
(安心しろ、敵の出方も分からないのに無茶が出来るはずがない)
(その言葉に何度騙されたことか。忠告しましたからね。死んじゃ……やですよ)

 きゅ、と服の袖をつかんで懇願するティエナを安心させるようにアルセスは微笑みで答えた。
 相手が格上となれば多少の無茶は必須。幾度となくティエナと交わした約束を破った覚えがあるアルセスにとってその懇願は心苦しいものであった。
 だが、同時に何事があろうとも諦めないという決意の生まれる要素でもあった。
 二人は互いに目配せする。ティエナがそうであるように探知系オーファクトの精度の高さは凄まじい。アートでそれを行うティエナとは違い、ロボットはそれを内蔵の機関で行うことを知っているアルセスは機械人形相手に奇襲するという選択肢は捨てた。

 物陰から疾走。

 最初から全速力で正面から迫る事で敢えてロボットの反応を限定的にさせた。
 正面からの相手に対して最速での反応は――当然真っ向から受け止める事である。
 ガキィン、と金属同士がぶつかり合う音が施設内に反響する。
 アルセスの狙いは頭部、それも首を切り離すという急所狙い。否、ロボットが相手ではそれすらも急所であるかは不明。ティエナから与えられた知識に、ロボットが得る情報の機関というのは得てして人間を模していることが多いというのがあったからこその頭狙い。
 すなわち視覚を備えた部分を切り離すことで優位性を生み出そうとしたのだ。余裕で受け止められてしまったが、攻撃の選択としては悪くはなかった。

『明らかな敵対行動を確認。自己防衛、次いで主の護衛を優先とし戦闘モードに移行』
「ちょっと! 自分の身の方が最優先ってどういうこ――」

 不敬な人形へ文句を言おうとしたデューテの台詞は途中で遮られた。彼女の座っていた椅子が真っ二つに割かれ、その黒い刃を放った人物が目の前に立ちはだかったからである。
 これでアルセスの狙い通り二対二という状況は生み出せた。戦力比は不明だが数の上では互角。離れた位置で戦闘が始まったアルセスとロボットの戦いをバックに二人の少女はにらみ合う。
 小柄なティエナよりもさらに小柄なデューテは幼い外見もあって迫力には欠けているが。

「随分と人形の躾のなってない小娘のようですね。程度が知れるというものです」

 小馬鹿にするようにティエナは笑う。あからさまな挑発だ。相手の外見から分かりにくい精神性を図るための試し――といった高度な心理戦などではなくただ本心から馬鹿にしただけだが。

「……ふーん、私よりも先にここに入っているなんて……アンタ達何者? どうやってここのセキュリティを突破したの?」
「答えると思いですか?」
「思わない――わね!」

 デューテはティエナの挑戦的な台詞に意趣返しするかのように右手を振るった。
 だが、それはただ手を振っただけではない。素早く広げられたそれは――扇だ。それも豪奢な装飾のあしらわれた王族の女性が口元を隠す時に使うような豪華な品。
 されど、既に一触即発のこの状況で取り出すそれが普通の品であるはずがない。まるで彼女の手の動きに連動するように扇から放たれたのは雷撃だ。帯状に広がるそれはさながら雷の剣。奇しくもティエナの放った黒い刃と似たような発生である二つのアートは剣戟を交えるがごとく二人の間で二度、三度と打ち合っていく。

「私のサンダーテイルに打ち負けないなんて大したアートの使い手のようね! 本体はどこかしら?」
「使い手は三流ですがオーファクトは一流のようですね。雷撃を操る扇型のオーファクト。覚えがありますね……崩壊期以前、前史の中期頃に流行った王族の護身を目的とした戦闘用オーファクトの一つと見ました」
「戦うだけじゃなくて勉強熱心でもあるのね、お姉さん!」

 それだけで目の前の相手を強敵と認識したか、デューテの操る雷撃の鞭の数が増していく。
 二、三、四、数が増えれば増えるほど制御も困難になるはずのアートをよく使いこなしている、とティエナは声に出さずに認めはした。一部の例外を除いて人間を悉く下に見るティエナであるが戦闘においてその評価は正確だ。
 ティエナもまた応じるように黒い刃を増やす。彼女にとっては指先を動かすような程度で操れる攻撃系の心機述構(グリモワルアート)であり、ただ打ち合うだけならば彼女の敵ではない。
 だが、アートをぶつけ合う戦闘の場合は形状や属性の違いこそあれどオーファクトによって生成した特殊なエネルギー同士の干渉合戦でもある。既存の物理法則や化学変化がそのまま適応されるわけではない。
 ティエナの操る黒い刃は鞭のようにしなり、剣のような鋭い刃を備えた近、中距離を想定した単純なアートである。デューテのサンダーテイルも似たような性質を持つが、こちらは電撃による痺れや火傷などといった副次的な効果による行動の阻害を主軸に置いたものだ。
 生物には非常に効果的だろう。電撃という点に関してはロボットにも効果がありそうだが打ち据えるだけでは感電効果はさほど高くはない。その点では明確にエネルギー放出系のアートよりも格段に効果は落ちる。
 ティエナとて直接触れれば無視できないダメージを食らうだろうが、広い施設内を駆け回りながら時に防御に、時に攻撃にと縦横無尽に動く黒い刃が作り出す網をデューテのサンダーテイルは突破出来なかった。

 攻防においては互角。だが、少女たちは明確に自分の不利を悟る。

(……ウェバルテインの浸食効果が通じませんか。質、構成共に互角。倍近くに数を増やしたとしても相手の雷撃を消し去るには至らない。あの小娘もまだ雷撃を増やせないとは限りませんし、どうしたものでしょうか)
(相性は最悪かー。パワーじゃ押し切れない、威力はほぼ同値、でも技術はあっちの方が上手。うーん、このまんまじゃ泥仕合になっちゃうなー)

 そう、互いの能力による相性はほぼ互角。だが、デューテをより一層不利にさせているのは置かれた立場による違いだ。
 ティエナにとっては正直なところを言えばこの施設が完全に沈黙しようとも構わない。アルセスの属する組織の意向からは多少逸れるものの、ご主人様の目的である「仲間を守る」という点は達成可能だからだ。それ故にティエナは戦闘の際に選ぶ手段に制限はない。
 対してデューテの方は未だ任務を達成できておらず、その達成には施設の正常な稼働が必要。元々機械を含め、オーファクトに使われている部品の多くは電気による異常や誤動作に弱い。彼女が全力で戦うには舞台が悪すぎたのだ。こんな場所に持ってくるのに相応しくないオーファクトのワンダラーであった事はデューテにとっては枷もいいところなのである。

 されど互いに悩む時間は許されず。
 ティエナは持って生まれた思考回路から。
 デューテは年齢に見合わぬ冷静な性格から。

(ならば――性質の違うアートの多重展開によって抑えこみますか。どこまで引き出しがあるか、その底を見極めさせてもらいましょう)
(――防戦に持ち込んでネーボルクとの合流に賭ける。ていうか、私一人じゃ勝ちの目が無いし!)

 攻めと守り。
 奇しくも反対の結論に辿り着いた少女達は再び跳躍した。
 広く高い天井近く――遮るもののない場で舞う金と白の少女の舞踏はまだ始まったばかりだった。

 
砂糖「チマチマ仕事入れるくらいなら思い切り休ませろよ!」
シナリオ「無理」

※ 次回の更新は1月12日です。
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